<11月下旬からときおり報じられている高病原性鳥インフルエンザの発生が、次第に深刻な事態になりつつある。野鳥を媒介とした感染により、日本はもとより韓国では過去最悪の被害に拡大し、卵が入手困難になり始めている>
11月14日、鹿児島県出水市で採取された野鳥のねぐらの水から高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N6亜型)が見つかったことが、鹿児島大学から発表された。これをはじまりとして、21日には秋田県で死亡したコクチョウ2羽、鳥取県で採取されたコガモの糞便から陽性反応が確認され、環境庁は野鳥サーベイランスにおける全国の対応レベルを最高レベルである「レベル3」に引き上げた。
その1週間後、11月28日に青森県青森市で家きんとしては今年度国内初の高病原性鳥インフルエンザが発生、その後29日新潟県関川村、30日新潟県上越市、12月2日青森県青森市と、立て続けに感染が拡大した。また16日北海道清水町、19日宮崎県川南町で疑似患畜が確認されて、現在検査中となっている。これまでに家きんでは青森県のあひる農家2軒(合計約65,000羽)、新潟県の養鶏場2軒(約550,000羽)でいったん感染は治まっているが、野鳥では現在感染の検査中のものも含めて13道県113例が感染として報告されている。
この冬の日本国内の高病原性鳥インフルエンザ発生状況(12月20日0時時点 農林水産省の資料より)
鳥インフルエンザは鳥=鳥間で感染するA型インフルエンザの総称。水鳥では感染しても発症しないが、鶏やアヒル、七面鳥などの家きんが感染すると発症し、食欲を失い、呼吸器障害や下痢などを起こして元気が無くなり高い確率で死亡する。基本的には極めて稀な例をのぞき、鳥から人間への感染はないとされているが、人間の体内でヒトインフルエンザウイルスと交じることで人同士での感染能力をもつウイルスが生まれるおそれが指摘されており、WHOもこうした形で爆発的感染の恐れを指摘している。
それだけに日本でも家きん農家を中心に、冬場に野鳥やネズミなどが飼養農場に侵入しないよう防護柵を設けるなどの対策をしているが、土や埃などまで完璧に外界と遮断することは難しいため、毎年散発的に家きんの感染が発生しているのが現状だ。
韓国での殺処分のようす MBCニュースより
韓国は行政の対策偽装などで過去最悪の事態に
海を挟んだ隣の韓国では、さらに事態は深刻で、今年高病原性鳥インフルエンザが確認された11月以降、野鳥の感染が25件、家きんでの感染が208件確認されている。これまで378を超える飼養農場で1,991万9,000羽が殺処分された。これは1400万羽が殺処分された2014年を抜き、韓国の全家きんの10%以上にあたり過去最悪の記録となっている。しかも2年前のときには100日間かけて感染が拡大したものに対して、今年はわずか1カ月あまりでここまで拡大しており、今後もさらに被害が増えるものとみれている。
これをうけて韓国政府は16日警戒レベルを史上初めて、最も高い「深刻」レベルに引き上げた。
ここまで拡大が広がったのには、防疫体制に問題があるからだと韓国MBCが伝えている。高病原性鳥インフルエンザが確認された飼養農場の3キロ位内には拠点消毒施設を必ず設置しなければいけないのに、一部の自治体は設置をしなかったり、書類上、防疫対策本部を設置したと虚偽報告をしている例もみられたという。また、感染発生地域に出入りする車両についても、入るときと出るときの2度消毒施設を通らなければいけないというルールも徹底されていなかったという。消毒施設自体も24時間体制で稼働させるべきものを、自動車の交通量が少ない深夜には稼働していない例もみられた。
また政府の動きも日本に比べると遅かったことも指摘されている。日本では先月29日夜9時に新潟県で感染判定が下され、その2時間後には首相官邸に対策室を設置。翌4時37分には自衛隊が殺処分作業に動員されたが、韓国では感染が確認されて5日後に関係省庁の次官会議が開催されるという状態だった。
家きんの10%以上が殺処分となった韓国では、家きん農家だけでなく社会的にも大きな影響が出ている。一番大きな問題は卵が入手困難になっているということだ。卸売り価格が2.5倍に、小売りのスーパーなどでは1人1パックだけという販売制限も行われている。また、韓国の国民食キンパ(韓国海苔巻き)では卵の使用量を減らしたり、大型のベーカリーでは従業員全員が個人的に卵を買って材料を調達するなどしている。菓子メーカーなどは毎日取引先に電話をかけて卵の確保につとめているが、それでも通常の半分にも満たないため、「このままでは日本から粉末卵を輸入するしかない」と語っている。
一方、日本でも影響が出ているところがある。例年ならばはこの時期、動物園などで干支の引き継ぎ式などが行われるが、来年は奇しくも干支が酉年。今年は多くの施設でイベントを中止したり、鳥舎を閉鎖したり、野生の水鳥が立ち寄らないように池の水を抜くなどして対応している。
この冬アジアでは日本、韓国のほか、インド、香港、台湾などで高病原性鳥インフルエンザの感染が確認されており、このうち香港では人への感染も確認された。これからも関係者にとっては緊張の日々が続きそうだ。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
