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米ハイテク業界がトランプの移民政策に反旗

ニューズウィーク日本版 2017年1月31日 17時30分

<トランプ政権の強権的な移民政策が、アメリカで最も裕福で最も頭脳明晰なトラの尾を踏んだ。シリコンバレーのハイテク業界だ。グーグルやアップルの逆襲は功を奏すか、それともカリフォルニアごと独立するのか>

 移民や難民の入国を一時禁止するなどとしたドナルド・トランプの大統領命令は、世界中の怒りを買っている。著名人や慈善団体はもちろん、民主党と共和党、外国政府(入国禁止の対象となり報復すると誓ったイラン外務省)や国連、世界の指導者たち(メルケル独首相、メイ英首相など)など、波紋は広がる一方だ。身内の米政府内でも、国務省職員100名ほどが抗議文書に署名し、サリー・イェーツ米司法長官代行は入国禁止令の合法性を疑問視して反対。驚いたことに、イェーツは「裏切り者」(ホワイトハウス)としてあっという間に解任された。

【参考記事】トランプvsアメリカが始まった?──イスラム教徒入国禁止令の合憲性をめぐって

 こうしたなかで、具体的な抗議や対抗策への取り組みという点では、シリコンバレーがいちばん進んでいるといえるだろう。

 アップルのティム・クックCEOやテスラ創業者のイーロン・マスクも、どこかでトランプと共通の土台が見つけられるのではないかと期待していた。トランプも、世界の頭脳が集中するシリコンバレーを称賛したことがある。選挙地盤や既成権力の助けを借りずにトランプが当選できたのも、シリコンバレーが発明したツイッターの力が大きかった。

 だが、見せかけの同盟は崩れ去った。トランプがすべての難民とイスラム教徒が多数派の7カ国からの渡航者の入国を一時、あるいは無期限に禁止する大統領令を出し、直ちに実行に移したからだ。

【参考記事】トランプ政権が国務省高官を「一掃」 イスラム移民排除への布石か

 シリコンバレーの取り組みが早かったのは驚くにはあたらない。
シリコンバレーが位置するカリフォルニア州の不法移民の人口は全米最大で、昨年は他のどの州よりも多くのシリア難民を受け入れている。今回の大統領令で無期限に入国禁止とされたシリア難民だ。トランプ当選以降は、カリフォルニア州からの独立を訴える「カレグジット」運動が盛り上がっているほど移民が多い。シリコンバレーの従業員もかなりの部分は、トランプの移民入国禁止令の影響を受ける移民や難民の出身者なのだ。

【参考記事】トランプ政権の黒幕で白人至上主義のバノンが大統領令で国防の中枢に

 以下は、個別企業の対応だ。

■グーグル

 このニュースに最初に反応した大企業は、検索エンジン大手のグーグルだった。スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は社内メモを公開し、同社従業員のうち最低でも187人がこの大統領令の直接的な影響を受けることを明らかにした。

 グーグルは声明で、この大統領命令は「優れた人材をアメリカに呼び込むうえでの障害となる」と主張。「われわれは今後も、アメリカ政府ほかすべての指導者たちに対し、これらの問題に関する意見を訴えていくつもりだ」と付け加えた。

 今回の入国制限から従業員を守るために、グーグルは約100人の従業員を海外から呼び戻した。



 だが、抗議の意思をもっとも大きく行動で示したのはおそらく、グーグル共同創業者のセルゲイ・ブリンだろう。ブリンはサンフランシスコ空港で行われた抗議運動に参加したのだ。フォーブス誌の取材に対してブリンは、「私がここにいるのは、私が難民だからだ」と語った。ブリンは6歳のとき、両親と共に旧ソ連からアメリカに亡命してコンピューター科学者になった。

 グーグルは日曜夜、移民支援のために、400万ドルを集める緊急基金を設立すると発表した。同社にとっては過去最大規模の基金となる。

■ウーバー、リフト

 ウーバーのトラビス・カラニックCEOは、移民規制を批判するのが遅かったため、同社の配車サービスアプリ「Uber」の削除を呼びかけるキャンペーンが巻き起こる騒ぎとなった。ライバル企業のリフトが移民規制を非難し、アメリカ自由人権協会(ACLU)に対して100万ドルを寄付すると約束するや、ハッシュタグ「#DeleteUber(Uberを削除しよう)」はますます勢いづいた。

 カラニックはリフトに対抗するべく、300万ドルの基金を設立し、トランプの「不当な」命令の影響を受けるドライバーの訴訟費用を支援すると約束した。

 カラニックはフェイスブックへの投稿で次のように述べた。「ウーバーの信条は、正しいことのために立ち上がることだ。ウーバーはコミュニティだ。われわれは支え合うためにここにいる」

■Airbnb(エアビーエンドビー)

 Airbnbは大統領令への対抗策として、移民規制の影響を被った人々に、滞在先を無料で提供すると発表した。社内向けの災害対応プログラムを活用するという。

 Airbnbのブライアン・チェスキーCEOは、「Airbnbは、難民、およびアメリカに入国できない人々に対して住宅を無料で提供します」とツイートした。「さらなる支援策については後でご連絡します。滞在先が早急に必要な方はわたしに連絡してください」

 また別のツイートでチェスキーは、「扉を開けば、わたしたちはひとつになる。扉を閉じれば、わたしたちはさらに分断される。人々を分離する方法ではなく、結びつける方法をみんなで見つけよう」と述べた。

■フェイスブック、ツイッター

 フェイスブック創業者であるマーク・ザッカーバーグの曽祖父母は、ドイツやオーストリア、ポーランドからの移民だった。ザッカーバーグはフェイスブック上で、トランプの大統領令がもたらす影響への「懸念」を表明した。



「アメリカは移民の国だ。世界中の才能あふれる人材がこの国で暮らし、働き、社会に貢献することで、わたしたちの誰もが恩恵を受ける。わたしたちの願いは、勇気と思いやりをもって人々がひとつになり、すべての人のためにこの世界をより良い場所にすることだ」

 一方、ツイッターのジャック・ドーシーCEOは、今回の大統領令がもつ人道的・経済的な影響は「現実のものであり破壊的なものだ」と述べた。ツイッターの公式アカウントも、「あらゆる宗教に属する移民」への支援を約束した。

■アップル、マイクロソフト

 アップルとマイクロソフトは長年にわたるライバルだが、移民を支援するメッセージを通じて団結する姿勢を見せている。

 マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEOはリンクトインを介して次のような声明を発表した。「わたしは移民として、そしてCEOとして、移民たちが我が社とアメリカ、そして世界にプラスの影響をもたらす様子を肌で感じ、目にしてきた。われわれは今後も、この重要なテーマについて意見を主張していく」

 アップルのティム・クックCEOも従業員に宛てたメモで賛同の意を表す。「今週行われたアメリカ政府当局者との会談のなかで、私はこう明言した。アップルとアメリカの未来の両方にとって、移民が重要であることをわれわれは強く確信している、と」

 そして、こう付け加えた。「移民なくしてアップルは存在しないだろう。ましてや今日の繁栄や革新などありえなかった。われわれはこの政策を支持しない」



アンソニー・カスバートソン

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