<イスラエルが占領地で進める入植活動の停止を求める国連安保理決議が、アメリカの棄権により成立。イスラエルのネタニヤフ政権は烈火のごとく怒り、親イスラエルを公言するトランプ政権の発足後に巻き返しを図る構え>
オバマ米政権は23日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸やガザ地区、東エルサレムなどで続く入植活動の停止を求める国連安全保理の決議案に、拒否権を行使する代わりに棄権した。イスラエルを非難する決議にアメリカが賛同するのは異例だ。ドナルド・トランプ次期米大統領が直前まで、拒否権を発動すべきだとツイッターで現職大統領に揺さぶりをかけ続けたのも、異様な光景だった。
【参考記事】米国がイスラエルの右翼と一体化する日
決議は、安保理15か国のうち14カ国が賛成し、アメリカの棄権により採択された。トランプは採択後も国連とオバマ政権に対する批判を続け、「(自分が大統領に就任する)1月20日以降は、国連も変わる」とツイッターに投稿した。
【参考記事】自分が大統領にならなければイスラエルは破壊される──トランプ
オバマ政権がイスラエル非難決議案を事実上容認したのは初めて。サマンサ・パワー米国連大使は、レーガン政権を含めた過去の共和・民主党政権でも中東和平実現を優先してきた経緯があることを引き合いに、現政権が棄権を選んだ正当性を主張した。
「1967年以降イスラエルが占領した地域で入植活動を進めることは、イスラエルの安全保障を損ない、(パレスチナとの)2国家共存の実現を危機にさらし、平和と安全に向けた期待を失わせる」と、パワーは採決後に安保理で語った。
ネタニヤフに大打撃
ホワイトハウスは、入植活動が2国家共存の実現に及ぼすリスクを強調した。ベン・ローズ大統領次席補佐官(国家安全保障担当)は会見で、最近の入植活動の「加速傾向」は「2国家解決の実現に向けた土台を損なう」と述べた。「良心に照らしても、アメリカが決議案に拒否権を行使することはできなかった」
決議案はパレスチナが起草したものをエジプトが取りまとめた。マレーシア、ニュージーランド、セネガル、ベネズエラも共同提案国となり、「2国家共存の実現を危険にさらす」占領地での入植活動を、「即座かつ完全に中止する」よう求める内容だ。東エルサレムなどの入植地の建設には「法的な正当性がなく、国際法の重大な違反」と非難した。
【参考記事】ヨルダン川西岸に入植するアメリカ人
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって、非難決議の採択は大打撃だ。採決に先立ち、ネタニヤフは唯一のアラブ諸国の非常任理事国であるエジプトに対して、22日に予定されていた採決を延期するよう圧力をかけた。イスラエル政府関係者は、トランプの政権移行チームにも働きかけ、オバマ政権に拒否権を行使させるよう迫った。
「今日は安保理にとって暗黒の日だ。たった今採択された決議案は、偽善の極みだ」と、イスラエルのダニー・ダノン国連大使は言った。決議案に賛成したことで、安保理は事実上(中東和平の)進展と交渉に反対票を投じたと主張。「反イスラエルの国連決議として、長く恥ずべきリストに加わった」と批判した。
「決議の採択は、ユダヤ人がイスラエルの地に住居を建てるのを非難する行為だ。それも歴史的な首都であり、ユダヤ人の心や魂そのものであるエルサレムの地での建設を」と彼は言った。「フランス人がパリで、ロシア人がモスクワで、アメリカ人がワシントンで自分たちの家を建てることも、国連は禁止するのか」。ダノンは安保理に対して、今後もイスラエルは民主主義のユダヤ国家であり続けると誓った。
パレスチナ国連常駐オブザーバーのリヤド・マンスールは、今回の決議がパレスチナとイスラエル、およびアラブ人とイスラエル人の間の和平に向けた数ある段階において、初期の一歩になるよう期待すると述べた。安保理に対しては、「法律に則り、正しい歴史の側に立つ」よう促した。
米政府に拒否権の発動を迫ったトランプは、来年1月の大統領就任後に従来の外交政策を「親イスラエル」に一転させるとしている。現在はテルアビブにある在イスラエル米国大使館を、イスラエルとパレスチナの両方が首都と主張するエルサレムに移すと明言し、次期イスラエル大使には、入植推進派で2国家共存に否定的なデービッド・フリードマンを指名した。
前回は拒否権を発動したのに
決議の前日に発表した声明で、トランプはこう述べた。「長年アメリカが訴えてきたように、イスラエル人とパレスチナ人の和平合意は、当事者間による直接対話を通じてしか実らない。国連が条件を押し付けるものではない」
オバマ政権は2011年には、イスラエルの入植非難決議案に拒否権を発動し、安保理で廃案に追い込んだ。当時の米国連大使だったスーザン・ライスは拒否権の行使について、アメリカがイスラエルの入植活動にお墨付きを与えたと解釈されるべきでなく、あくまで入植を「違法」とみなす米政府の立場を示した。一方で、安保理の15カ国中14カ国が賛成していた決議案は「イスラエルとパレスチナ双方の立場を硬化させ」、パレスチナ国家樹立の可能性を遠ざけるものだと主張した。
あれから5年、任期切れが迫ったオバマ政権のイスラエルに対する計算は明らかに変わった。或いはイスラエルとの関係悪化が引き金となり、オバマ政権は最後の最後に、従来ならあり得なかった外交方針への舵取りを強いられたのかもしれないが。
From Foreign Policy Magazine