11月14日、鹿児島県出水市で採取された野鳥のねぐらの水から高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N6亜型)が見つかったことが、鹿児島大学から発表された。これをはじまりとして、21日には秋田県で死亡したコクチョウ2羽、鳥取県で採取されたコガモの糞便から陽性反応が確認され、環境庁は野鳥サーベイランスにおける全国の対応レベルを最高レベルである「レベル3」に引き上げた。
その1週間後、11月28日に青森県青森市で家きんとしては今年度国内初の高病原性鳥インフルエンザが発生、その後29日新潟県関川村、30日新潟県上越市、12月2日青森県青森市と、立て続けに感染が拡大した。また16日北海道清水町、19日宮崎県川南町で疑似患畜が確認されて、現在検査中となっている。これまでに家きんでは青森県のあひる農家2軒(合計約65,000羽)、新潟県の養鶏場2軒(約550,000羽)でいったん感染は治まっているが、野鳥では現在感染の検査中のものも含めて13道県113例が感染として報告されている。
この冬の日本国内の高病原性鳥インフルエンザ発生状況(12月20日0時時点 農林水産省の資料より)
鳥インフルエンザは鳥=鳥間で感染するA型インフルエンザの総称。水鳥では感染しても発症しないが、鶏やアヒル、七面鳥などの家きんが感染すると発症し、食欲を失い、呼吸器障害や下痢などを起こして元気が無くなり高い確率で死亡する。基本的には極めて稀な例をのぞき、鳥から人間への感染はないとされているが、人間の体内でヒトインフルエンザウイルスと交じることで人同士での感染能力をもつウイルスが生まれるおそれが指摘されており、WHOもこうした形で爆発的感染の恐れを指摘している。
それだけに日本でも家きん農家を中心に、冬場に野鳥やネズミなどが飼養農場に侵入しないよう防護柵を設けるなどの対策をしているが、土や埃などまで完璧に外界と遮断することは難しいため、毎年散発的に家きんの感染が発生しているのが現状だ。
韓国での殺処分のようす MBCニュースより
韓国は行政の対策偽装などで過去最悪の事態に
海を挟んだ隣の韓国では、さらに事態は深刻で、今年高病原性鳥インフルエンザが確認された11月以降、野鳥の感染が25件、家きんでの感染が208件確認されている。これまで378を超える飼養農場で1,991万9,000羽が殺処分された。これは1400万羽が殺処分された2014年を抜き、韓国の全家きんの10%以上にあたり過去最悪の記録となっている。しかも2年前のときには100日間かけて感染が拡大したものに対して、今年はわずか1カ月あまりでここまで拡大しており、今後もさらに被害が増えるものとみれている。
これをうけて韓国政府は16日警戒レベルを史上初めて、最も高い「深刻」レベルに引き上げた。
ここまで拡大が広がったのには、防疫体制に問題があるからだと韓国MBCが伝えている。高病原性鳥インフルエンザが確認された飼養農場の3キロ位内には拠点消毒施設を必ず設置しなければいけないのに、一部の自治体は設置をしなかったり、書類上、防疫対策本部を設置したと虚偽報告をしている例もみられたという。また、感染発生地域に出入りする車両についても、入るときと出るときの2度消毒施設を通らなければいけないというルールも徹底されていなかったという。消毒施設自体も24時間体制で稼働させるべきものを、自動車の交通量が少ない深夜には稼働していない例もみられた。
また政府の動きも日本に比べると遅かったことも指摘されている。日本では先月29日夜9時に新潟県で感染判定が下され、その2時間後には首相官邸に対策室を設置。翌4時37分には自衛隊が殺処分作業に動員されたが、韓国では感染が確認されて5日後に関係省庁の次官会議が開催されるという状態だった。
家きんの10%以上が殺処分となった韓国では、家きん農家だけでなく社会的にも大きな影響が出ている。一番大きな問題は卵が入手困難になっているということだ。卸売り価格が2.5倍に、小売りのスーパーなどでは1人1パックだけという販売制限も行われている。また、韓国の国民食キンパ(韓国海苔巻き)では卵の使用量を減らしたり、大型のベーカリーでは従業員全員が個人的に卵を買って材料を調達するなどしている。菓子メーカーなどは毎日取引先に電話をかけて卵の確保につとめているが、それでも通常の半分にも満たないため、「このままでは日本から粉末卵を輸入するしかない」と語っている。
一方、日本でも影響が出ているところがある。例年ならばはこの時期、動物園などで干支の引き継ぎ式などが行われるが、来年は奇しくも干支が酉年。今年は多くの施設でイベントを中止したり、鳥舎を閉鎖したり、野生の水鳥が立ち寄らないように池の水を抜くなどして対応している。
この冬アジアでは日本、韓国のほか、インド、香港、台湾などで高病原性鳥インフルエンザの感染が確認されており、このうち香港では人への感染も確認された。これからも関係者にとっては緊張の日々が続きそうだ。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部