<米情報機関が先週末に公開したロシアハッキングについての報告書は、プーチンがクリントンに対する執念深い恨みから米大統領選挙に介入したと断定する。そしてこの手法は、今年重要な選挙を迎えるドイツやフランスにも既に及んでいる>
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカの民主主義プロセスの信用を傷つけ、ドナルド・トランプ次期大統領を当選させる目的で、米大統領選に影響を与えるよう指示した――先週金曜に公開された機密情報を除いた調査報告書は、そう結論付けた。
報告書は中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)と国家安全保障局(NSA)が作成した。ロシアが前例のない選挙介入に及びアメリカの政治団体のコンピューターシステムを標的にして、サイバー攻撃で盗んだ情報を流出させたと断定するなど、これまでで最も詳細な分析結果を含む内容だ。ハッキングや偽情報の流布、ネットでの匿名の誹謗中傷(トロール)など、ロシア政府の手法は多方面に及んだと指摘。その目的は、アメリカの選挙制度に疑念を抱かせ、トランプの当選を後押しすることだったと結論付けた。
トランプはこれまで再三にわたり、ロシアの関与に疑問を呈してきた。金曜に米情報機関から直接説明を受けた後ですら、事態をめぐる混乱に背を向けた。
「選挙の結果には全く影響がなかった。投票機械が操作されたこともない」とトランプは声明を発表。「共和党全国委員会(RNC)へのハッキングを試みた形跡もあった。だがRNCには強固な防御体制があり、ハッカー側が失敗した」
その点について、報告書に具体的な記述はない。「ロシアは共和党側の標的からも情報収集したが、(民主党側にしたような)暴露行為には出なかった」と述べるに留まった。
ロシアの地政学的勝利
ロシアの政府高官らがトランプの勝利をロシアの地政学的勝利として祝福する通信を、米情報機関が傍受していたと、複数のメディアが伝えた。米政府当局は、盗んだ文書を内部告発サイト「ウィキリークス」に流したロシア側の複数の人物をすでに特定しているという。
【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
【参考記事】「トランプ圧政」で早くもスパイ流出が心配される米情報機関
ロシアの介入の動機には、プーチンの米政府に対する個人的な恨みがあると報告書は指摘した。「プーチンはクリントン前国務長官について、ロシアで不正選挙疑惑が持ち上がった2011~12年に、大規模な反政府運動を扇動したと公の場で批判し、過去の発言は自分を貶めるものだったと根に持っていた。そうした理由から、プーチンが彼女の名誉を傷つけようとした可能性が高い」
プーチンの恨みに追い打ちをかけたのは、ロシアに恥をかかせた一連の「暴露」だった。「プーチンはパナマ文書やオリンピックのドーピングスキャンダルについて、アメリカがロシアの名誉を傷つけるために指示したものだと公言していた。彼にはアメリカのイメージを失墜させ、偽善国家のレッテルを貼るよう情報流出を指示する動機があった」
【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗
プーチンは政権を握ってからというもの、ロシアの国営企業に利益をもたらす数々の欧米の指導者たちと手を携え、せっせと個人的な親交を深めてきた。ある情報機関の職員に言わせれば、彼らはロシアにとって「使い勝手のいい愚か者」。プーチンにつらなる長蛇の列につい最近並んだのがトランプなのだと、報告書は示唆している。
【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?
