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トランプ、想像を絶する環境敵視政策が始まった──排ガス規制の米EPAに予算削減要求とかん口令

ニューズウィーク日本版 2017年1月25日 21時22分

<オバマが承認しなかったパイプライン計画にゴーサインを出すだけでなく、大気汚染対策や温暖化対策など既存の枠組みも撤廃して時代を逆行する>(写真は、ダコタ・アクセス・パイプラインが近くを通る予定のノースダコタ州キャノンボール。パイプライン建設に反対する先住民スタンディング・ロック・スー族とその活動家の住居やテントが見える)

 ドナルド・トランプ新大統領が選挙戦中に掲げた反環境的な公約は、冗談ではなかったことが明らかになってきた。環境保護団体や専門家は衝撃を隠しきれない。

 トランプの大統領就任から3日後、米ニュースサイトのアクシオス(Axios)は、環境保護局(EPA)に対し8億ドル以上の予算削減と科学的データの取り扱い変更を求める内部メモを公開した。EPAは、自動車の排ガス規制などを通じて温暖化ガスの削減に努めてきた、泣く子も黙る監督官庁。それがもう新政権に頭を押さえられているようだ。

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 アクシオスによると、この内部メモを書いたのはトランプのEPA移行チームを率いるマイロン・エベル。石油会社などが出資する米シンクタンク「コンペティティブ・エンタープライズ・インスティチュート」で環境政策の立案を主導してきた。地球温暖化には懐疑的だ。

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 だがそれもトランプが掲げる環境敵視政策の序章に過ぎない。米非営利メディア・プロパブリカ(ProPublica)は月曜、EPAが政権側から、補助金の支給や既存契約をすべて凍結するよう通達を受けたと報じた。そうなれば環境関連の研究や工業地帯の環境再生、大気汚染のモニタリングや教育にまで影響が及ぶ。エベルはプロパブリカの取材に対し、凍結は「政権が望まない規制をなくすためだ」と言った。

環境規制当局に「かん口令」

 トランプは火曜の朝、環境保護などの理由から環境保護団体や先住民らが激しく反対してきた「キーストーンXLパイプライン」と「ダコタアクセスパイプライン」の2つのパイプライン計画を認める大統領令に署名した。両パイプラインとも、オバマ政権が環境上の理由で昨年までに却下したプロジェクトだ。

 EPAの対外的な顔も変わりそうだ。本誌の取材に対して「現在、報道担当者はメディアの取材を受け付けていない」と、エネスタ・ジョーンズ報道官は回答した。メディア対応が中止されたのは、ホワイトハウスの公式ホームページから気候変動に関する記述が削除された数日後だった。EPAの職員に対し、取材に応じないよう通達があったと報じられている。いつ再開されるかは不明だという。

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 トランプがEPA長官に指名したオクラホマ州司法長官のスコット・プルイット(まだ上院で承認されていない)は、EPAを相手にこれまで20件以上の訴訟を起こしてきた男だ。

 アクシオスは月曜、エベルが推し進めるEPA予算凍結の中身について、州政府や先住民に対する補助金5億1300万ドルの削減、約1億9300万ドルの気候変動関連プログラムの廃止、その他の環境保護プログラムとその運営にかかる約1億900万ドルの歳出削減が含まれると伝えた。



 エベルは、新規・既存の石炭や天然ガスの火力発電所を対象に温室効果ガスの排出規制を定めた「大気清浄法(CAA)」や、保護対象水域への汚染物質の排出を許可制にした「水質浄化法(CWA)」、チェサピーク湾に排出される汚染物質の総量を規制する「日間最大排出量(TMDL)」などの規制に軒並み反対しているという。
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 メモでは、EPAが科学的な研究に出す補助金の廃止も求めていた。「長年アメリカの雇用を破壊してきた偏見に満ちた反エネルギー対策」を排除するために、EPA内の意思決定プロセスを改革し、連邦政府及び州政府の規制や決定をくつがえせないようにさせる提言もあったと、アクシオスは伝えた。

 環境は大丈夫なのか。米コロンビア大学サビン気候変動法センターのマイケル・バーガー事務局長は、環境規制の多くは容易に変更できないとみる。例えば、温室効果ガスの排出が気候変動を引き起こすと結論付けたEPAの2009年の報告書「危険状況調査の結果(Endangerment Finding)」。発表以来、米政府による環境政策の指針となってきた見解をトランプ政権が取り消したり無視したりするのは、裁判所が認めない限り不可能だという。少なくとも数年間は。

異常気象に備えることもできない

 だがオバマ前大統領の大統領令を、トランプの大統領令で撤回修正することは可能だ。米オンラインメディア、ヴォックスが伝えたところによれば、国有地での石油掘削を禁じる措置も撤回の対象に挙がっている。オバマ政権下の環境政策の一部は、法律ではなく大統領令によるもので、オバマの思い入れは強いが撤回も簡単なのだ。環境諮問委員会が、新しい建築工事などを評価する際に、気候変動への影響を防ぐために作られた指針が良い例だ。「あれが撤回されれば悲惨だ」とバーガーは言う。例えば、気候科学者が予測した海面の上昇や非常に強い暴風雨などの災害に対して、耐久性がない建物が建設されてしまう恐れがある。

 米環境保護NGOエンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)のケン・クック代表は、「環境や公衆衛生、科学に対する殺戮行為」と、反対すると声を上げた。エベルの内部メモから、人命も救ってきた重要な環境保護対策を、新政権がぶち壊そうとしている意図が読みとれると、クックは言った。

 はっきりしているのは、環境敵視政策に特定の被害者はいないということだ。地球全体が、トランプ新政権の過ちの責めを負うことになる。


ジェシカ・ワプナー

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