<トランプの大きな政府に対して共和党は小さな政府、自由貿易に介入するトランプに対して共和党は自由主義。共和党は伝統的信条に反するトランプのやり方に反旗を翻すかもしれない>
ドナルド・トランプ米次期大統領の経済政策の柱は「bigly(トランプ流でbigの造語)政府」。与党・共和党の伝統的信条「小さな政府」と正面から衝突する。
政治経験のないトランプの強引で衝動的な経済政策に対して、政府の過剰な関与を否定する共和党議員はカンカン。党内の亀裂は既に明らかだ。トランプと共和党が選挙に勝利してから市場は成長期待で上昇してきたが、経済政策をめぐる与党内の対立が足かせとなり、政治が停滞する恐れが出てきた。
【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク
「不動産王」から大統領へ転身するトランプはつい先日も、米自動車大手フォード・モーターがメキシコ工場の新設を撤回し、米ミシガン州の既存工場を維持することにしたのを自分の「手柄」にした。同社のマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)が、米大統領選の前から決めていたことだと明かしてもお構いなしだ。空調機器メーカーのキヤリアが国内に留まったのも、巨額の税優遇措置を提供したからだ。
共和党とは水と油
米経済に有益な自由貿易に反対し、保護主義に舵を切るぞと脅し続けるトランプは、経済に対する政府の関与を強め、マクロ経済政策にもビジネス的な取引手法を持ち込む構え。伝統的に小さな政府と自由貿易を掲げてきた共和党は、トランプ政権下でどう折り合いをつけるのだろうか。
【参考記事】トランプ新政権で米国は好景気になる可能性が高い
伝統的な保守派の共和党議員は、トランプの選挙戦中の言動だけでなく、新政権の布陣に疑いの目を向け、トランプが掲げたいくつかの政策目標に大きな不安を抱いてきた。大統領に大した権限はないが、連邦議会選で共和党を勝利に導いたという建前があるため、議員側は口を挟めなかった。だが、政権交代で大統領と上下両院の過半数を共和党が掌握すれば、反トランプ派が頭角を現し、公然と反対を主張し始める可能性がある。
トランプがこれまでに指名した政権トップの顔触れは、選挙戦で声高に叫んできた自由貿易反対の主張が、単なるリップサービスでなかったことを示している。とりわけ、新設する大統領直属の国家通商会議(NTC)のトップに、著書『中国による死』をはじめ中国の政策を強く批判するピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授のような人物を起用したため、TPP(環太平洋連携協定)など国際的な貿易の枠組みを築くどころではなくなった。
【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」
トランプの政策で鍵となる公共投資も、共和党に阻まれそうだ。共和党はバラク・オバマ大統領による同様の計画に頑なに反対した経緯がある。同じ共和党から選出された大統領が提示する事業なら、よりオープンな姿勢を見せる可能性はある。だがトランプの側近と共和党の間に大きな溝があることを考えれば、政策で双方の妥協点を見つけるのは至難の業だ。
「トランプの財政支出に公共投資が含まれても、舞い上がらないことだ」と、米マサチューセッツ工科大学の教授でIMFの元チーフエコノミスト、サイモン・ジョンソンは指摘する。「公共事業は(議会上院の共和党トップ)ミッチ・マコネル院内総務にとって優先事項ではなさそうだ。下院の共和党議員にしても、公共投資を支持するには、社会保障費(低所得者向けの公的保険であるメディケイドや高齢者向けのメディケアなど)の削減が条件になる」。しかしトランプが削減をのめば、これらの制度はそのまま維持することを目玉の一つに掲げたトランプ自身の選挙公約に反することになる。
リスクは他にもある。トランプは企業を名指しで脅すことで経営判断に介入し、次期大統領に選ばれてからも自分の会社の所有者や経営者から退くことに抵抗を示すなど、前例のない振る舞いを見せてきた。公共事業で大規模な不動産開発を行っても、トランプのビジネス仲間とグルと疑われたりして、国民の反発を買いかねない。
一方、税制や規制については下院共和党とより意見が合いそうだ。トランプも下院共和党も、税率を下げ規制を緩和したいと思っている。問題は、金持ち減税が景気を刺激し、いずれは低所得層にも恩恵が及ぶという「トリクルダウン効果」が今や怪しくなっていることだ。現実には、金持ち優遇は高所得者への富の集中を加速しただけだった。法人税改革は超党派の支持を得ている。もし税制を簡素化して徴税を強化できるなら望ましいが、今のところ話はその方向には向かっていない。
トランプがもたらす地政学的リスクも経済にはマイナスだ。トランプは、台湾を取引材料にして中国に貿易交渉を仕掛け、米中関係は極めて悪化している。市場は今のところ過剰な反応はしていないが、トランプが大統領に就任すればそうはいかないだろう。共和党がどこまでトランプを正道に戻せるかが問われている。
