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「アレッポの惨劇」を招いた欧米の重い罪

ニューズウィーク日本版 2016年12月22日 10時40分

<アレッポで破壊と惨劇が次々と報告されていたのに、無関心を通した国際社会の姿勢は、恥ずべき行為して歴史に刻まれるだろう>(写真:避難する民間人や反体制派を待つバスの車列)

 シリア北部の要衝アレッポは、独裁者アサド大統領に忠誠を誓う政府軍の手でほぼ制圧された。ネットには、ここで繰り広げられた破壊と惨劇が次々と報告されている。それでも欧米は何の行動も起こさない。この国際社会の無関心は、恥ずべき行為として歴史に刻まれるだろう。

 穏健民主派の反政府勢力は主要拠点を失ったが、まだ目標を断念したわけではない。彼らはアサド政権の追放に加え、外国勢力、特にイランと親イラン勢力の影響力排除も目指している。

 シリアの今後を考える上で、重要なのは原点に戻ることだ。6年近い内戦の当初は、反体制派の攻勢でアサド政権は崩壊寸前に見えた。民衆蜂起と政府の抑圧の「直接対決」は、民衆が勝利を収めたのだ。

【参考記事】昨日起こったテロすべての源流はアレッポにある

 戦況が変わったのは、外国の親アサド勢力が紛争に直接介入してからだ。政府軍への武器や物資の支援に始まり、やがてイラン革命防衛隊とレバノンのヒズボラなどのシーア派武装組織、傭兵部隊が戦闘に加わった。

 真の分岐点になったのは、ロシアの動きだった。アサド政権への財政支援や物資供与に加え、ロシアは反体制派への空爆を開始。それもテロ組織ISIS(自称イスラム国)ではなく、穏健派を狙い撃ちした。

 ロシアに軍事介入を決断させたのはイランだ。空爆開始の少し前、革命防衛隊のクッズ部隊を率いるカッサム・スレイマニがモスクワを訪れ、シリアの将来の構想を話し合っていた。

 スレイマニの訪ロは明らかな国連決議違反だ。この人物はテロ行為への関与と支援を理由に国連の制裁対象に指定され、外国への渡航を禁止されている。それを黙認した欧米諸国は、イランとロシアにシリア問題の白紙委任状を渡したに等しい。

今こそ沈黙を破るときだ

 イランの反体制組織ムジャヒディン・ハルクはアレッポ陥落のずっと前に、革命防衛隊がアレッポ近郊に司令部を置いていると報告していた。ここにはヒズボラの司令部もあり、政府軍の兵士もいた。組織的な人道犯罪を実行した勢力の正体を暴く重要な報告だ。



 欧米の自由な民主主義国家が、恐るべき人道危機を手をこまねいて見ている――考えただけでもぞっとする話だ。適切な行動を取っていれば、イランの介入を食い止めることができた。

 だが、欧米はスレイマニの訪ロもイランの戦闘参加も、見て見ぬふりをした。それどころか、シリアの将来を話し合う会議へのイランの参加を認めた。これでは介入に褒美を与えたようなものだ。

 無関心と無反応は犯罪者を増長させるだけ、というのが歴史の教訓だ。88年夏、ムジャヒディン・ハルクの活動家を中心とする政治犯3万人がイラン全土で処刑された。これに対する欧米の反応は、完全な沈黙だった。この沈黙で利益を得たイラン人の多くが、ロシアと手を組んでアレッポの虐殺を主導しているのだ。

【参考記事】アレッポ陥落、オバマは何を間違えたのか?

 シリアの現状は欧米の責任だ。過去の恥ずべき誤りを埋め合わせるための時間は残り少ない。それでも、シリアでの蛮行は重大な経済的・政治的結果を招くと、イランに思い知らせることはまだ可能だ。内戦の原点、つまり民衆の意思と孤立した独裁者の対決という構図に立ち戻ることも不可能ではない。

 国際社会は国際刑事裁判所や戦争犯罪法廷を動かすことで、イランとロシアにストップをかけられる。今こそ沈黙を破って声を上げるときだ。さもなければ、歴史の厳しい審判を受けることになる。

[2016.12.27号掲載]
ジュリオ・テルツィ(元イタリア外相)

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