<未婚・晩婚が社会問題化している。30~40代の独身男性から悩み相談を受けてきた人間関係コンサルタントの木村隆志氏によれば、趣味を持つのはよいが、突然趣味を失って過大なショックを受けないよう"分散化"が必要だという>
未婚・晩婚は、日本社会を物語るキーワードとなった。結婚するか否かは個々人の選択であるにもかかわらず、日本の人口減少とも関わることから、社会問題と化している。高い生涯未婚率がニュースとなり、いまや自治体が婚活を支援する時代だ。
これまでに5000人を超える30~40代の独身男性から悩み相談を受けてきたという人間関係コンサルタント/コラムニストの木村隆志氏は、新刊『独身40男の歩き方』(CCCメディアハウス)でリアルなエピソードと具体的なノウハウを紹介。約260万人に上る日本の40代独身男性に向けて、人生を充実させるためのさまざまなヒントを提供している(目次はこちら)。
「これから恋愛・結婚をするもしないも『自由』。仕事、趣味、友人関係のどれに重点を置くかも『自由』。お金の使い方もファッションの選び方も、健康に対するスタンスも『自由』。そんな独身だから得られる数々の自由がある中で、どんな選択をしていくのか?」と、木村氏は「はじめに」で問いかける。
ここでは本書から一部を抜粋し、5回に分けて掲載する。第3回は「第5章 趣味とお金」より。
『独身40男の歩き方』
木村隆志 著
CCCメディアハウス
※シリーズ第1回:40代未婚、不意に夢や子どもをあきらめる瞬間が訪れたら?
※シリーズ第2回:40代独身男性はスーツをどのように着ればダサくないか
◇ ◇ ◇
運営コミュニティを荒らされる、アイドルの熱愛発覚、ペットロス......。突然、生きがいを失ってしまう
趣味=生きがい。あるいは、趣味=働く意味。
「仕事が趣味」という人も含めて、40代の独身男性は、とにかく趣味に対する思い入れが強く、生きがいとしてとらえる傾向が強い。それだけに、趣味を楽しめなくなることへの免疫力は想像以上に低く、ただただ打ちひしがれてしまう。
「俺はそんな風にならない」と思っているかもしれないが、はたして本当にそうだろうか。少なくとも、多くの40代男性から相談を受けてきた私は、あなたに「楽観視しないほうがいいよ」と言っておきたいと思う。参考になりそうな3人のエピソードを挙げてみよう。
ハイヤー運転手の啓吾さん(45歳)は、あるSNSで競馬コミュニティの管理人を務めている。軽い気持ちではじめたものの、参加メンバーはわずか半年間で500人を突破。啓吾さんは楽しさとやりがいを感じて、毎日メンバーとコミュニケーションを取り合っていた。
しかし、ある日、啓吾さんの何気ない発言に、批判のコメントやダイレクトメッセージが殺到。「管理人を降りろ!」というコメントや、「管理人変更を希望」というトピックが立てられるなど、追い込まれた啓吾さんはコミュニティどころかSNSのアカウントを抹消してしまった。
【参考記事】未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会
郵便局員の裕也さん(41歳)は、あるアイドルを応援し、給料の大半をライブやCDに使い、SNSの書き込みを熱心に行うことが生活の中心になっていた。
しかし、ある週刊誌にそのアイドルの熱愛スキャンダルが掲載されてしまう。「ファンを裏切るようなことはしない」「結婚するまでそういうことはしません」というアイドルの言葉を信じていた裕也さんは、気持ちの整理がつかず、仕事をズル休みするほどふさぎ込んでしまった。
IT企業に務める康史さん(43歳)の趣味は、ペットの猫。毎日動画を撮影してネットにアップするほか、愛猫家のグループにも参加して交流を重ねていた。
しかし、突然愛する猫が家を出て行方不明になり、康史さんはパニック状態に。ネットの掲示板や探偵を利用するなど、必死で探したが、何か月たっても見つからない。「猫は死にそうなとき自ら姿を消す」という都市伝説を信じるほど憔悴し、愛猫がいなくなった事実を受け入れられず苦しんでいた。
3人のようなケース以外にも、「ケガでスポーツを断念した」「追いかけていたアーティストが解散した」「病気で料理やお酒が楽しめなくなった」など、突然趣味を失ってショックを受ける40〜50代の男性は多い。彼らの心境は、「生きがいを奪われた」「聖域を荒らされた」。しかも、ただ、ショックを受けるだけでなく、仕事のストレスを軽減できなくなった分、うつ状態になる人すらいるのだ。
