<メイ首相は、これは「グレート・ブリテン」から「リトル・ブリテン」への後退ではないと強調した。だが現状では、グローバル大国イギリスの再興は困難にみえる>
イギリスのテリーザ・メイ首相は1月17日、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に向けた基本方針をついに表明した。これまでの周囲の予想どおり、イギリスはEU諸国からの移民の受け入れを規制する代わり、EU(欧州連合)の単一市場を離れる
メイは、イギリスを再び偉大な経済大国にするためには、まずはEUという世界最大の経済・貿易圏からの離脱が必要であると明言した。
【参考記事】パブから見えるブレグジットの真実
メイは演説の大半を費やして、ブレグジットは「グレート・ブリテン」ならぬ「リトル・ブリテン」への後退ではなく、国際協調主義を目指しす前向きなものだと力説した。そして、昨年のEU離脱を問う国民投票が行われた日について、「イギリスが世界から退くことを選択した日ではない。真にグローバルなイギリスを築くことを選択した瞬間だ」と述べた。
【参考記事】駐EU英国大使の辞任が示すブレグジットの泥沼──「メイ首相、離脱交渉のゴールはいずこ」
メイの思い通りに事が進めば、「真にグローバルなイギリス」は、イギリスは国境管理を強化して移民流入を制限する一方、ヨーロッパとは新たな通商関係を結ぶことになる。メイは、単一市場に残留する意思はまったくないとした。単一市場に残れば、EUが課す多くの条件を受け入れることとなり、「それではEUを離脱することにならない」からだ。
クリーンブレグジットは不可能
EU離脱の代わりにイギリスは、ヨーロッパならびに世界各国と個別の自由貿易協定を結ぶことを目指していくという。アメリカ次期大統領のドナルド・トランプは1月14日、英タイムズ紙のインタビューに対し、速やかにイギリスとの自由貿易協定に応じたいと答えた。
ヨーロッパ・リーダーシップ・ネットワーク(ELN)の主任研究員ジョゼフ・ドブズはフォーリン・ポリシー誌に対し、「メイは(単一市場から整然と離脱する)クリーンなブレグジットを約束した。しかし、首相はヨーロッパを相手に妥協のない素晴らしい自由貿易協定を勝ち取るとイギリス国民に約束した。クリーンブレグジットが可能だとはとても思えない」と話した。
【参考記事】一般人に大切な決断を託す国民投票はこんなに危険
それは、イギリス経済にとって悪い知らせとなるだろう。2016年、の国民投票でEU離脱が決まった時は、市場はその結果を比較的寛大に受け止めた。だが、「2017年は影響が出る」とドブズは言う。
そうした影響が現れるのはまだ先のことかもしれない。EU離脱の時期をめぐる交渉には何年もかかる可能性があり、その間は様々のことが中断される。EU側はすでに、離脱手続きが完了するまで、イギリスは外国と個別の貿易協定を結べないと明言している。
さらに、メイはEU離脱手続きを定めたリスボン条約(EU基本条約)第50条を発動するとしているものの、そのための国内手続きは定かではない。イギリス最高裁は、メイにその権限があるか否かの判断をまだ出していないのだ。最終的には議会に決断がゆだねられることになるかもしれず、議会は離脱に対して異なる見方をする可能性がある。
とはいえ、いずれ影響は現れる。イギリスの大学を例に取ろう。メイは1月17日の演説で、イギリス国内の大学は世界的な競争力を維持できると主張したが、大学幹部たちは、メイが主張するハード・ブレグジット(単一市場へのアクセスを断念する離脱)は「悲惨な結果をもたらす」と主張する。実際、ヨーロッパからの入学申し込み者はすでに減っている。ただし、メイは内務大臣時代に、学生ビザの発給を規制し、留学生に対して卒業後すぐに国外退去するよう求めた人物だ。留学生の数が減ったとしても悲惨な結果だとは考えないかもしれない。
それでも、メイの方針がすべての人にとって暗いニュースだというわけではない。メイが演説で、離脱に関する最終決定は、事態をより冷静に見守る議会にゆだねると述べたことで、苦境に立たされていたイギリスポンドは急上昇し、2008年の世界金融危機以来、最大の上げ幅となった。投資家たちはどうやら、全世界を驚かせた昨夏の国民投票の結果を、議会が無効にしてくれる可能性があると思っているようだ。
