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トランプvsアメリカが始まった?──イスラム教徒入国禁止令の合憲性をめぐって

ニューズウィーク日本版 2017年1月30日 17時35分

<トランプ大統領のアメリカは遂に大混乱に陥った。お気に入りの大統領令でイスラム教徒の多い国などからの渡航者すべてを入国禁止にし、難民受け入れも凍結した結果、世界中の国際空港に、突然アメリカ行きや「帰国」さえも拒絶された人々や、抗議の人々があふれている。この戦いはいったいどこへ行きつくのか>

 ドナルド・トランプ米大統領が「爆弾」を落としたのは東部時間先週金曜の夕方5時少し前。選挙公約に則って、イスラム教徒が多い7つの国からの渡航者すべての入国を禁止する大統領令を発した。亡命希望者も、米軍で働く者も、二重国籍者もお構いなしだ。難民受け入れも120日間凍結され、なかでもシリア難民の入国は無期限に延期される。すべてが即時発効だ。内外の空港で、突然アメリカ行きの飛行機への搭乗を拒否され、拘留され、場合によっては強制送還される者が相次いだ。難民としてアメリカに入国が認められた者や、グリーンカード(アメリカ永住権)を持つ者も見境なしだ(後に、グリーンカード所持者は入国できることになった)。

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 トランプは翌日、報道陣にこう話した。「大変うまくいっている。空港を見ればわかる。どこでもうまくいっている」。だが全米の大空港や連邦裁判所からは逆の声が聞こえてくる。

「憎むべき」大統領令だ、と真っ先に非難の声を挙げたのは公民権団体だ。シカゴからニューヨーク、ダラスまでの主要な国際空港で抗議デモが始まった。写真を見ると、あらゆる人種や年齢、宗教の人々が、宗教的迫害をやめて「よりよいアメリカ」を求めている。

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人権団体が差し止め請求

 事態は土曜の夕方までにますます緊迫した。ACLU(アメリカ自由人権協会)が他の公民権団体とともに、難民や移民の入国禁止と強制送還を差し止める緊急動議を裁判所に提出したのだ。

 動議は認められた。

 ニューヨーク連邦地裁のアン・ドネリー判事は、一部のイスラム教国からの入国を禁止する大統領令は合衆国憲法に違反している可能性が高いとして、次のように言った。「何も停止措置がとられなければ、当該国からきた難民やビザ所持者やその他の人々に重大で回復不能の危害が及ぶ切迫したリスクがあった」

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 この判断により、大統領令で名指しされた7つの国──イラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメン──から来た難民申請者、ビザ保持者、その他個人の入国を警察などが止めることはできなくなった。バージニア、マサチューセッツ、ワシントン州などでも同様の差し止め命令が下された。



 土曜までには、国内はもちろん世界の指導者が大統領令を批判し、カナダのジャスティン・トルドー首相は、アメリカに入国できなかった難民を受け入れるとさえ申し出た。ホワイトハウスは今も入国禁止の判断は間違っていないと主張する。トランプはツイッターで、「我が国は今すぐ、国境管理と身元調査を強化しなければならない。ヨーロッパや世界で何が起こったか見てみるといい、ひどい有り様だ」

 ニューヨークなど15州と米首都の司法長官は日曜、大統領令は信教の自由を侵害し「憲法違反だ」とする共同声明を発表した。訴訟を検討する州もある。活動家や市民団体は大統領令が撤回されるまで訴訟を続けるだろう。抗議デモは週を通じて、全米で計画されている。

 トランプvsアメリカの幕開け、となるか。





チェルシー・ハスラー

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