コラム・リンチ、ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン
オバマ米政権は23日、イスラエルが占領するヨルダン川西岸やガザ地区、東エルサレムなどで続く入植活動の停止を求める国連安全保理の決議案に、拒否権を行使する代わりに棄権した。イスラエルを非難する決議にアメリカが賛同するのは異例だ。ドナルド・トランプ次期米大統領が直前まで、拒否権を発動すべきだとツイッターで現職大統領に揺さぶりをかけ続けたのも、異様な光景だった。
【参考記事】米国がイスラエルの右翼と一体化する日
決議は、安保理15か国のうち14カ国が賛成し、アメリカの棄権により採択された。トランプは採択後も国連とオバマ政権に対する批判を続け、「(自分が大統領に就任する)1月20日以降は、国連も変わる」とツイッターに投稿した。
【参考記事】自分が大統領にならなければイスラエルは破壊される──トランプ
オバマ政権がイスラエル非難決議案を事実上容認したのは初めて。サマンサ・パワー米国連大使は、レーガン政権を含めた過去の共和・民主党政権でも中東和平実現を優先してきた経緯があることを引き合いに、現政権が棄権を選んだ正当性を主張した。
「1967年以降イスラエルが占領した地域で入植活動を進めることは、イスラエルの安全保障を損ない、(パレスチナとの)2国家共存の実現を危機にさらし、平和と安全に向けた期待を失わせる」と、パワーは採決後に安保理で語った。
ネタニヤフに大打撃
ホワイトハウスは、入植活動が2国家共存の実現に及ぼすリスクを強調した。ベン・ローズ大統領次席補佐官(国家安全保障担当)は会見で、最近の入植活動の「加速傾向」は「2国家解決の実現に向けた土台を損なう」と述べた。「良心に照らしても、アメリカが決議案に拒否権を行使することはできなかった」
決議案はパレスチナが起草したものをエジプトが取りまとめた。マレーシア、ニュージーランド、セネガル、ベネズエラも共同提案国となり、「2国家共存の実現を危険にさらす」占領地での入植活動を、「即座かつ完全に中止する」よう求める内容だ。東エルサレムなどの入植地の建設には「法的な正当性がなく、国際法の重大な違反」と非難した。
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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって、非難決議の採択は大打撃だ。採決に先立ち、ネタニヤフは唯一のアラブ諸国の非常任理事国であるエジプトに対して、22日に予定されていた採決を延期するよう圧力をかけた。イスラエル政府関係者は、トランプの政権移行チームにも働きかけ、オバマ政権に拒否権を行使させるよう迫った。
「今日は安保理にとって暗黒の日だ。たった今採択された決議案は、偽善の極みだ」と、イスラエルのダニー・ダノン国連大使は言った。決議案に賛成したことで、安保理は事実上(中東和平の)進展と交渉に反対票を投じたと主張。「反イスラエルの国連決議として、長く恥ずべきリストに加わった」と批判した。
「決議の採択は、ユダヤ人がイスラエルの地に住居を建てるのを非難する行為だ。それも歴史的な首都であり、ユダヤ人の心や魂そのものであるエルサレムの地での建設を」と彼は言った。「フランス人がパリで、ロシア人がモスクワで、アメリカ人がワシントンで自分たちの家を建てることも、国連は禁止するのか」。ダノンは安保理に対して、今後もイスラエルは民主主義のユダヤ国家であり続けると誓った。
パレスチナ国連常駐オブザーバーのリヤド・マンスールは、今回の決議がパレスチナとイスラエル、およびアラブ人とイスラエル人の間の和平に向けた数ある段階において、初期の一歩になるよう期待すると述べた。安保理に対しては、「法律に則り、正しい歴史の側に立つ」よう促した。
米政府に拒否権の発動を迫ったトランプは、来年1月の大統領就任後に従来の外交政策を「親イスラエル」に一転させるとしている。現在はテルアビブにある在イスラエル米国大使館を、イスラエルとパレスチナの両方が首都と主張するエルサレムに移すと明言し、次期イスラエル大使には、入植推進派で2国家共存に否定的なデービッド・フリードマンを指名した。
前回は拒否権を発動したのに
決議の前日に発表した声明で、トランプはこう述べた。「長年アメリカが訴えてきたように、イスラエル人とパレスチナ人の和平合意は、当事者間による直接対話を通じてしか実らない。国連が条件を押し付けるものではない」
オバマ政権は2011年には、イスラエルの入植非難決議案に拒否権を発動し、安保理で廃案に追い込んだ。当時の米国連大使だったスーザン・ライスは拒否権の行使について、アメリカがイスラエルの入植活動にお墨付きを与えたと解釈されるべきでなく、あくまで入植を「違法」とみなす米政府の立場を示した。一方で、安保理の15カ国中14カ国が賛成していた決議案は「イスラエルとパレスチナ双方の立場を硬化させ」、パレスチナ国家樹立の可能性を遠ざけるものだと主張した。
あれから5年、任期切れが迫ったオバマ政権のイスラエルに対する計算は明らかに変わった。或いはイスラエルとの関係悪化が引き金となり、オバマ政権は最後の最後に、従来ならあり得なかった外交方針への舵取りを強いられたのかもしれないが。
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コラム・リンチ、ロビー・グレイマー、エミリー・タムキン