<当初からトランプを支持してきた「民主党的」政策を求める支持者と、選挙戦終盤から勝ち馬に乗った「共和党本流」の間には、志向する政策上、深刻な分裂がある>(写真:今月11日に就任直前の会見に臨むトランプファミリーと政権以降チーム)
トランプ政権の発足にあたって、非常に気になる点が1つあります。それは大きく異なる2つの支持層に支えられているということです。
政権運営が好調に推移すれば、この点は大きな問題になることはなく、任期を過ごしていくこともあり得ます。ですが、何か大きな壁にぶち当たるのであれば、この支持層にある「分裂」という問題は大きく立ちはだかり、支持率を低下させ、政権求心力を失うことにも繋がりかねないものです。
まず、トランプ氏の「コアの支持層」、つまり選挙戦の初期から支持をしてきた層の期待感というのは、次のようなものです。
・アメリカ国内に力強い雇用を回復してほしい。
・医療保険改革によって被った負担増を止めてほしい。
・公的年金は財源を確保して満額支給してほしい。
・退役軍人には手厚い福祉を用意してほしい。
・アメリカのカネを、無関係な外国にバラまくのは止めてほしい。
・具体的には他国の政権交代に介入するような戦争は二度としないでほしい。
・テロの恐怖を拡大するような移民や難民の受け入れを止めてほしい。
・軍事費、薬価などの産業権益にはメスを入れて価格交渉してほしい。
・輸出に不利なドル高は容認しない。
・国民生活に不利なエネルギー価格高も容認しない。
この支持層はその中核に強いナショナリズムを持っているものの、求めている政策のほとんどは民主党的な「大きな政府論」です。
【参考記事】トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権
これに対して、選挙戦の最後に「勝ちに行く」ことで、乗っかってきた「共和党本流」の人々、政治家とその支持者の期待感は別です。それは、
・オバマ時代の規制を緩和して、大企業などの活動に有利にしてほしい。
・小さな政府論の観点で、国庫負担を伴う医療保険改革を廃止しほしい。
・同じく小さな政府論から公的年金への国庫補填は止め、民営化してほしい。
・民主党の利権になっている退役軍人への福祉にメスを入れたい。
・オバマ時代に弱体化したアメリカの軍事的プレゼンスを回復したい。
・オバマ時代に不遇だった軍需産業、製薬業界に活力を取り戻したい。
・強いドルを志向。
・原油安から脱してエネルギー価格の高値安定へと誘導したい。
というものです。つまりレーガンからブッシュに繋がる共和党的な政策というわけです。
このまったく異なる「コア支持層」と「共和党本流」は選挙戦の最初から水と油でした。ですから、共和党予備選を通じてトランプ氏と、例えば後者の代表だったジェブ・ブッシュ候補などは激しい中傷合戦を繰り広げましたし、その後2016年春にトランプ氏の優位が見えてきた際には、共和党の本流は「トランプ降ろし」を必死になって画策したのです。
では、そんな両者がどうして共存しているのかというと、それは「オバマ時代の政治をひっくり返したい」とか「ヒラリー・クリントンの政策を否定したい」という、心理的な衝動としては共通するものがあったからです。
ですが、今週20日の就任式を境に、政治的な環境は変わります。オバマの時代は歴史の彼方、つまり「過去」へと飛び去っていくのであり、トランプ氏とその周囲はホワイトハウスという行政府を動かして、国政を担って行かなければなりません。一方で、共和党の本流にいる多くの議会メンバーは、個々人の選挙区の意向を反映させながら自分の政治をやっていかなければなりません。
対立の火種は至る所に転がっているのです。では、そんな対立を抱えながらトランプはどのように政権運営していくのでしょうか?
結局は、「中身としては是々非々」にならざるを得ないと思います。
【参考記事】日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差への処方箋
景気を維持するためには、株価を維持しなくてはならず、そのためには企業業績は悪化させることはできません。ですから大企業優遇の政策は実行に移されるでしょう。ですが、選挙で自分を選んだ有権者の期待にも応えなければなりません。ですから、世間の話題になりそうなテーマについては「劇場型パフォーマンス」を続けていくことになるでしょう。
自動車産業への介入が良い例で、メキシコに工場が流出する空洞化に関しては強硬に否定していますが、これは一種のシンボル的な動きであり、そのような「規制」を全産業に対して発動するわけではありません。フォード社などが「おとなしく」従っているように見えるのは、トランプ支持者の不買運動が怖いということもあるかもしれませんが、「全体としては悪いようにはしないだろう」という読みがあるのだと思います。
また、コアの支持者にしても、国務長官、財務長官、商務長官、教育長官といった主要ポストに億万長者の人物が名を連ねていることについては、それだけで「腹を立てる」ことはないわけです。ほかでもない億万長者のトランプ氏を大統領に当選させた彼らは、単純に富裕層だというだけで嫉妬や敵意を向けることはないでしょう。
ですから、完全に思惑の異なる2つのグループを抱えながら、政策的にはバランスを取り、とりわけコア支持者向けには「劇場型」パフォーマンスを「手をかえ品をかえて」続けながら政権運営を続けることになると思います。もっと言えば、「コアの支持層」が怒りそうな「共和党本流的な政治」をやる場合には、「コアの支持層」が喝采するような「劇場型」の話題に「振る」手法が使われることも予想されます。
