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「働き方改革」的な転職もOK? 人材エージェントに転職の現実を聞く

ニューズウィーク日本版 2017年1月13日 16時50分

<転職市場が活況な一方、「働き方改革」がニュースを賑わせている。実際、ライフスタイルの変化にあわせた転職希望も増えているが、「いまの会社は残業が多いから...」でもうまくいくものだろうか。転職市場の現状や転職に必要なスキルについて、『超転職術』の著者、田畑晃子氏に聞いた>

 転職市場が活況らしい。DODAの転職求人倍率レポート(2016年11月)によれば、11月の求人数は前月比で101.9%、前年同月比で126.1%となっており、24カ月連続で調査開始以来の最高値を記録しているという。転職希望者数も同様に増加傾向にある。

 一方、このところ長時間労働に対する問題提起が相次ぎ、政府も本腰を入れて「働き方改革」に乗り出した。となれば、個人が自分の働き方を見直し、その過程で転職を模索するというケースもあるのかもしれない。だが、例えば「いまの会社は残業が多いから...」といった動機の転職でもうまくいくものだろうか。

 現在、転職市場はどんな傾向にあるのか。転職活動に必要なスキルとは何か――。『採用側のホンネを見抜く 超転職術』(CCCメディアハウス)の著者である田畑晃子氏に話を聞いた。田畑氏はリクルートエージェント(現リクルートキャリア)出身で、法人向け採用コンサルタントとして年間MVP等を連続受賞し、トッププレイヤーとして活躍。2009年に独立、株式会社Keep in touchを設立し、人材エージェントとして活躍している。

人材エージェントの田畑晃子氏

――転職市場が活況を迎えていると聞くが、いまの転職市場をどう見ているか。

 わたしが『超転職術』を書いた2010年というのは、まだリーマン・ショックの余波を引きずっている時期でしたが、それ以降、転職市場はずっと右肩上がりの活況だと言っていいと思います。ただし、企業側の求人背景には数年ごとに変化があります。

 わたしの会社は業界や職種については特化しているわけではありませんが、これまでの実績として、企業の変革時期に必要なコア人材の仲介を多く手がけてきました。事業を拡大する多角期や、あるいは上場前後、上場後の変化にあわせて組織再構築を必要とする時期などです。また、創業者がオーナー社長として経営にあたっている企業も、クライアントには多くいます。

 そうした企業の傾向として、数年ほど前まで、最初のグローバル進出の波がありました。主にウェブやゲームなどの業界で、リーマン・ショック後に加速して元気になった企業が新たにグローバル展開するための人材を探していたのです。その後、企業によって明暗が分かれたこともあって、そうしたニーズはいったん落ち着きました。

 そしていま、再びグローバル人材を求める企業が増えていると感じています。海外へ再チャレンジしようとする企業や、グローバル化をさらに強化しようとする企業、グローバル進出した後の組織構築のための人材を探している企業もあります。また最近では、ドローンなどの「ネオ・マーケット」に進出するための求人も増えていますね。

【参考記事】知っておきたい外資系の流儀

――いま政府は「働き方改革」の推進に力を入れており、求職者が多様な働き方を求める傾向にあるとの報告もあるが、実際にそのような時代になりつつある?

 確かに、ライフスタイルの変化にあわせて転職を希望する人は増えていますし、自分が求める働き方を条件として提示する人も多くなっています。そして、そうした求職者のさまざまな要望に柔軟に対応する企業が増えていることも事実です。

 しかしながら、個人が求める働き方が多様化したから企業がそれを受け入れるようになったのではなく、実は、企業側が変わってきたことが先ではないかと、わたしは考えています。

 いま多くの企業にとって懸念となっているのが「2025年問題」です。団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳以上になる社会において、労働人口が大幅に減ることが予想されています。一方で個人の働き方も多様化してきている。したがって、それらを予測し、いかに優秀な人材を自社に引きつけ、働き続けてもらうかが企業にとって切実な課題になりつつあるのです。



 そのための対策には、これまで日本の労働市場に少なかった人材――例えば女性、シニア、外国人など――を活かしていく必要もありますが、いま市場にいる人材を逃さないことも重要です。そこで、さまざまな希望や事情をもつ人材が働きやすい環境・条件を整えることで優秀な人材を確保し、長く勤めてもらえるようにしたいと考える企業が増えているのです。企業側のこうした変化に伴って、求職者が要望を伝えやすくなり、その結果、より多様な働き方が実現されるようになってきているのだと思います。

 個人側について言えば、これまでもさまざまな要望があったはずですが、それを会社に交渉することなどできませんでした。それが、会社が柔軟になりつつあることで表出化している、というのが現状ではないでしょうか。実際、育児や介護をしながら働きたい人や、あるいは持病を抱えた人が、そうした事情にあわせて転職するケースが2016年は多く見られました。今年はもっと増えるのではないかと予想しています。

【参考記事】2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の集中

「人心掌握力のある人材が欲しい」

――そうした状況で、企業が求める人材にも変化があるのか。

 わたしは著書のなかで、個人が身につけたスキルや企業が求めるスキルのことを「ビジネス筋力」と表現しました。転職を成功させるには、まず自分のビジネス筋力を分析し、それを顕在化させることによって、企業のニーズとマッチングさせることが大切になります。そして最近、新たなビジネス筋力へのニーズが高まってきていると感じています。