40代の独身男性が喪失感を抱えたまま、今後数十年の人生を生きるのは、みなさんの想像以上に辛いだけに、すぐにでも手を打ったほうがいいだろう。
まずみなさんに覚えておいてほしいのは、「"生きがい"や"聖域"という感覚は、思い込みであり、行き過ぎている」こと。もともと、「ただ続けていただけ」のものにすぎず、実際「以前、生きがいや聖域だと思っていたものが、そうでないことに気づいた」という経験はないだろうか。第三者には、「あんなにハマっているのは今だけなんだろうな」と見えるし、そもそも衣食住それぞれに関わるさまざまな物がある中で、生きがいや聖域が1つだけであるはずがない。
その観点から最大の処方箋になるのは、175ページに書いた"趣味の分散"理論。趣味を1つに集中させてしまうから思い入れが強くなりすぎ、依存してしまうわけであって、いい意味で気持ちを分散させれば、喪失感は限定的であり、自分でコントロールできる。こだわりやプライドではなく、割り切りも含めて考えなければ、残りの人生を笑顔で生き抜いていけないのだ。
さらに、ひとつの趣味の中で分散するのもあり。たとえば、運営コミュニティを荒らされても「僕にはまだ別のコミュニティがある」と思えればいいし、アイドルに裏切られる前に2、3人目の推しメンを作っておけばいいし、ペットロスになる前に他のペットも飼っておけばいい。もっと言うなら、キャバ嬢にハマるなら1人でなく3〜4人に分散しておいたほうがいいし、1人が店を辞めたら、また別の1人を見つければいいだろう。当然ながら、別ジャンルの趣味をいくつか作っておくのもOKだ。
ポイントは、「失ったあとに代わりの何かを用意して埋める」のではなく、「失ったときにダメージが少ないように、あらかじめ気持ちを分散させておく」こと。年齢を重ねるほど大きなものを失ったときのリカバリーが難しく、なかなか埋まらないのだ。
また、「かわいさ余って憎さ百倍」と言うように、「コイツに裏切られた」と何かを憎むと、負の感情が心の中にずっと残ってしまう。愛情と憎しみは紙一重であり、人も物も特定の何かへの愛情が強いほど、憎しみに転化しやすく、消えにくい。ただでさえ独身で孤独を抱えているのだから、憎しみまで抱えて生きていくことほど悲しいものはない。すなわち、どんな人や物に対しても、強烈な愛情を抱きすぎないことが、穏やかで楽しい日々を作っていくのだ。
あるいは、自分に誇りを持てる趣味を1つ持っておくのもおすすめ。たとえば、NPO活動やボランティアのようなピュアなものは、独身者のプライドを満たし、生きる意味の1つにもなりうる。あくまで趣味という以上、楽しめるものが前提だが、「これまでの人生で培ってきたスキルや経験を生かせる」という充実感は何物にも代えがたい。さらに、「人の役に立てている」「生きている価値のある人間だ」という自己肯定感が、他の趣味を突然失ったときのショックをやわらげてくれるだろう。
.........ピュアな趣味を持っていれば、喪失感なんて怖くない
※シリーズ第4回:独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間違い
『独身40男の歩き方』
木村隆志 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
未婚・晩婚は、日本社会を物語るキーワードとなった。結婚するか否かは個々人の選択であるにもかかわらず、日本の人口減少とも関わることから、社会問題と化している。高い生涯未婚率がニュースとなり、いまや自治体が婚活を支援する時代だ。
これまでに5000人を超える30~40代の独身男性から悩み相談を受けてきたという人間関係コンサルタント/コラムニストの木村隆志氏は、新刊『独身40男の歩き方』(CCCメディアハウス)でリアルなエピソードと具体的なノウハウを紹介。約260万人に上る日本の40代独身男性に向けて、人生を充実させるためのさまざまなヒントを提供している(目次はこちら)。
「これから恋愛・結婚をするもしないも『自由』。仕事、趣味、友人関係のどれに重点を置くかも『自由』。お金の使い方もファッションの選び方も、健康に対するスタンスも『自由』。そんな独身だから得られる数々の自由がある中で、どんな選択をしていくのか?」と、木村氏は「はじめに」で問いかける。
ここでは本書から一部を抜粋し、5回に分けて掲載する。第3回は「第5章 趣味とお金」より。
『独身40男の歩き方』
木村隆志 著
CCCメディアハウス
※シリーズ第1回:40代未婚、不意に夢や子どもをあきらめる瞬間が訪れたら?