問題は政権運営が行き詰まった時です。その際に、両者の対立が浮き彫りになって、政権が立ち往生することは十分にあり得ます。それをどう乗り越えていくのかが、まさにトランプ氏の「お手並み拝見」というところでしょう。
トランプ政権の発足にあたって、非常に気になる点が1つあります。それは大きく異なる2つの支持層に支えられているということです。
政権運営が好調に推移すれば、この点は大きな問題になることはなく、任期を過ごしていくこともあり得ます。ですが、何か大きな壁にぶち当たるのであれば、この支持層にある「分裂」という問題は大きく立ちはだかり、支持率を低下させ、政権求心力を失うことにも繋がりかねないものです。
まず、トランプ氏の「コアの支持層」、つまり選挙戦の初期から支持をしてきた層の期待感というのは、次のようなものです。
・アメリカ国内に力強い雇用を回復してほしい。
・医療保険改革によって被った負担増を止めてほしい。
・公的年金は財源を確保して満額支給してほしい。
・退役軍人には手厚い福祉を用意してほしい。
・アメリカのカネを、無関係な外国にバラまくのは止めてほしい。
・具体的には他国の政権交代に介入するような戦争は二度としないでほしい。
・テロの恐怖を拡大するような移民や難民の受け入れを止めてほしい。
・軍事費、薬価などの産業権益にはメスを入れて価格交渉してほしい。
・輸出に不利なドル高は容認しない。
・国民生活に不利なエネルギー価格高も容認しない。
この支持層はその中核に強いナショナリズムを持っているものの、求めている政策のほとんどは民主党的な「大きな政府論」です。
【参考記事】トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権
これに対して、選挙戦の最後に「勝ちに行く」ことで、乗っかってきた「共和党本流」の人々、政治家とその支持者の期待感は別です。それは、
・オバマ時代の規制を緩和して、大企業などの活動に有利にしてほしい。
・小さな政府論の観点で、国庫負担を伴う医療保険改革を廃止しほしい。
・同じく小さな政府論から公的年金への国庫補填は止め、民営化してほしい。
・民主党の利権になっている退役軍人への福祉にメスを入れたい。
・オバマ時代に弱体化したアメリカの軍事的プレゼンスを回復したい。
・オバマ時代に不遇だった軍需産業、製薬業界に活力を取り戻したい。
・強いドルを志向。
・原油安から脱してエネルギー価格の高値安定へと誘導したい。
というものです。つまりレーガンからブッシュに繋がる共和党的な政策というわけです。
このまったく異なる「コア支持層」と「共和党本流」は選挙戦の最初から水と油でした。ですから、共和党予備選を通じてトランプ氏と、例えば後者の代表だったジェブ・ブッシュ候補などは激しい中傷合戦を繰り広げましたし、その後2016年春にトランプ氏の優位が見えてきた際には、共和党の本流は「トランプ降ろし」を必死になって画策したのです。
では、そんな両者がどうして共存しているのかというと、それは「オバマ時代の政治をひっくり返したい」とか「ヒラリー・クリントンの政策を否定したい」という、心理的な衝動としては共通するものがあったからです。
ですが、今週20日の就任式を境に、政治的な環境は変わります。オバマの時代は歴史の彼方、つまり「過去」へと飛び去っていくのであり、トランプ氏とその周囲はホワイトハウスという行政府を動かして、国政を担って行かなければなりません。一方で、共和党の本流にいる多くの議会メンバーは、個々人の選挙区の意向を反映させながら自分の政治をやっていかなければなりません。
対立の火種は至る所に転がっているのです。では、そんな対立を抱えながらトランプはどのように政権運営していくのでしょうか?
結局は、「中身としては是々非々」にならざるを得ないと思います。
【参考記事】日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差への処方箋
景気を維持するためには、株価を維持しなくてはならず、そのためには企業業績は悪化させることはできません。ですから大企業優遇の政策は実行に移されるでしょう。ですが、選挙で自分を選んだ有権者の期待にも応えなければなりません。ですから、世間の話題になりそうなテーマについては「劇場型パフォーマンス」を続けていくことになるでしょう。
自動車産業への介入が良い例で、メキシコに工場が流出する空洞化に関しては強硬に否定していますが、これは一種のシンボル的な動きであり、そのような「規制」を全産業に対して発動するわけではありません。フォード社などが「おとなしく」従っているように見えるのは、トランプ支持者の不買運動が怖いということもあるかもしれませんが、「全体としては悪いようにはしないだろう」という読みがあるのだと思います。
また、コアの支持者にしても、国務長官、財務長官、商務長官、教育長官といった主要ポストに億万長者の人物が名を連ねていることについては、それだけで「腹を立てる」ことはないわけです。ほかでもない億万長者のトランプ氏を大統領に当選させた彼らは、単純に富裕層だというだけで嫉妬や敵意を向けることはないでしょう。
ですから、完全に思惑の異なる2つのグループを抱えながら、政策的にはバランスを取り、とりわけコア支持者向けには「劇場型」パフォーマンスを「手をかえ品をかえて」続けながら政権運営を続けることになると思います。もっと言えば、「コアの支持層」が怒りそうな「共和党本流的な政治」をやる場合には、「コアの支持層」が喝采するような「劇場型」の話題に「振る」手法が使われることも予想されます。
問題は政権運営が行き詰まった時です。その際に、両者の対立が浮き彫りになって、政権が立ち往生することは十分にあり得ます。それをどう乗り越えていくのかが、まさにトランプ氏の「お手並み拝見」というところでしょう。