 これまでは、優秀な人材や幹部候補などを社外から探す企業が多かったのですが、労働人口が減少し、一方で流動化も進んでいることから、改めていまいる従業員のポテンシャルを把握し、最大限に活用して戦略化していく傾向が見受けられます。そのために、従業員ひとりひとりが持っているポテンシャルを把握し、それに応じて適切に配置する取り組みが広がっています。これを「タレント・マネジメント」と言い、注力テーマとして取り組む企業が増えています。

 しかし、それを実現するにはスキルと経験が必要です。つまり、さまざまなスキルを持ちながらも多様な事情を抱えた従業員たちを適切に配置し、彼らの能力を存分に生かしながらチームとして機能させていく――特にマネージャー層に、そうしたスキルや経験を求める企業が増えているのです。

 わかりやすい例として、「人心掌握力のある人が欲しい」という、より具体的な要望を耳にすることが多くなりました。個々の事情を理解し、スキルや実績を把握して、適切な仕事の割り振りができる人材とは、まさに、これからの時代に求められるビジネス筋力と言えるでしょう。

――諸外国に比べて日本ではまだ転職が一般的でないように思うが、長く人材業界に携わってきて、日本の転職は変わってきているという実感はあるか。

 大きな変化として、求職者の転職経験について「あったほうがいい」とする企業が増えていることが挙げられます。日本では長らく、職を転々とすることは良しとされてきませんでしたが、最近は「ほどよく転職経験がある」ことを求人条件に挙げる企業が多くなっているのです。

 それは、いろいろなマネジメントを経験している点が評価されるからです。例えば、大企業も中小企業も経験していたり、大手企業とベンチャー企業を渡り歩いていたり、あるいは国内企業と外資企業を知っている人がいい、という要望もあります。はじめての転職であっても、ベンチャー企業の立ち上げから成長過程を経験したとか、上場前と上場後のあらゆる段階を経験している、といった点が評価されることもあります。

 さらに言うと、近年は独立して起業する人が増えていますが、その一方で、うまくいかずに会社員に戻る人も多くいます。そうした経験についても、企業側からすると必ずしもデメリットとしては捉えられてはいません。もちろん、失敗の原因によっては敬遠されるケースもありますが、起業したという経験そのものは、おおむねプラスに評価されることが多くなっています。これもまた、新しい時代のビジネス筋力と言えるのかもしれません。

【参考記事】5割の社員がオフィスにこない、働き方満足度No.1企業



転職がうまくいかないのはミスマッチが原因

――著書の中で「企業視点をもつ」ことを転職成功の秘訣として挙げ、それについて詳述しているが、個人が企業のニーズの変化に追いつくにはどうすればいいか。

 先ほど述べたような企業側のニーズの変化は、なかなか個人では把握できないと思うかもしれません。しかしながら、労働人口の減少といった社会背景を考慮に入れて、企業の視点に立って考えてみれば、おのずと見えてくるものも多くあるのです。

 多くの求職者は、自分のスキルや経験をアピールすることに必死ですが、それが本当に企業から求められているものかどうかはわかりません。企業のニーズが変化し、さらに多様化しているからこそ、企業視点はより重要度を増していると言えます。視点が変われば、自分ではスキルと思っていないことでも、大いに求められることだってあり得るのです。

 また、経営の複雑化にともなって、どんな企業でも業務が多様化しています。それらをすべて把握することは不可能ですが、さまざまな企業の人の話を聞くことで、多くの情報を得られると思います。特に転職を経験している人や、違う業種・職種を経験している人の話などからは、大いに得られるものがあるはずです。

 もちろん、われわれ人材エージェントにはそういった情報がいち早く入ってきますので、うまく活用していただくことも、よりよい転職を成功させる近道になると思います。

――これから転職を考える個人にとっては、どんなことが必要になってくるか。転職を成功させるアドバイスは?

 著書の中でもくり返し述べたことですが、転職がうまくいかないのは、企業と求職者との行き違いやミスマッチが原因であることがほとんどです。企業側が本当に欲しい人材を把握できていなかったり、求職者も本当にやりたい仕事や求めるものがわかっていなかったりするケースを、数多く見てきました。

 転職によって何を実現したいのか、自分が大事にしているものは何か、自分が本当にやりたいことは何か、これからの人生をどう歩んでいきたいのか......そういったことを自分自身で理解しておく必要があります。多くの人は、日頃から「今後の人生をどうしたいか」なんて考えていません。いざ転職を意識した時点から考え始めるわけですが、すぐには答えは見つかりません。これまでの自分を一度「棚卸し」する必要が出てくるのです。

 例えば「新しいことをしたい」という理由で転職を希望する人は多くいますが、具体的にやりたい職種があるのかというと、そうではなかったりします。しかし、じっくりと話を聞けば、実はいまの仕事が嫌なのではなく、会社の方針が変わったことで仕事が楽しくなくなったことが転職を考えるきっかけだった、という方もいました(その方は結局、同じ職種だけれど会社が目指すことに共感でき、加えて英語力を活かして新しいグローバルなチャレンジができる企業に転職することで、その人なりの「新しいこと」を手に入れました)。

 このように、転職に求めるものは人それぞれです。個人のさまざまな要望に対して企業側が柔軟になってきているからこそ、求職者の側も、自分の要望をためらわずに伝えることがこれまで以上に大切になっています。それぞれが抱えている事情をきちんと説明し、それでも貢献できることを説明して、企業側とすり合わせをしていくことが、現代の転職活動では重要なのです。


『採用側のホンネを見抜く 超転職術』
 田畑晃子 著
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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