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ロシア大使射殺はCIAの仕業か?

ニューズウィーク日本版 2016年12月22日 15時40分

<アンカラでのロシア大使暗殺は、アレッポの住民避難で手を組んだロシアとトルコの仲を裂くための欧米の陰謀だった?>

 CIAと「欧米同盟」の仕業だ――トルコの首都アンカラで19日夜、トルコ駐在のロシア大使アンドレイ・カルロフが射殺された事件で、トルコ政府寄りの新聞はこぞって欧米の陰謀説を主張し始めた。根拠は、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領がいずれも、事件直後の声明で「これは挑発だ」と宣言したこと。シリア和平、とりわけアレッポ市民の避難でロシアとトルコが手を組んだことに不満を持つ勢力の仕業だというのだ。「暗殺を命じた首謀者を突き止める必要がある」と、プーチンは声明で述べた。

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犯人の警官は「欧米の回し者」

 トルコ国民の間では、アレッポでの凄まじい人道危機を招いたプーチンに怒りが高まっている。先週にはイスタンブールのロシア領事館前で大規模な抗議デモがあったばかりだ。こうした中、トルコの有力紙は大使暗殺に飛びつくように、国民の怒りを欧米に向けて、ロシアに急接近するエルドアンに世論の支持をとりつけようとした。政府寄りのイェニ・シャファク紙とイェニ・ソズ紙は露骨にCIAを黒幕呼ばわりし、タクビム紙は大使を射殺した非番の警察官メウリュト・メルト・アルトゥンタシュを「欧米同盟」の「回し者」と呼んだ。イェニ・シャファク紙は、トルコ脱退が取り沙汰されているNATOの陰謀説を仄めかすため、ロシア上院・防衛安全保障委員会のフランツ・クリンツェビッチ副委員長のコメントを引用した。「NATOの諜報機関の工作員が事件の背後で糸を引いた疑いが濃厚だ。これはまさしく挑発であり、ロシアに対する挑戦だ」

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【参考記事】ロシアの駐トルコ大使殺害で懸念される5つの衝突コース

 アメリカに逃れているイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師と暗殺事件を結び付ける報道も相次いでいる。ギュレン師はエルドアンの政敵で、今年7月にトルコで起きたクーデター未遂事件の首謀者とされ、トルコ政府がアメリカに身柄引き渡しを求めている。トルコ当局はクーデター未遂事件以前と以後に起きた多数の犯罪を「フェト」(「フェトフッラーのテロ組織」の略)の犯行と決めつけている。射殺犯のアルトゥンタシュの名はトルコの情報機関の「フェト」容疑者リストには入っていないが、サバー、アクサム、スターなどトルコ各紙はアルトゥンタシュがギュレン師の影響下にあったと報じている。

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 一方、トルコのソーシャルメディアでは、暗殺事件についてさまざまな意見が飛び交っている。クーデター未遂後、エルドアンは人権弾圧を非難する欧米に背を向け、ロシアにすり寄ってきた。エルドアンの親ロシア路線に対し、国内世論の評価は真っ二つに割れている。エルドアンの支持者たちはツイッター上で「ロシアを愛するトルコ人」のハッシュタグ付きでロシア大使暗殺に怒りを表明。一方で宗教的なナショナリストはアルトゥンタシュを「殉教者」に祀り上げ、彼のために葬儀礼拝を行うよう呼び掛けた。

 大使暗殺でプーチンとエルドアンの関係は悪化するどころか、「欧米の挑発」に対して、今以上に結び付きを深めると、多くのアナリストが見ている。だがトルコ人の多数を占めるイスラム教スンニ派はアレッポの惨状を見て反プーチン感情を募らせており、エルドアンの親ロ路線は国内での世論離反のリスクをはらむ。



アレブ・スコット

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