「プーチンはこれまで、ビジネス上の利害関係がありロシアとの取引に積極的な欧米の政治指導者とは上手く渡り合い、多くの好ましい関係を築いてきた。イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ前首相や、ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相が良い例だ」
報告書は情報操作をめぐるロシアの野望や行為に詳しく言及した反面、具体的な手法や証拠は明示しなかった。トランプに代表される、情報機関を信用しない人々の考えを変えられるかどうかは不透明だ。
金曜に公表されなかった機密情報が含まれる報告書には、情報機関の分析に使われた情報源や方法も記述されている。情報当局の高官が今週中に議会で証言し、議員に対して調査の全容を直接説明する予定だ。
ファンシー・ベアは使われたのか
サイバーセキュリティーの専門家と情報機関の当局者は、今回ロシアが関与した証拠を示す文書が公表されたことで、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けた決定的な証拠が出たと主張する。今後の焦点は、ロシア軍の情報機関の意向に沿って活動していると噂される「ファンシー・ベア」や「コージー・ベア」と呼ばれるハッカー集団が用いるマルウェア(悪意のある不正ソフトウェア)、およびロシアの情報機関が管理するコンピューターの基盤サービスが攻撃に直接利用されたかどうかだ。情報流出が選挙結果に与えた影響や、ロシア側の動機の更なる解明も求められる。
ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジはロシアの関与を否定したが、報告書はそれを真っ赤な嘘だと切り捨てた。「我々は、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)がハッキングで入手したDNCや民主党側の高官の大量のメールやデータを、ウィキリークスへ提供したとする高い確証を持っている」
トランプはかねてから、情報機関がロシアの関与を調査するのは、自身の当選の正当性を傷つける行為だと批判してきた。金曜も、「ロシア当局は投票集計の改ざんには関わっていない」と明記した報告書の内容を強調した。ロシアの情報操作が選挙結果に与えた影響は、情報機関による分析の対象外だ。
米情報当局は、ロシアの介入問題は悪化の一途をたどると見ている。それもワシントンに限ったことではない。「ロシア政府はプーチンが主導した米大統領選への介入から学んだ教訓を、今後世界の選挙に影響を及ぼすのに利用するはずだ。アメリカの同盟国やその選挙プロセスも対象になる」と報告書は指摘した。
ドイツでは、今年予定されている連邦議会選挙で、ロシアがアンゲラ・メルケル首相の選挙活動を妨害し、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に有利になるよう影響を及ぼすことを警戒している。ロシアはすでにフランスで、ロシア寄りの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首に資金援助を行っている。ドイツとフランスの両国では昨年、ロシア政府に通じるハッカー集団が、政治組織やメディアを狙ったサイバー攻撃を仕掛ける事件が相次いだ。
From Foreign Policy Magazine
エリアス・グロル
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカの民主主義プロセスの信用を傷つけ、ドナルド・トランプ次期大統領を当選させる目的で、米大統領選に影響を与えるよう指示した――先週金曜に公開された機密情報を除いた調査報告書は、そう結論付けた。
報告書は中央情報局(CIA)と連邦捜査局(FBI)と国家安全保障局(NSA)が作成した。ロシアが前例のない選挙介入に及びアメリカの政治団体のコンピューターシステムを標的にして、サイバー攻撃で盗んだ情報を流出させたと断定するなど、これまでで最も詳細な分析結果を含む内容だ。ハッキングや偽情報の流布、ネットでの匿名の誹謗中傷(トロール)など、ロシア政府の手法は多方面に及んだと指摘。その目的は、アメリカの選挙制度に疑念を抱かせ、トランプの当選を後押しすることだったと結論付けた。
トランプはこれまで再三にわたり、ロシアの関与に疑問を呈してきた。金曜に米情報機関から直接説明を受けた後ですら、事態をめぐる混乱に背を向けた。
「選挙の結果には全く影響がなかった。投票機械が操作されたこともない」とトランプは声明を発表。「共和党全国委員会(RNC)へのハッキングを試みた形跡もあった。だがRNCには強固な防御体制があり、ハッカー側が失敗した」
その点について、報告書に具体的な記述はない。「ロシアは共和党側の標的からも情報収集したが、(民主党側にしたような)暴露行為には出なかった」と述べるに留まった。
ロシアの地政学的勝利
ロシアの政府高官らがトランプの勝利をロシアの地政学的勝利として祝福する通信を、米情報機関が傍受していたと、複数のメディアが伝えた。米政府当局は、盗んだ文書を内部告発サイト「ウィキリークス」に流したロシア側の複数の人物をすでに特定しているという。
【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
【参考記事】「トランプ圧政」で早くもスパイ流出が心配される米情報機関
ロシアの介入の動機には、プーチンの米政府に対する個人的な恨みがあると報告書は指摘した。「プーチンはクリントン前国務長官について、ロシアで不正選挙疑惑が持ち上がった2011~12年に、大規模な反政府運動を扇動したと公の場で批判し、過去の発言は自分を貶めるものだったと根に持っていた。そうした理由から、プーチンが彼女の名誉を傷つけようとした可能性が高い」
プーチンの恨みに追い打ちをかけたのは、ロシアに恥をかかせた一連の「暴露」だった。「プーチンはパナマ文書やオリンピックのドーピングスキャンダルについて、アメリカがロシアの名誉を傷つけるために指示したものだと公言していた。彼にはアメリカのイメージを失墜させ、偽善国家のレッテルを貼るよう情報流出を指示する動機があった」
【参考記事】出場停止勧告を受けたロシア陸上界の果てしない腐敗
プーチンは政権を握ってからというもの、ロシアの国営企業に利益をもたらす数々の欧米の指導者たちと手を携え、せっせと個人的な親交を深めてきた。ある情報機関の職員に言わせれば、彼らはロシアにとって「使い勝手のいい愚か者」。プーチンにつらなる長蛇の列につい最近並んだのがトランプなのだと、報告書は示唆している。
【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?