From Foreign Policy Magazine
ペドロ・ニコラチ・ダ・コスタ
ドナルド・トランプ米次期大統領の経済政策の柱は「bigly(トランプ流でbigの造語)政府」。与党・共和党の伝統的信条「小さな政府」と正面から衝突する。
政治経験のないトランプの強引で衝動的な経済政策に対して、政府の過剰な関与を否定する共和党議員はカンカン。党内の亀裂は既に明らかだ。トランプと共和党が選挙に勝利してから市場は成長期待で上昇してきたが、経済政策をめぐる与党内の対立が足かせとなり、政治が停滞する恐れが出てきた。
【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク
「不動産王」から大統領へ転身するトランプはつい先日も、米自動車大手フォード・モーターがメキシコ工場の新設を撤回し、米ミシガン州の既存工場を維持することにしたのを自分の「手柄」にした。同社のマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)が、米大統領選の前から決めていたことだと明かしてもお構いなしだ。空調機器メーカーのキヤリアが国内に留まったのも、巨額の税優遇措置を提供したからだ。
共和党とは水と油
米経済に有益な自由貿易に反対し、保護主義に舵を切るぞと脅し続けるトランプは、経済に対する政府の関与を強め、マクロ経済政策にもビジネス的な取引手法を持ち込む構え。伝統的に小さな政府と自由貿易を掲げてきた共和党は、トランプ政権下でどう折り合いをつけるのだろうか。
【参考記事】トランプ新政権で米国は好景気になる可能性が高い
伝統的な保守派の共和党議員は、トランプの選挙戦中の言動だけでなく、新政権の布陣に疑いの目を向け、トランプが掲げたいくつかの政策目標に大きな不安を抱いてきた。大統領に大した権限はないが、連邦議会選で共和党を勝利に導いたという建前があるため、議員側は口を挟めなかった。だが、政権交代で大統領と上下両院の過半数を共和党が掌握すれば、反トランプ派が頭角を現し、公然と反対を主張し始める可能性がある。
トランプがこれまでに指名した政権トップの顔触れは、選挙戦で声高に叫んできた自由貿易反対の主張が、単なるリップサービスでなかったことを示している。とりわけ、新設する大統領直属の国家通商会議(NTC)のトップに、著書『中国による死』をはじめ中国の政策を強く批判するピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授のような人物を起用したため、TPP(環太平洋連携協定)など国際的な貿易の枠組みを築くどころではなくなった。
【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」
トランプの政策で鍵となる公共投資も、共和党に阻まれそうだ。共和党はバラク・オバマ大統領による同様の計画に頑なに反対した経緯がある。同じ共和党から選出された大統領が提示する事業なら、よりオープンな姿勢を見せる可能性はある。だがトランプの側近と共和党の間に大きな溝があることを考えれば、政策で双方の妥協点を見つけるのは至難の業だ。
「トランプの財政支出に公共投資が含まれても、舞い上がらないことだ」と、米マサチューセッツ工科大学の教授でIMFの元チーフエコノミスト、サイモン・ジョンソンは指摘する。「公共事業は(議会上院の共和党トップ)ミッチ・マコネル院内総務にとって優先事項ではなさそうだ。下院の共和党議員にしても、公共投資を支持するには、社会保障費(低所得者向けの公的保険であるメディケイドや高齢者向けのメディケアなど)の削減が条件になる」。しかしトランプが削減をのめば、これらの制度はそのまま維持することを目玉の一つに掲げたトランプ自身の選挙公約に反することになる。
リスクは他にもある。トランプは企業を名指しで脅すことで経営判断に介入し、次期大統領に選ばれてからも自分の会社の所有者や経営者から退くことに抵抗を示すなど、前例のない振る舞いを見せてきた。公共事業で大規模な不動産開発を行っても、トランプのビジネス仲間とグルと疑われたりして、国民の反発を買いかねない。
一方、税制や規制については下院共和党とより意見が合いそうだ。トランプも下院共和党も、税率を下げ規制を緩和したいと思っている。問題は、金持ち減税が景気を刺激し、いずれは低所得層にも恩恵が及ぶという「トリクルダウン効果」が今や怪しくなっていることだ。現実には、金持ち優遇は高所得者への富の集中を加速しただけだった。法人税改革は超党派の支持を得ている。もし税制を簡素化して徴税を強化できるなら望ましいが、今のところ話はその方向には向かっていない。
トランプがもたらす地政学的リスクも経済にはマイナスだ。トランプは、台湾を取引材料にして中国に貿易交渉を仕掛け、米中関係は極めて悪化している。市場は今のところ過剰な反応はしていないが、トランプが大統領に就任すればそうはいかないだろう。共和党がどこまでトランプを正道に戻せるかが問われている。
From Foreign Policy Magazine
ペドロ・ニコラチ・ダ・コスタ