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病院の設計次第で患者の回復が早くなる?

ニューズウィーク日本版 2017年1月7日 10時0分

<医療費の抑制に貢献するのに見過ごされている改善点は、病院の快適な環境づくりだ>(写真:日光を浴びることが入院期間の短縮につながることも)

 医療費の増加は頭の痛い問題だ。保険会社が悪い、金儲け主義の製薬会社のせいだ、いや、生活習慣を改善させるべきだ......などなど、医療改革をめぐる議論は紛糾の一途をたどっている。

 そんななか、医療費抑制に大きく貢献し得るのに見落とされている課題がある。患者に優しい環境づくりだ。治療施設の設計と治療効果の相関性を示した論文は600点余りにも上る。

 英国医師会は11年の報告書で、「快適な環境は患者の治療に貢献し、患者の状態に顕著な影響を与え得る」と指摘。お粗末な設計は「不安やせん妄、高血圧、鎮痛剤の使用量の増加」を招くことがあると警告している。

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 設計見直しにはカネがかかるが、投じた予算は無駄にはならない。例えば院内感染の蔓延に、アメリカの病院は総額で年間100億ドルもの金額を費やしている。ミシガン州のある病院は、洗面台付きの風通しのよい個室を増やすことで、院内感染の発生率を11%抑制できた。

 窓を取り付けて、病室に日差しが入るようにするだけでも大きな効果がある。心療内科学会誌に掲載された論文は、「日光を浴びることは気分の改善、癌患者の死亡率低下、心筋梗塞の患者の入院期間の短縮と相関性があると考えられる」と述べている。

 実際、イタリアで行われた調査では、東向きの病室で直射日光を浴びた鬱病の患者は西向きの病室にいた対照群に比べ、4日近く早く退院できた。言うまでもなく、入院期間の短縮は大幅な医療費削減につながる。

 また、医療従事者の動線を調べてレイアウトを変えれば、一人一人の患者により多くの時間を費やせるようになる。例えば、中央のナースステーションを取り囲むように病室を配置すれば、ナースコールに迅速に対応できる。イリノイ州の心臓専門の病院ではこの方式を導入し、看護師の歩行距離を50%も減らせた。

 医療従事者を悩ます「コンピューターのジレンマ」もレイアウト見直しで解決できそうだ。患者により良いケアを提供するには、コンピューターのデータが大いに役立つが、医療従事者がコンピューターと向き合う時間が増えれば、その分患者と向き合う時間が減る。



意思疎通の改善に役立つ

 テキサス州ダラスのパークランド・メモリアル病院で実施された調査では、看護師は勤務時間の3分の1以上、医師は半分近く、コンピューターに向かっていた。診察室でコンピューターを使うと、患者と話す時間が大幅に減ることも分かった。

 ペンシルベニア州のレディング病院では、ワークステーションを分散させて病室2室につき1カ所設置することにした。ワークステーションで医師や看護師がコンピューターに向かっているときも、ベッドにいる患者から彼らの姿が見え、話し声が聞こえる設計になっている。

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 医師・看護師と患者のコミュニケーションがうまくいけば、回復が早まることも分かっている。ヘルス・アフェアーズ誌に掲載された論文によると、3万2000人の成人の患者を対象に2年間にわたって行われた調査で、治療方針を決定する際に患者の参加の度合いが強いと、「13の健康指標のうち9つで」治療効果の改善につながった。

 ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに掲載された論文も、医師と患者がじっくり話し合い、患者の意思が尊重されれば「多くのメリットがもたらされる」と論じている。

 ワークステーションの分散は、意思疎通の改善に向けた一歩となる。医療改革でどの立場を取る人も、病院の設計見直しには文句を言わないだろう。

[2017.1.10号掲載]
ディック・レシュ

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