<新大統領の就任演説は「アメリカ再建」を謳う挑発的なもの。しかし過激な政策はあくまでもコア支持層向けのパフォーマンスで、多分に現実的な政策を進めざるを得ないだろう>
大変に挑発的なスピーチでした。普通、大統領の就任演説というのは国民の団結を呼びかけ、全世界に対してメッセージを発信する、「格調高いものにする」のが慣例なのですが、トランプ大統領の就任演説はそうした伝統をまったく無視しました。
何しろ、冒頭の部分でアメリカを「再建する」というのですから、穏やかではありません。もちろん、雇用を中心に現在のアメリカ社会に不満があるのは事実です。ですが、少なくともリーマン・ショック以降の2009年から一貫して、景気も株価も雇用も改善を続けているわけで、オバマ政権の幕切れにいたっては高い支持率を得ていたのです。
そんな現状に対して「再建する」というのですから、最初から「戦闘モード」だと言っていいでしょう。要するに過激なまでの現状否定です。そして、演説はその後もまったくの一本調子でした。
「アメリカ・ファースト、アメリカ・ファースト」
「アメリカのモノしか買うな。アメリカ人しか雇うな」
「他国との友好関係は築くが、とにかくどの国も『自分の国優先』というのがこの世界」
ということで、保護主義、孤立主義を前面に押し出した内容です。そして、
「工場が閉鎖され、薬物中毒が蔓延するコミュニティーを再建する」
という形で、自分のコアの支持者に向けたメッセージもシッカリ込めていたのです。
【参考記事】<写真特集>トランプ就任、「ポピュリスト大統領」の誕生
では、「いかにもトランプ大統領らしい」スピーチだったかというと、少し違うように感じました。まず、さすがに「就任演説」ですから、個人攻撃とかタブーに挑戦するような下品な表現は入っていません。そのために、全体のトーンは非常に堅い感じになっていたのです。強いて言えば「暗い感じ」だと言われた、昨年夏の共和党大会における「指名受諾演説」に近いものでした。
また、昨年にずっと続けてきた支持者集会での「話芸」と比較しますと、全体が堅いだけでなく、使われていた言葉も多少難しい表現が入っていました。語彙は相変わらず小学生向けだったのですが、少し頭を使わないといけない比喩などが入っていたのです。
そんなわけで、会場の盛り上がりは今一つという感じでした。コアの支持者だけに絞った内容のため、反対派には反発を買いこそすれ評価される可能性はほとんどない内容であったのに、コアの支持者にも届きにくいスピーチだったように思われます。
非常に不自然だったのは、新大統領の背後に控えていた閣僚候補の人々は、どちらかと言えば共和党本流に近いと言われる、億万長者、それも投資銀行家や石油メジャーの人々でした。そうした人々の意向を取り入れて、経済成長を確実にするような現実的な政策を取るというメッセージはまったく入っていなかったということです。
こうなると、トランプ大統領一流の「暴言パフォーマンス」で話題性を確保する「劇場型政治」を続ける一方で、むしろ現実的には大企業重視の現実的な政策を進めていくのではないか、そんな「うがった」見方をしたくもなります。
宣誓と就任演説を終えた新大統領は、早速「声明文書」に署名をしていました。内容は直ちにホワイトハウスのホームページにアップされましたが、ここではTPP交渉からの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しなどが謳われています。また「オバマケア」廃止へ「向けた」大統領令にも署名しました。
しかし、この日の演説に見られたような「過激なトランプ路線」がどんどん現実の政策になっていくことは考えにくいわけで、実際の政策は実行可能な現実路線にならざるを得ないでしょう。ですが、それでは「忘れられた」コアの支持層は納得しません。そのために、今後も世論の関心を引き付ける「劇場型政治」を続けていかなくてはならないのです。
そう考えると、今回の演説のコアのファンだけにターゲットを絞った「極端なトランプ流」は、かなりの部分がパフォーマンスで、実際の政策は、象徴的な「トランプ流」は進めていくにしても、まったく異なる現実的な政策も多く進められていくと思います。
【参考記事】テレビに映らなかったトランプ大統領就任式
それはともかく、個人的にはトランプ大統領の表情が終始硬かったのが印象的でした。ビジネスの世界では百戦錬磨を自認するトランプ氏ですが、合衆国大統領の重責の前には非常に緊張していたようです。反対に、退任したオバマ前大統領は極めてリラックスした表情に終始し、極めて好対照でした。
一方でヒラリー・クリントン氏は、終始笑顔を見せて通そうとしながらも、折々に厳しい表情を見せていたのが印象的でした。その表情は、トランプ氏への反感もあれば、あらためて意外な形で選挙に負けたことへの悔しさだったのかもしれません。
