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ファイナンスは教養、「物の値段」を考えること

ニューズウィーク日本版 2017年1月31日 14時41分

<ファイナンスとは何か。ビジネススクールで知識として学ぶもの? 数式ばかり出てくる難解なもの? それは誤解だと、若き実業家の正田氏は言う>

 今はさながら「ファイナンス」のプチ・ブーム。ただし、ファイナンスとは何かについて大きな勘違いが流布していると、正田圭氏は言う。

 1986年に生まれ、15歳で起業。現在、M&Aの最前線で活躍する若き実務家である正田氏はこう語る。「実際にビジネスで『使える』ファイナンスの技術をもっているのはごく一部の人だけ。いま、ビジネスの世界では事業家(=ファイナンス人材)が圧倒的に不足している」

【参考記事】はったり営業もしていた若き起業家の「失敗論」

 ファイナンスとは何か。新刊『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』(CCCメディアハウス)で正田氏は、まずファイナンスを定義づけし、その後、ファイナンスに関する考え方や技術をわかりやすく解説。数式を使わずに、ファイナンスの本質を明かしていく。

 ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第2回は「第2章 ファイナンスに関するよくある勘違い」より。

 ファイナンスには大きな勘違いが3つあり、1つ目は「ビジネススクールで知識として学ぶもの」という勘違い。そうではなく、ファイナンスは「教養」であり「お金という枠組みで思考するためのフレームワーク」だという。以下は、2つ目の勘違いについて――。


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス


※第1回:「使えるファイナンス」をもつ人材が日本に足りない

◇ ◇ ◇

「数式」を覚えるだけのファイナンスは無意味

 2つ目の大きな勘違い。

 それは、ファイナンスと聞くと、とても難しいことを扱っていて、数式ばかり出てくる難解なものだと認識している方が少なくないことです。ですが、誤解を恐れずに言えば、ファイナンスの基本となるのは実に単純な発想です。数式はメインではありません。

 たとえば、5千万円の価値があるマンションが3千万円で売り出されているという情報を耳にしたとしましょう。これが本当なら誰でもお買い得だと思うのではないでしょうか。買ってすぐに転売すれば、それだけで2千万円の利益です。自分で住むとしても、人に貸すとしても、購入の決め手となる十分な情報ではないでしょうか。

 しかし、この情報の真偽性はよく考慮しなければいけません。つまり、本当にそのマンションは5千万円の価値があるのか、という点をよく精査しなければいけないということです。ファイナンスは、こうしたケースで正しい値段を割り出すための方法を提供してくれる考え方であり、それによって導き出された判断に従うことによって、ビジネスをより正しい方向に進めていくことが可能になります。

 ビジネスパーソンとして日々のニュースに接していると、「ファイナンスの重要性」について触れた記事を目にしたり、それを実感したりするような機会があると思います。特にここ最近、その傾向は強まるばかりです。



 そうした流れの中で、興味を抱いてファイナンスのさわりの部分を勉強したものの、小難しい数式や、ディスカウント・キャッシュフロー法やNPVなどというカタカナ言葉やアルファベットに圧倒されて、本を手に取るのをやめてしまった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 そんなことを繰り返していると、次第に「ファイナンスは机上の空論にしか過ぎないのでは?」という考えを抱くようになり、途中でファイナンスの勉強をやめてしまうことになります。

「ファイナンスがわかったからといって、それが何に使えるんだ?」

「それを使って、どうやって儲けられるんだ?」

「ファイナンスの知識があれば、会社の利益に貢献できるのか?」

 具体的な"活用策"がなかなか見えてこないうちにその必要性がわからなくなり、継続的に勉強するのをやめてしまうのです。

【参考記事】まんが:少ない努力で大きな成果を出すのが、80対20の法則

ファイナンスとは「物の値段」を考えること

 ファイナンスとは、一言でいうと、「物の値段」を考えることです。

 先ほど、ファイナンスは教養だ、というお話をしました。

 教養といえば、美術なんかも教養に入ります。美術品を見て、この美術品はこういう点がすばらしいとか、ここに工夫が凝らされているということを論ずるのが教養としての美術だと思いますが、ファイナンスも実はこれと一緒なのです。

 商品でもサービスでも何でもいいのですが、これにはいくらくらいの値段がつくはずだ。なぜなら......と「物の値段」を論じていくのがファイナンスのおもしろさなのです。

 物に値段をつけるのは、なにも目に見えるものだけではありません。時間や自由度など、目に見えないものにも値段をつけて、それを議論するのが教養としてのファイナンスです。ニュースで見るM&Aなどの話も同じです。M&Aの本質は、会社という目に見えないものに値段をつけ、買うべきか否かを判断することなのです。

 自分で考えた値段がほかのみんなが考えた値段よりも高ければ、お買い得のものを見つけたということになります。逆に、ほかの人が考えた値段が自分が考えた値段よりも高ければ、売り時なのかと考えてみる。これがファイナンスの考え方です。

 ファイナンスというとビジネスにだけ関係すると捉えられがちですが、実はビジネス以外にも活かすことができ、非常に実用性の高いものです。

 宝くじを買うべきか、生命保険に入るべきか、賃貸住宅に住むべきか、もしくは戸建ての家を購入すべきなのか......。儲かる話があるなんて言われたけど、その話は果たして本当に儲かるのか......。このような質問にも、ファイナンスという枠組みを持つことで明快に回答できるようになるのです。

 2つ目の勘違いのまとめになりますが、ファイナンスとは、意思決定を行うための方法論であり、難しい数式をこねくり回すことではない、ということです。



 とはいえ、ファイナンスの世界に数歩足を踏み入れると、高度な数式なども登場します。数式は多くの人が苦手意識を持っていて、正直なところ私も退屈だと思ってしまうことがいまだにあります。ただ、数式が出てくるという理由だけでファイナンスを遠ざけ、ファイナンスの優れた面に触れることなく勉強をやめてしまうのは、あまりにももったいないと言わざるを得ません。

 実は、この一見退屈なファイナンスに、みなさんが興味をもっていただくきっかけになるのが本書の狙いなのです。

 この本には、難解な計算式やアルファベットを並び立てるような記述は一切登場しません。

 その代わり、本書では、みなさんがビジネスの世界で聞いたことや目にしたことがある事例を題材にしながら、企業のトップであるエグゼクティブたちがどのようにファイナンスを駆使して日々奮闘しているか、いかに挑戦的なことを試みているのか、をご覧いただきます。

 時には、なんてバカバカしいことをしているのか、と思ってしまうこともあるかもしれませんが、そうしたことも含めて、ファイナンスの世界の一端をみなさんにぜひ知っていただきたいのです。

※第3回:英語やプログラミングより「ファイナンス」を始めなさい


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』
 正田 圭 著
 CCCメディアハウス



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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