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「使えるファイナンス」をもつ人材が日本に足りない

ニューズウィーク日本版 2017年1月30日 17時12分

<これからのビジネスパーソンにとって武器となる「ファイナンス」。プチ・ブームが到来しているようだが、そもそもファイナンスとは何か>

 ひと昔前、ビジネスパーソンの間で「会計」ブームが起こり、書店に会計の本がたくさん並んだことがあった。今はといえば、さながら「ファイナンス」のプチ・ブーム。ただし、ファイナンスとは何かについて大きな勘違いが流布していると、正田圭氏は言う。

 1986年に生まれ、15歳で起業。現在、M&Aの最前線で活躍する若き実務家である正田氏はこう語る。「実際にビジネスで『使える』ファイナンスの技術をもっているのはごく一部の人だけ。いま、ビジネスの世界では事業家(=ファイナンス人材)が圧倒的に不足している」

【参考記事】 20代で資産10億、「アイデア不要論」を語る

 しかし、ファイナンスとは果たして何であろうか。

「デジタル大辞泉」によれば、

1.財源。資金。
2.財政。財政学。
3.金融。融資。資金調達。

 これではさっぱり分からない。いわゆる「財務」のことなのか?

 新刊『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』(CCCメディアハウス)で正田氏は、まずファイナンスを定義づけし、その後、実際のM&A事案を紹介しながら、ファイナンスに関する考え方や技術をわかりやすく解説。数式を使わずに、ファイナンスの本質を明かしていく。

 ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第1回は「はじめに」より。


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス


◇ ◇ ◇

「ファイナンスは武器になる」

 12年ほど前、自分の立ち上げた会社を売却したことをきっかけに、M&Aの世界に足を踏み入れて、私が一番初めに思ったことです。百戦錬磨のビジネスマンを相手にM&Aのストラクチャーについて議論したり、交渉を重ねたりする際の不安を払しょくするため、何も知らなかった私は、がむしゃらにファイナンスの勉強をしました。

 M&Aの仕事とは、企業の財務に関して助言をすることです。失敗は許されません。一度の取引で何十億、何百億円というお金が動くからです。大げさな話ではなく、私は毎回毎回のディールに、自分のビジネスマン生命を懸けて取り組んでいます。

 クライアント企業の命運を背負い、相手企業のトップや弁護士、会計士、投資銀行のプレイヤーたちを前に、取引の枠組みを決め、企業の価値を認めさせ、話をまとめ切る緊張や重圧は、毎回計り知れないものがあります。

 そんなビジネスの猛者たちに、こちらの意見を伝え、説得し、動かす力が「ファイナンス」なのです。私にとってビジネスとは「戦い」であり、ファイナンスは「武器」なのです。

 しかも、その応用範囲は、なにもM&Aだけにはとどまりません。新規事業を立ち上げるときや、業務提携を行うときなど、企業の大きな意思決定にはすべてファイナンスが使えるのです。

 ファイナンスが力を発揮するのは、まだまだこれだけではありません。

 例えば、バックオフィス業務なら、グループ全体を俯瞰的に見て、自分の行うべき業務を理解できるので、効率的な仕事が可能になります。何か問題が起こったときの発見もスムーズになり、再発防止のための改善点についても効果的なアイデアが出せるようになるでしょう。



 営業職についている人なら、顧客企業のビジネスに対する理解度が深まり、顧客企業が今抱えている経営課題を瞬時に言い当てることができるようになります。その課題の解決策を自社製品の販売につなげることで、より高い付加価値を顧客に与えたり、結果としてより高いマージンを得たりすることができるようになるでしょう。

 製品の開発部門にいる人なら投資の意思決定に役立つでしょうし、システム部門なら企業分析などでファイナンスを活用する場面は多々出てくるはずです。

 ファイナンスは、ビジネスの世界において非常に良く切れる「刀」のようなものです。ビジネスの世界に入ってきたばかりの足軽のような存在でも、ファイナンスという刀をうまく使いこなせるようになれば、立派な侍になることだってできるのです。

 この20年で、1年間に世界中で行われるM&Aのボリュームは約10倍にもなっています。もちろん、これは一時的な流行ではありません。グローバルな社会・経済の大きな変化を表しているのだ、と私には感じられます。

 M&Aの増加の背景には、IT技術の発達でベンチャー企業の成長スピードが加速していることや、国内の市場が成熟してきたために既存の事業計画では過当競争に負けてしまう、ということもあるでしょう。

 ただ、ファイナンス技術がこの20 年間で急速に進化してきたことも大いに影響がる、と私は考えています。

 ファイナンスという概念は昔からあるもののように思われがちですが、それがしっかりと活用できるような法体制や環境が整ってきたのは割と最近です。

 その証拠に、ファイナンスという言葉の意味さえ、現時点ではまだ明確に定義づけられていません。ファイナンスとは、おそらく一般の方々からすると「財務」のようなイメージでしょうし、「ファイナンスする」という言葉は、資金を調達するという意味で使われています。ファイナンスの認識は非常に曖昧なものに感じられます。

 同様に、ビジネスできちんと結果を出すためのファイナンスの技術も、まだ確立されているとは言い難い状態です。MBAをはじめとするビジネススクールなど、ファイナンスを学べそうなところは確かに色々あります。WACC、EPS分析、ブラック・ショールズ、モンテカルロなど、ファイナンスを駆使するテクニックも山ほど存在します。

 しかし、このような数式をいくら頭に詰め込んでみたところで、ビジネスには活かせません。ファイナンスとは不思議なもので、ビジネススクールでいくらファイナンスを学んでも、それだけでは役に立たないのです。

「ファイナンスってどこからどう勉強したらいいのかわからない」

「ファイナンスを勉強してみたものの、実務にどう活かせるのかがわからない」

 これが今のビジネスパーソンの姿ではないでしょうか。



 いま、企業には、ファイナンスをビジネスで使いこなせる人材が圧倒的に不足しています。

 それはつまり、この急速に進化してきたファイナンスに、今はビジネスパーソンたちが追い付いていない、という現状があるのです。

 実際にビジネスで「使える」ファイナンスの技術を持っているのはごく一部の人だけです。その技術は、ごくごくわずかのハイパービジネスパーソンに独占されていると言っても過言ではありません。

【参考記事】「5年を1単位」としてキャリアプランを考えよ

 では、もし、みなさんが携わっている仕事の世界に、そのファイナンスの技術が加わったら、どのような相乗効果が生まれるでしょうか。

 私は、これらのファイナンスの技術が、もっとビジネスパーソンに知れ渡り、ビジネスの世界で活用されればよいと考えています。そのため、この本には、私が考えるファイナンスの技術をわかりやすく、ふんだんに詰め込んだつもりですし、実際にファイナンスに関する理解度は、この本を読み終えると劇的に上がっていると思います。

 もし、みなさんがこれからビジネスの世界で戦っていくのならば、この本を読み、ファイナンスを学ぶことには大きな意義があるはずです。

※第2回:ファイナンスは教養、「物の値段」を考えること


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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