From Foreign Policy Magazine
エミリー・タムキン
イギリスのテリーザ・メイ首相は1月17日、ブレグジット(イギリスのEU離脱)に向けた基本方針をついに表明した。これまでの周囲の予想どおり、イギリスはEU諸国からの移民の受け入れを規制する代わり、EU(欧州連合)の単一市場を離れる
メイは、イギリスを再び偉大な経済大国にするためには、まずはEUという世界最大の経済・貿易圏からの離脱が必要であると明言した。
【参考記事】パブから見えるブレグジットの真実
メイは演説の大半を費やして、ブレグジットは「グレート・ブリテン」ならぬ「リトル・ブリテン」への後退ではなく、国際協調主義を目指しす前向きなものだと力説した。そして、昨年のEU離脱を問う国民投票が行われた日について、「イギリスが世界から退くことを選択した日ではない。真にグローバルなイギリスを築くことを選択した瞬間だ」と述べた。
【参考記事】駐EU英国大使の辞任が示すブレグジットの泥沼──「メイ首相、離脱交渉のゴールはいずこ」
メイの思い通りに事が進めば、「真にグローバルなイギリス」は、イギリスは国境管理を強化して移民流入を制限する一方、ヨーロッパとは新たな通商関係を結ぶことになる。メイは、単一市場に残留する意思はまったくないとした。単一市場に残れば、EUが課す多くの条件を受け入れることとなり、「それではEUを離脱することにならない」からだ。
クリーンブレグジットは不可能
EU離脱の代わりにイギリスは、ヨーロッパならびに世界各国と個別の自由貿易協定を結ぶことを目指していくという。アメリカ次期大統領のドナルド・トランプは1月14日、英タイムズ紙のインタビューに対し、速やかにイギリスとの自由貿易協定に応じたいと答えた。
ヨーロッパ・リーダーシップ・ネットワーク(ELN)の主任研究員ジョゼフ・ドブズはフォーリン・ポリシー誌に対し、「メイは(単一市場から整然と離脱する)クリーンなブレグジットを約束した。しかし、首相はヨーロッパを相手に妥協のない素晴らしい自由貿易協定を勝ち取るとイギリス国民に約束した。クリーンブレグジットが可能だとはとても思えない」と話した。
【参考記事】一般人に大切な決断を託す国民投票はこんなに危険
それは、イギリス経済にとって悪い知らせとなるだろう。2016年、の国民投票でEU離脱が決まった時は、市場はその結果を比較的寛大に受け止めた。だが、「2017年は影響が出る」とドブズは言う。
そうした影響が現れるのはまだ先のことかもしれない。EU離脱の時期をめぐる交渉には何年もかかる可能性があり、その間は様々のことが中断される。EU側はすでに、離脱手続きが完了するまで、イギリスは外国と個別の貿易協定を結べないと明言している。
さらに、メイはEU離脱手続きを定めたリスボン条約(EU基本条約)第50条を発動するとしているものの、そのための国内手続きは定かではない。イギリス最高裁は、メイにその権限があるか否かの判断をまだ出していないのだ。最終的には議会に決断がゆだねられることになるかもしれず、議会は離脱に対して異なる見方をする可能性がある。
とはいえ、いずれ影響は現れる。イギリスの大学を例に取ろう。メイは1月17日の演説で、イギリス国内の大学は世界的な競争力を維持できると主張したが、大学幹部たちは、メイが主張するハード・ブレグジット(単一市場へのアクセスを断念する離脱)は「悲惨な結果をもたらす」と主張する。実際、ヨーロッパからの入学申し込み者はすでに減っている。ただし、メイは内務大臣時代に、学生ビザの発給を規制し、留学生に対して卒業後すぐに国外退去するよう求めた人物だ。留学生の数が減ったとしても悲惨な結果だとは考えないかもしれない。
それでも、メイの方針がすべての人にとって暗いニュースだというわけではない。メイが演説で、離脱に関する最終決定は、事態をより冷静に見守る議会にゆだねると述べたことで、苦境に立たされていたイギリスポンドは急上昇し、2008年の世界金融危機以来、最大の上げ幅となった。投資家たちはどうやら、全世界を驚かせた昨夏の国民投票の結果を、議会が無効にしてくれる可能性があると思っているようだ。
From Foreign Policy Magazine
エミリー・タムキン