この就任式を境に大きく歴史は転換し、第45代合衆国大統領ドナルド・トランプの時代が始まったのです。
大変に挑発的なスピーチでした。普通、大統領の就任演説というのは国民の団結を呼びかけ、全世界に対してメッセージを発信する、「格調高いものにする」のが慣例なのですが、トランプ大統領の就任演説はそうした伝統をまったく無視しました。
何しろ、冒頭の部分でアメリカを「再建する」というのですから、穏やかではありません。もちろん、雇用を中心に現在のアメリカ社会に不満があるのは事実です。ですが、少なくともリーマン・ショック以降の2009年から一貫して、景気も株価も雇用も改善を続けているわけで、オバマ政権の幕切れにいたっては高い支持率を得ていたのです。
そんな現状に対して「再建する」というのですから、最初から「戦闘モード」だと言っていいでしょう。要するに過激なまでの現状否定です。そして、演説はその後もまったくの一本調子でした。
「アメリカ・ファースト、アメリカ・ファースト」
「アメリカのモノしか買うな。アメリカ人しか雇うな」
「他国との友好関係は築くが、とにかくどの国も『自分の国優先』というのがこの世界」
ということで、保護主義、孤立主義を前面に押し出した内容です。そして、
「工場が閉鎖され、薬物中毒が蔓延するコミュニティーを再建する」
という形で、自分のコアの支持者に向けたメッセージもシッカリ込めていたのです。
【参考記事】<写真特集>トランプ就任、「ポピュリスト大統領」の誕生
では、「いかにもトランプ大統領らしい」スピーチだったかというと、少し違うように感じました。まず、さすがに「就任演説」ですから、個人攻撃とかタブーに挑戦するような下品な表現は入っていません。そのために、全体のトーンは非常に堅い感じになっていたのです。強いて言えば「暗い感じ」だと言われた、昨年夏の共和党大会における「指名受諾演説」に近いものでした。
また、昨年にずっと続けてきた支持者集会での「話芸」と比較しますと、全体が堅いだけでなく、使われていた言葉も多少難しい表現が入っていました。語彙は相変わらず小学生向けだったのですが、少し頭を使わないといけない比喩などが入っていたのです。
そんなわけで、会場の盛り上がりは今一つという感じでした。コアの支持者だけに絞った内容のため、反対派には反発を買いこそすれ評価される可能性はほとんどない内容であったのに、コアの支持者にも届きにくいスピーチだったように思われます。
非常に不自然だったのは、新大統領の背後に控えていた閣僚候補の人々は、どちらかと言えば共和党本流に近いと言われる、億万長者、それも投資銀行家や石油メジャーの人々でした。そうした人々の意向を取り入れて、経済成長を確実にするような現実的な政策を取るというメッセージはまったく入っていなかったということです。
こうなると、トランプ大統領一流の「暴言パフォーマンス」で話題性を確保する「劇場型政治」を続ける一方で、むしろ現実的には大企業重視の現実的な政策を進めていくのではないか、そんな「うがった」見方をしたくもなります。
宣誓と就任演説を終えた新大統領は、早速「声明文書」に署名をしていました。内容は直ちにホワイトハウスのホームページにアップされましたが、ここではTPP交渉からの離脱、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しなどが謳われています。また「オバマケア」廃止へ「向けた」大統領令にも署名しました。
しかし、この日の演説に見られたような「過激なトランプ路線」がどんどん現実の政策になっていくことは考えにくいわけで、実際の政策は実行可能な現実路線にならざるを得ないでしょう。ですが、それでは「忘れられた」コアの支持層は納得しません。そのために、今後も世論の関心を引き付ける「劇場型政治」を続けていかなくてはならないのです。
そう考えると、今回の演説のコアのファンだけにターゲットを絞った「極端なトランプ流」は、かなりの部分がパフォーマンスで、実際の政策は、象徴的な「トランプ流」は進めていくにしても、まったく異なる現実的な政策も多く進められていくと思います。
【参考記事】テレビに映らなかったトランプ大統領就任式
それはともかく、個人的にはトランプ大統領の表情が終始硬かったのが印象的でした。ビジネスの世界では百戦錬磨を自認するトランプ氏ですが、合衆国大統領の重責の前には非常に緊張していたようです。反対に、退任したオバマ前大統領は極めてリラックスした表情に終始し、極めて好対照でした。
一方でヒラリー・クリントン氏は、終始笑顔を見せて通そうとしながらも、折々に厳しい表情を見せていたのが印象的でした。その表情は、トランプ氏への反感もあれば、あらためて意外な形で選挙に負けたことへの悔しさだったのかもしれません。
この就任式を境に大きく歴史は転換し、第45代合衆国大統領ドナルド・トランプの時代が始まったのです。