<現在、世界では7000の言語が使用されているが、そのうち半数は今世紀中に消滅すると言われている>(写真:アイヌ文化を題材にしたパフォーマンス。アイヌ語は危機的状況にあると言われている)
世界で次々と「言語」が消滅している――。そう言われてもあまりピンとこないかもしれない。
だがアメリカのナショナル・ジオグラフィック誌が指摘しているように、現在、世界では「2週間に1つほどの割合で言葉が消滅している」のが事実だ。
昨年末、言語消滅に関連するニュースが続いた。12月6日、ナイジェリア言語協会はナイジェリア政府に対し、同国で少数派が使う言語50種類以上が数年内に絶滅する恐れがあると警告した。
また12月9日、アメリカのノースダコタ州でアメリカ先住民族のマンダン語の最後の使い手だった男性(85)がこの世を去った。さらにペルーのレシガロ語を話す最後の2人のうち1人が銃殺されたニュースも12月に報じられた。
【参考記事】英語による覇権は、希望か絶望か
こうしたニュースで必ず触れられるのが、世界中で言語が絶滅の危機に瀕している現状だ。それはどれほど深刻な事態なのか。
いま世界で話される言葉は、7000言語と言われる。そのうち4分の1が絶滅の危機にあり、3500の言語は使い手の数が1万人以下に減っている。そして現存する7000言語のうち半分が今世紀中に絶滅すると、多くの言語学者が指摘している。また100年以内に90%が消えるという説もある。
日本のアイヌ語や、チリのヤガン語など世界で100ほどの言語は、現状で少数の使い手しか残っておらず、危機的状況にあると言われている。
このような事態になった原因としてよく指摘されるのは、植民地化やグローバリゼーション、都市部への人の移動など。また地震などの天災で言葉の使い手が大幅に減る事態も起きている。
その結果、過去100年で400の言語が消滅した。これは3カ月に1つの割合だ。また言語の多様性は1970年以降、急激に失われている。詳しく見ると、世界人口の95%が400言語のいずれかを使い、それぞれの言語に数百万人の話者がいると言われている。世界人口の4割は、英語、スペイン語、中国語、ヒンズー語、ポルトガル語、ベンガル語、ロシア語、日本語の8つの言語のいずれかを使っている。
言語が失われることは、文化が消滅することを意味する。言葉は生物学的な多様性を反映しているので、言葉の絶滅は人類にとって大きな損失となる。
【参考記事】老化はもうすぐ「治療できる病気」になる
前述のナイジェリアの現状について、地元のナショナル・ミラー紙は、「ナイジェリアがユニークである理由の一つは、言葉の多様性がある。国内には450の言語と方言があり、文化を具現化している。アイデンティティは人々の文化そのものであり、言語が失われることは人々の文化が失われることを意味する」と、言葉を守る必要性を主張している。
カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学の言語学者マーク・トゥーリンは、現状を悲観してこう問題提起している。「私たちは種や生物の多様性を守るために多くの金を投じている。ならば、なぜ私たち人類だけが使う特有の言語を同じように活性化させて守ろうとしないのか」
≪執筆者≫
山田敏弘
国際ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などで勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)。現在、「クーリエ・ジャポン」や「ITメディア・ビジネスオンライン」などで国際情勢の連載をもち、月刊誌や週刊誌などでも取材・執筆活動を行っている。フジテレビ「ホウドウキョク」で国際ニュース解説を担当。
山田敏弘(ジャーナリスト)
世界で次々と「言語」が消滅している――。そう言われてもあまりピンとこないかもしれない。
だがアメリカのナショナル・ジオグラフィック誌が指摘しているように、現在、世界では「2週間に1つほどの割合で言葉が消滅している」のが事実だ。
昨年末、言語消滅に関連するニュースが続いた。12月6日、ナイジェリア言語協会はナイジェリア政府に対し、同国で少数派が使う言語50種類以上が数年内に絶滅する恐れがあると警告した。
また12月9日、アメリカのノースダコタ州でアメリカ先住民族のマンダン語の最後の使い手だった男性(85)がこの世を去った。さらにペルーのレシガロ語を話す最後の2人のうち1人が銃殺されたニュースも12月に報じられた。
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こうしたニュースで必ず触れられるのが、世界中で言語が絶滅の危機に瀕している現状だ。それはどれほど深刻な事態なのか。
いま世界で話される言葉は、7000言語と言われる。そのうち4分の1が絶滅の危機にあり、3500の言語は使い手の数が1万人以下に減っている。そして現存する7000言語のうち半分が今世紀中に絶滅すると、多くの言語学者が指摘している。また100年以内に90%が消えるという説もある。
日本のアイヌ語や、チリのヤガン語など世界で100ほどの言語は、現状で少数の使い手しか残っておらず、危機的状況にあると言われている。
このような事態になった原因としてよく指摘されるのは、植民地化やグローバリゼーション、都市部への人の移動など。また地震などの天災で言葉の使い手が大幅に減る事態も起きている。
その結果、過去100年で400の言語が消滅した。これは3カ月に1つの割合だ。また言語の多様性は1970年以降、急激に失われている。詳しく見ると、世界人口の95%が400言語のいずれかを使い、それぞれの言語に数百万人の話者がいると言われている。世界人口の4割は、英語、スペイン語、中国語、ヒンズー語、ポルトガル語、ベンガル語、ロシア語、日本語の8つの言語のいずれかを使っている。
言語が失われることは、文化が消滅することを意味する。言葉は生物学的な多様性を反映しているので、言葉の絶滅は人類にとって大きな損失となる。
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前述のナイジェリアの現状について、地元のナショナル・ミラー紙は、「ナイジェリアがユニークである理由の一つは、言葉の多様性がある。国内には450の言語と方言があり、文化を具現化している。アイデンティティは人々の文化そのものであり、言語が失われることは人々の文化が失われることを意味する」と、言葉を守る必要性を主張している。
カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学の言語学者マーク・トゥーリンは、現状を悲観してこう問題提起している。「私たちは種や生物の多様性を守るために多くの金を投じている。ならば、なぜ私たち人類だけが使う特有の言語を同じように活性化させて守ろうとしないのか」
≪執筆者≫
山田敏弘
国際ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などで勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)。現在、「クーリエ・ジャポン」や「ITメディア・ビジネスオンライン」などで国際情勢の連載をもち、月刊誌や週刊誌などでも取材・執筆活動を行っている。フジテレビ「ホウドウキョク」で国際ニュース解説を担当。
山田敏弘(ジャーナリスト)