※シリーズ第2回:40代独身男性はスーツをどのように着ればダサくないか
◇ ◇ ◇
運営コミュニティを荒らされる、アイドルの熱愛発覚、ペットロス......。突然、生きがいを失ってしまう
趣味=生きがい。あるいは、趣味=働く意味。
「仕事が趣味」という人も含めて、40代の独身男性は、とにかく趣味に対する思い入れが強く、生きがいとしてとらえる傾向が強い。それだけに、趣味を楽しめなくなることへの免疫力は想像以上に低く、ただただ打ちひしがれてしまう。
「俺はそんな風にならない」と思っているかもしれないが、はたして本当にそうだろうか。少なくとも、多くの40代男性から相談を受けてきた私は、あなたに「楽観視しないほうがいいよ」と言っておきたいと思う。参考になりそうな3人のエピソードを挙げてみよう。
ハイヤー運転手の啓吾さん(45歳)は、あるSNSで競馬コミュニティの管理人を務めている。軽い気持ちではじめたものの、参加メンバーはわずか半年間で500人を突破。啓吾さんは楽しさとやりがいを感じて、毎日メンバーとコミュニケーションを取り合っていた。
しかし、ある日、啓吾さんの何気ない発言に、批判のコメントやダイレクトメッセージが殺到。「管理人を降りろ!」というコメントや、「管理人変更を希望」というトピックが立てられるなど、追い込まれた啓吾さんはコミュニティどころかSNSのアカウントを抹消してしまった。
【参考記事】未婚男性の「不幸」感が突出して高い日本社会
郵便局員の裕也さん(41歳)は、あるアイドルを応援し、給料の大半をライブやCDに使い、SNSの書き込みを熱心に行うことが生活の中心になっていた。
しかし、ある週刊誌にそのアイドルの熱愛スキャンダルが掲載されてしまう。「ファンを裏切るようなことはしない」「結婚するまでそういうことはしません」というアイドルの言葉を信じていた裕也さんは、気持ちの整理がつかず、仕事をズル休みするほどふさぎ込んでしまった。
IT企業に務める康史さん(43歳)の趣味は、ペットの猫。毎日動画を撮影してネットにアップするほか、愛猫家のグループにも参加して交流を重ねていた。
しかし、突然愛する猫が家を出て行方不明になり、康史さんはパニック状態に。ネットの掲示板や探偵を利用するなど、必死で探したが、何か月たっても見つからない。「猫は死にそうなとき自ら姿を消す」という都市伝説を信じるほど憔悴し、愛猫がいなくなった事実を受け入れられず苦しんでいた。
3人のようなケース以外にも、「ケガでスポーツを断念した」「追いかけていたアーティストが解散した」「病気で料理やお酒が楽しめなくなった」など、突然趣味を失ってショックを受ける40〜50代の男性は多い。彼らの心境は、「生きがいを奪われた」「聖域を荒らされた」。しかも、ただ、ショックを受けるだけでなく、仕事のストレスを軽減できなくなった分、うつ状態になる人すらいるのだ。
40代の独身男性が喪失感を抱えたまま、今後数十年の人生を生きるのは、みなさんの想像以上に辛いだけに、すぐにでも手を打ったほうがいいだろう。
まずみなさんに覚えておいてほしいのは、「"生きがい"や"聖域"という感覚は、思い込みであり、行き過ぎている」こと。もともと、「ただ続けていただけ」のものにすぎず、実際「以前、生きがいや聖域だと思っていたものが、そうでないことに気づいた」という経験はないだろうか。第三者には、「あんなにハマっているのは今だけなんだろうな」と見えるし、そもそも衣食住それぞれに関わるさまざまな物がある中で、生きがいや聖域が1つだけであるはずがない。
その観点から最大の処方箋になるのは、175ページに書いた"趣味の分散"理論。趣味を1つに集中させてしまうから思い入れが強くなりすぎ、依存してしまうわけであって、いい意味で気持ちを分散させれば、喪失感は限定的であり、自分でコントロールできる。こだわりやプライドではなく、割り切りも含めて考えなければ、残りの人生を笑顔で生き抜いていけないのだ。
さらに、ひとつの趣味の中で分散するのもあり。たとえば、運営コミュニティを荒らされても「僕にはまだ別のコミュニティがある」と思えればいいし、アイドルに裏切られる前に2、3人目の推しメンを作っておけばいいし、ペットロスになる前に他のペットも飼っておけばいい。もっと言うなら、キャバ嬢にハマるなら1人でなく3〜4人に分散しておいたほうがいいし、1人が店を辞めたら、また別の1人を見つければいいだろう。当然ながら、別ジャンルの趣味をいくつか作っておくのもOKだ。
ポイントは、「失ったあとに代わりの何かを用意して埋める」のではなく、「失ったときにダメージが少ないように、あらかじめ気持ちを分散させておく」こと。年齢を重ねるほど大きなものを失ったときのリカバリーが難しく、なかなか埋まらないのだ。
また、「かわいさ余って憎さ百倍」と言うように、「コイツに裏切られた」と何かを憎むと、負の感情が心の中にずっと残ってしまう。愛情と憎しみは紙一重であり、人も物も特定の何かへの愛情が強いほど、憎しみに転化しやすく、消えにくい。ただでさえ独身で孤独を抱えているのだから、憎しみまで抱えて生きていくことほど悲しいものはない。すなわち、どんな人や物に対しても、強烈な愛情を抱きすぎないことが、穏やかで楽しい日々を作っていくのだ。
あるいは、自分に誇りを持てる趣味を1つ持っておくのもおすすめ。たとえば、NPO活動やボランティアのようなピュアなものは、独身者のプライドを満たし、生きる意味の1つにもなりうる。あくまで趣味という以上、楽しめるものが前提だが、「これまでの人生で培ってきたスキルや経験を生かせる」という充実感は何物にも代えがたい。さらに、「人の役に立てている」「生きている価値のある人間だ」という自己肯定感が、他の趣味を突然失ったときのショックをやわらげてくれるだろう。
.........ピュアな趣味を持っていれば、喪失感なんて怖くない
※シリーズ第4回:独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間違い
『独身40男の歩き方』
木村隆志 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部