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トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり

ニューズウィーク日本版 2017年2月1日 19時52分

われわれは本当にあと4年、あの男で我慢するしかないのだろうか。

今、世界中の多くの人が同じことを考えていることだろう。ドナルド・トランプがアメリカの大統領に就任してからわずか1週目で、誰の目にも明らかになったからだ。皆が恐れた通り、彼は常軌を逸している。

大統領就任前の、楽観的な幻想を覚えているだろうか。「いざ大統領になれば、(TPP離脱など)選挙戦中のむちゃな公約がどれほど無意味かわかるはず」「ツイッターで手当り次第に他人を侮辱するのはよくないことも理解する」「メキシコとの国境に壁を建設するなどという勇ましい公約も取り下げるだろう」

期待は見事に外れた。就任から1週間で、選挙中の狂気のような公約はすべて本気だったことを、トランプは証明してみせた。

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トランプの「政策」が招いた結果は、今のところ以下のとおりだ。保護主義に走るアメリカに代わり、中国がグローバル化と自由貿易の守護者になると買って出た。メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領はワシントンで予定されていた首脳会談をキャンセルし、大統領選で多くの不法移民が不正投票を行ったという主張には与党・共和党の重鎮も反論。国務省では高官の多くが辞任した。

3人に1人が弾劾を切望

一方、トランプの就任直後の支持率は調査開始以来の最低を記録した。大統領としての仕事ぶりに肯定的な評価を下した国民はたった36%。さらにイギリス国民の約80%がトランプは「悪い大統領になる」と回答。フランスでは77%、ドイツでは78%が同じように回答した。

わずか1週間でこの有り様だ。

だからこの疑問にたどり着く。本当にドナルド・トランプで我慢するしかないのか。

いや、必ずしもそうではない。

トランプを追放する方法は4つある。1つ目は、次の大統領選がある2020年11月まで、ひたすら辛抱強く待つこと。その頃には、さすがにアメリカの有権者も目を覚まし、無能な男を切り捨てる心の準備ができているはずだ。

だが1週目であの破壊力を見せつけられると、とても4年は耐えられそうにない。となれば2つ目の選択肢、「弾劾」だ。合衆国憲法の下、下院の過半数が賛成した場合、大統領を「反逆罪、汚職、その他の重罪および軽罪」の疑いがあれば弾劾裁判にかけられる。上院の3分の2が賛成して有罪が確定すれば、罷免だ。就任から1週間後の世論調査によると、すでにアメリカ人の3分の1以上は、トランプが弾劾されるのを熱望している。

【参考記事】オバマ弾劾にこだわるアメリカの右派



弾劾のいいところは、反逆であれ殺人であれ、議会は証拠がなくても手続きを進められるし、どんな些細なことも「重罪や軽罪」と見なすことができる(ビル・クリントン元大統領は、ホワイトハウスの元実習生モニカ・ルインスキーとの不倫疑惑をめぐり嘘をついたとして下院の弾劾決議を受けた)。逆によくないところは、上下両院の多数派をトランプの共和党が占めるため、議会が弾劾を可決する可能性が低いこと。民主党が議会で過半数を獲得すれば話は別だが、それには早くとも2018年の中間選挙まで待たねばならない。

【参考記事】ビル・クリントンの人種観と複雑な幼少期の家庭環境

いずれにしろ、弾劾には時間がかかる。たとえ議会が弾劾に大賛成でも、手続きには最低数カ月かかる。ましてトランプには核兵器の発射コードを預けてあるのだから、わずか2~3カ月でも永遠のように思える。トランプが核ミサイル発射を決断するまで、残された時間はどれほどあるのだろうか。

日々暗雲が漂うなか、世界の一部の人々は、合衆国憲法修正第25条を心の拠り所にしている。これが3つ目の選択肢だ。これまであまり注目されたことがなかったが、この条項には「副大統領と......各省長官の過半数」が、大統領には「職務上の権限と義務を遂行できない」と判断した場合、「副大統領が直ちに大統領代理として、大統領職の権限と義務を遂行する」と明記されている。

最後は軍事クーデター

これならマイク・ペンス副大統領の野心もくすぐるだろう。ペンスはいつか大統領になりたいと思っているはずだ。彼は政治家として、必ずしも穏健派ではない。絶えず同性愛者を差別する政策を掲げ、気候変動にも懐疑的。それでも彼は、狂ってはなさそうだ。(「狂っているかいないか」は、アメリカの政治家を評価する新基準だ)

ペンスにはきっと、アメリカにとって重要な同盟関係を次々と骨抜きにし、核の先制使用もありうるというトランプの軽挙妄動に反対するくらいの分別がある。最悪の事態になれば、他の閣僚たちもトランプを追放して、ペンスを大統領にするだろう。

4つ目の選択肢は、アメリカではまさかあり得ないと思われるかもしれないが、軍事クーデター、或いは米軍の上層部が大統領命令の一部に従うのを拒否することだ。

文民統制の原則は、米軍の内部で深く根付いており、党派を超えたプロ意識を誇りにしてきた。一方、軍に関する決定では、制服組よりも、法律違反を厭わない高位の政治家の方が遥かに大きな権限を持つことも周知の通りだ。例えば1期目のジョージ・W・ブッシュ政権は、国内最高の軍事法律家から集団で公式な抗議を受けても、拷問をやめなかった。米軍の上層部が水責めなど過酷な尋問方法に反対しても、同政権は軍の意向を無視して、CIAや丸投げした民間企業に卑劣な仕事をさせた。両者のギャップが大きければ大きいほど、対立は生まれやすくなる。



トランプのやり方は、器用でも洗練されてもいない。政策を設定するにしても、側近や弁護士に密かに告げるような手法を取らず、暴言や夜遅くのツイッターで済ませてしまう。あの神経質で落ち着きがなく、自分勝手で突発的な振る舞いには、ホワイトハウスの一部の側近でさえ憤ったと報じられた。

果たして米軍トップは、分別に欠けるどころか危険な混乱を招く内容で、軍を当惑させる命令を受けたら、どういう行動に出るだろう。例えるなら、「明日メキシコへ侵攻せよ」とか「イスラム教徒のアメリカ人を一斉検挙し、グアンタナモ収容所へ送れ」「中国に教訓を与えてやる、核兵器を使ってな!」といった命令だ。

米軍の上層部が大統領の命令に公然と反抗する光景は、想像すると恐ろしい。だが、狂気の命令に軍が服従すると思うと、同じくらい身の毛がよだつ。結局、軍人は合衆国憲法を守ると言って忠誠を誓うわけで、大統領ではない。私は人生で初めて、軍のトップが大統領にこう告げるのが妥当な場面を想像できる。「いいえ、大統領。その命令には従えません」

みんな覚悟が必要だ。どう転んでも、これからの数年は荒れ模様になるだろう。

From Foreign Policy Magazine

ローザ・ブルックス(米ジョージタウン大学法学部教授)

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