<中国の輸入品に関税45%をかけるというトランプの強硬策が、見込みどおりの結果が得られない4つの理由>(写真:アメリカの労働者保護を訴えるトランプの政策は裏目に?)
トランプ次期米大統領はまだ就任しないうちから、中国政府の怒りを買っている。今月初めに台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談を実施したからだ。「1つの中国」という原則を破る姿勢を見せつけた。
この会談は、来年1月の大統領就任を機に、オバマ政権が取ってきたアジア重視政策が転換されることの前兆かもしれない。特に、中国との関係は敵対的になっていく可能性がある。「中国から雇用を取り戻す」といった経済政策に関しては、トランプのやり方が裏目に出る恐れがありそうだ。
次期大統領がホワイトハウス入りする前に、他国の首脳と連絡を取った例はトランプ以外に知られていない。アメリカにとって最も慎重さを要する外交政策に関わるとなればなおさらだ。79年の米台断交以来、次期を含む米大統領と台湾総統が公に接触するのは初めてだった。
【参考記事】トランプ最大のアキレス腱「利益相反」問題に解決策はあるのか
蔡とのやりとりについてトランプの政権移行チームは、台湾側から「事前の予告もなく」大統領選勝利を祝う電話がかかってきたのに応えただけだと弁明。特に深い意味はなかったと説明し、国内ではおおむね、トランプの不手際と受け止められた。
だが数日後、それは準備されたものだったことが明らかになった。蔡とトランプの電話会談を水面下で画策したのは、大統領選への出馬経験があり、親台湾派のロビイストとして知られる共和党の重鎮、ボブ・ドール元上院議員だったという。つまりあの電話は中国を敵に回して、動揺を与える狙いが初めからあったと考えられる。米中関係がこれから変化する兆候とみていいだろう。
トランプが転換するであろう対中政策には、中国が威圧的に領有権を主張する南シナ海問題などの安全保障政策も含まれる。だが主眼とされているのは経済政策で、特に2国間貿易だ。しかしこの問題で公約を実現しようとすれば、トランプは失敗することになる。
国際社会は中国の味方に
トランプは選挙戦で、中国からの輸入品に一律45%の関税をかけると表明している。だが一国に対して、ましてや世界有数の経済大国を相手にこれほどの関税を導入するとなれば前代未聞だ。
それより重要なのは、仮にそうした政策を実現できたとしても、トランプが望むような結果は得られないことだ。なぜか。
まず第1に、トランプが雇用を守ると言っているアメリカの労働者は、消費者でもある。輸入品の関税が高くなれば、彼らも物価上昇に苦しめられることになる。
次に、中国に拠点を置くアメリカ企業の子会社は、アメリカへの主要な輸出業者だ。関税を上げれば、それは実質的に増税を意味し、アメリカ企業の競争力を高めるというトランプの狙いもくじかれる。
第3に、トランプの主張は、中国からの輸入品に高関税をかければ、アメリカ企業は生産拠点を中国から国内に戻すはずだという考えに基づいている。しかしこうした企業の大半は、短期的な利益予測に基づいて投資をすることはない。
企業がアメリカに戻ってこないばかりか、正反対の結果を生む恐れもある。国内市場での販売に高関税をかけられるなら、それほど多額の「税金」を払わなくて済む第三国の市場で商品を販売しようという動きにつながるかもしれない。
【参考記事】次期米国防長官の異名を「狂犬」にした日本メディアの誤訳
最後に、中国が報復しない保証はどこにもない。向こうがアメリカ企業とその製品に同じように高率の関税をかけてくると考えないのは甘過ぎる。過去にもそうした例はあるし、今回そうした事態になれば理は中国にあり、国際社会も中国の肩を持つだろう。さらに悪いことに、中国で商売をしているアメリカのライバル国に付け入る隙を与えることにもなる。
トランプが対中国で強硬な貿易政策に着手しようとしても、当のアメリカの企業と消費者から強い反発を受けて、もう一度「転換」することを余儀なくされるはずだ。
[2016.12.27号掲載]