「プーチンはこれまで、ビジネス上の利害関係がありロシアとの取引に積極的な欧米の政治指導者とは上手く渡り合い、多くの好ましい関係を築いてきた。イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ前首相や、ドイツのゲアハルト・シュレーダー前首相が良い例だ」
報告書は情報操作をめぐるロシアの野望や行為に詳しく言及した反面、具体的な手法や証拠は明示しなかった。トランプに代表される、情報機関を信用しない人々の考えを変えられるかどうかは不透明だ。
金曜に公表されなかった機密情報が含まれる報告書には、情報機関の分析に使われた情報源や方法も記述されている。情報当局の高官が今週中に議会で証言し、議員に対して調査の全容を直接説明する予定だ。
ファンシー・ベアは使われたのか
サイバーセキュリティーの専門家と情報機関の当局者は、今回ロシアが関与した証拠を示す文書が公表されたことで、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けた決定的な証拠が出たと主張する。今後の焦点は、ロシア軍の情報機関の意向に沿って活動していると噂される「ファンシー・ベア」や「コージー・ベア」と呼ばれるハッカー集団が用いるマルウェア(悪意のある不正ソフトウェア)、およびロシアの情報機関が管理するコンピューターの基盤サービスが攻撃に直接利用されたかどうかだ。情報流出が選挙結果に与えた影響や、ロシア側の動機の更なる解明も求められる。
ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジはロシアの関与を否定したが、報告書はそれを真っ赤な嘘だと切り捨てた。「我々は、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)がハッキングで入手したDNCや民主党側の高官の大量のメールやデータを、ウィキリークスへ提供したとする高い確証を持っている」
トランプはかねてから、情報機関がロシアの関与を調査するのは、自身の当選の正当性を傷つける行為だと批判してきた。金曜も、「ロシア当局は投票集計の改ざんには関わっていない」と明記した報告書の内容を強調した。ロシアの情報操作が選挙結果に与えた影響は、情報機関による分析の対象外だ。
米情報当局は、ロシアの介入問題は悪化の一途をたどると見ている。それもワシントンに限ったことではない。「ロシア政府はプーチンが主導した米大統領選への介入から学んだ教訓を、今後世界の選挙に影響を及ぼすのに利用するはずだ。アメリカの同盟国やその選挙プロセスも対象になる」と報告書は指摘した。
ドイツでは、今年予定されている連邦議会選挙で、ロシアがアンゲラ・メルケル首相の選挙活動を妨害し、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に有利になるよう影響を及ぼすことを警戒している。ロシアはすでにフランスで、ロシア寄りの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首に資金援助を行っている。ドイツとフランスの両国では昨年、ロシア政府に通じるハッカー集団が、政治組織やメディアを狙ったサイバー攻撃を仕掛ける事件が相次いだ。
From Foreign Policy Magazine
エリアス・グロル