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イスラム教国にもあるトランプ・タワーは報復テロの格好のターゲット

ニューズウィーク日本版 2016年12月26日 20時0分

<不動産王転じて次期大統領のトランプは、世界中に多くの不動産を持っている。すべてが、警戒も厳しくないソフト・ターゲット。トランプが公に差別してきたイスラム教徒が多い国にも建っている。トランプ「大統領」の名前を冠したランドマーク的なビルが攻撃されれば、アメリカにとっても打撃は大きい>

 ドナルド・トランプ新大統領の誕生は、国土安全保障と対テロ作戦に新たな挑戦をつきつける。トランプはアメリカ中そして世界中に、不動産を所有するか名前を貸している。テロリストは、ドイツのシュトゥットガルトのトランプ・タワーから韓国のトランプ・ホテル、ドバイのトランプ・ゴルフ・リゾートまで、ターゲットは選びたい放題だ。ニューヨークのセントラル・パークにある回転木馬だって、トランプの所有物だ。テロリストにとってはおいしいターゲットだ。ホテルやリゾート施設は、大使館や空港と違って警備も厳しくない「ソフト・ターゲット」。しかもその多くが、新大統領の名前を冠している。攻撃が成功すれば、その影響は計り知れない。

【参考記事】銃乱射に便乗するトランプはテロリストの思うつぼ

 世界に散らばるトランプのビルは、アメリカにとってどれほど大きな脅威で、国としていかに対処すべきだろうか。

イスラム過激派のそばにも

 トランプが関わる不動産のリストを見れば、いくつかは極めて治安の悪い国に位置していることがわかる。例えばトルコ・イスタンブールのトランプ・タワー。建設を決めた5年か10年前には、トルコもEU加盟を目指して民主化を進めており、安全に思えただろうが、シリア内戦の余波やクーデター未遂、最近の駐トルコ・ロシア大使射殺など、とても安全とは言えなくなっている。

 当然ながら、いちばん危ないのは、イスラム教徒が多数の国にあるトランプのビルだ。フィリピン・マニラのトランプ・タワーは、ISIS(自称イスラム国)に忠誠を誓ったイスラム過激派グループ、アブサヤフの本拠からすぐ近くにある。アラブ首長国連邦やインドにあるトランプ・ビルもよく目立つ。

【参考記事】カナダ人を斬首したアジアの過激派アブサヤフとは
【参考記事】戦死したイスラム系米兵の両親が、トランプに突きつけた「アメリカの本質」

 あちこちでこうした危険に身を晒すトランプのビルは、アメリカの新たなアキレス腱になるだろう。いかに対処すべきか。一方には、アメリカ政府にこうした民間の施設を守る法的責任はない、という立場もあるだろう。だが、もしどこかのトランプ・タワーがテロリストの攻撃を受ければ、アメリカ人は米国大使館が襲われたときと同じように政府に報復を求めるだろう。



 そしておそらく最も重要なのは、大統領自身がどう反応するかだ。イスタンブールのトランプ・タワーが燃え上がり、多くの命が奪われたとき、トランプ「大統領」はどう反応するだろう。選挙戦での言動から判断すると、自分が侮辱されたかのようにむきになることが想像できる。感情に任せて極端な手段をとるかもしれない。過剰反応は、テロリストの思う壺なのだが。

 もう1つの道は、トランプが自らの持ち分を売却して、ビルの名前を変えるなど、必要な手続きをすることだ。そうすれば、これらのビルの象徴的な意味は大きく損なわる。「かつての」トランプ・タワーなら、たとえ攻撃されたとしても、トランプもさほど動揺せずに済むだろう。

 残念ながらトランプは、どんなに利益相反の可能性を指摘されても自分のビジネスを手放したがらない。自分のビルを売ったり名称変更するなどの対テロ対策も必要ないと思っているようだ。このままでは、トランプはアメリカに新たな対テロ戦争を持ち込むことになりかねない。

Tevor Thrall is a senior fellow for the Cato Institute's Defense and Foreign Policy Department.
This article first appeared in the Cato Institute site.

トレバー・スロール(米ケイトー研究所国防外交担当上級研究員)

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