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト)
トランプ次期米大統領はまだ就任しないうちから、中国政府の怒りを買っている。今月初めに台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談を実施したからだ。「1つの中国」という原則を破る姿勢を見せつけた。
この会談は、来年1月の大統領就任を機に、オバマ政権が取ってきたアジア重視政策が転換されることの前兆かもしれない。特に、中国との関係は敵対的になっていく可能性がある。「中国から雇用を取り戻す」といった経済政策に関しては、トランプのやり方が裏目に出る恐れがありそうだ。
次期大統領がホワイトハウス入りする前に、他国の首脳と連絡を取った例はトランプ以外に知られていない。アメリカにとって最も慎重さを要する外交政策に関わるとなればなおさらだ。79年の米台断交以来、次期を含む米大統領と台湾総統が公に接触するのは初めてだった。
【参考記事】トランプ最大のアキレス腱「利益相反」問題に解決策はあるのか
蔡とのやりとりについてトランプの政権移行チームは、台湾側から「事前の予告もなく」大統領選勝利を祝う電話がかかってきたのに応えただけだと弁明。特に深い意味はなかったと説明し、国内ではおおむね、トランプの不手際と受け止められた。
だが数日後、それは準備されたものだったことが明らかになった。蔡とトランプの電話会談を水面下で画策したのは、大統領選への出馬経験があり、親台湾派のロビイストとして知られる共和党の重鎮、ボブ・ドール元上院議員だったという。つまりあの電話は中国を敵に回して、動揺を与える狙いが初めからあったと考えられる。米中関係がこれから変化する兆候とみていいだろう。
トランプが転換するであろう対中政策には、中国が威圧的に領有権を主張する南シナ海問題などの安全保障政策も含まれる。だが主眼とされているのは経済政策で、特に2国間貿易だ。しかしこの問題で公約を実現しようとすれば、トランプは失敗することになる。
国際社会は中国の味方に
トランプは選挙戦で、中国からの輸入品に一律45%の関税をかけると表明している。だが一国に対して、ましてや世界有数の経済大国を相手にこれほどの関税を導入するとなれば前代未聞だ。
それより重要なのは、仮にそうした政策を実現できたとしても、トランプが望むような結果は得られないことだ。なぜか。
まず第1に、トランプが雇用を守ると言っているアメリカの労働者は、消費者でもある。輸入品の関税が高くなれば、彼らも物価上昇に苦しめられることになる。
次に、中国に拠点を置くアメリカ企業の子会社は、アメリカへの主要な輸出業者だ。関税を上げれば、それは実質的に増税を意味し、アメリカ企業の競争力を高めるというトランプの狙いもくじかれる。
第3に、トランプの主張は、中国からの輸入品に高関税をかければ、アメリカ企業は生産拠点を中国から国内に戻すはずだという考えに基づいている。しかしこうした企業の大半は、短期的な利益予測に基づいて投資をすることはない。
企業がアメリカに戻ってこないばかりか、正反対の結果を生む恐れもある。国内市場での販売に高関税をかけられるなら、それほど多額の「税金」を払わなくて済む第三国の市場で商品を販売しようという動きにつながるかもしれない。
【参考記事】次期米国防長官の異名を「狂犬」にした日本メディアの誤訳
最後に、中国が報復しない保証はどこにもない。向こうがアメリカ企業とその製品に同じように高率の関税をかけてくると考えないのは甘過ぎる。過去にもそうした例はあるし、今回そうした事態になれば理は中国にあり、国際社会も中国の肩を持つだろう。さらに悪いことに、中国で商売をしているアメリカのライバル国に付け入る隙を与えることにもなる。
トランプが対中国で強硬な貿易政策に着手しようとしても、当のアメリカの企業と消費者から強い反発を受けて、もう一度「転換」することを余儀なくされるはずだ。
[2016.12.27号掲載]
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト)