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知られざるリオ五輪もうひとつの「日本PR」

ニューズウィーク日本版 2017年2月3日 18時9分

<昨年のリオ五輪では閉会式の「TOKYO 2020」パフォーマンスが話題になったが、実は日本のプロモーション努力は他にもあった。「ジャパンハウス」だ。関係者として見た、知られざる「日本PR」のドタバタと舞台裏> (写真:日本と最も深く長い関係を持つ名門サンバチームImpério Serrano〔インペーリオ・セハーノ〕の旗手ダンサーたちが、日の丸を掲げ、両国の友好と"RIO2016 to TOKYO2020"を祝ってくれた)

昨年のリオデジャネイロ五輪の閉会式を覚えているだろうか? 奇しくもサンバ誕生100周年の年に行われ、リオのカルナヴァル(カーニバル)で培われた伝統的なお家芸である本場ブラジルのサンバ隊による音楽とダンスと大規模な演出、そして日本による「TOKYO 2020」パフォーマンスが話題になったことは記憶に新しい。

しかし、実は日本のプロモーション努力はこれだけではなかった。

日本で報じられることはあまりないが、オリンピックのたびに現地では「ジャパンハウス」という日本の魅力を世界に発信するための施設が設置される(五輪に関係なく常設されている例もある)。

リオ五輪ではリオ市内のシダーヂ・ダス・アルテス(Cidade das Artes)という大規模な総合芸術施設(東京ビッグサイトやパシフィコ横浜より大規模な会場)に8月5日から設置され、日本政府、外務省、農林水産省、東京都、東京五輪招致委員会、日本代表選手団、そして公式スポンサーによる展示やイベントの本部として、オリンピック・パラリンピック両期間中は毎日無料で公開されていた。

ジャパンハウスでは"RIO2016 to TOKYO2020"のメインテーマが大きく掲げられ、全国47都道府県の魅力を伝える展示ブースが設けられていて、来場したリオっ子やブラジル国内外からの観光客は日本各地の多彩な魅力に興味と理解を深めていた。特に東京都の魅力を伝える展示は、日本ならではの最新VRによる大型インタラクティヴ・エキシビションが秀逸だった。都内の名所をまるで自分で歩いているかのように体験でき、ハイテク満載な日本らしい展示で人気を博していた。

他にも2019年に日本で開催されるラグビーW杯のプロモーションや、ブラジルでも人気の日本酒の試飲、書道や茶道、ヨーヨー、浴衣の着付けの実体験ブースなどが大好評。メインステージには、リオ出身でサッカー日本代表元監督のジーコ氏や日本代表メダリスト、また安倍晋三総理までもが登場。様々なパフォーマンスやトークイベントが開催され、盛り上がった。

【参考記事】東京五輪の観戦客には中継映像の「おもてなし」を

しかし、実はこのジャパンハウス、全てが周到に企画・準備されたものとはいえなかった。

開催2カ月前に音楽イベントを依頼された

筆者は1997年より20年にわたりブラジルと日本を行き来し続け、打楽器奏者として活動しつつ、日本・ブラジル(日伯)2国間の様々なプロジェクトに少なからず関わってきた。

大学時代には日本人ブラジル移住90周年プロジェクトに参加。以来、サッカーW杯や五輪などの国際大会がある度に、日本にブラジルを伝えるべく番組出演や寄稿をしたり、イベントのMCを務めたりしてきた。日伯どちらの政府からも両国関係に関するプロジェクトに招集され、日本や米国の大企業から依頼を受けるブラジル市場のコンサルタントとしても実績を重ねている。

そんな実績を買われ、今回、オリンピック・パラリンピック両期間中の11日分、ジャパンハウスのメインステージで開催される音楽イベントのコーディネートと企画を依頼されたのだが、その仕事が決まったのは6月中旬。開催までもう2カ月を切っていた。あまりにも時間がなかったが、現地ブラジルで実績と人脈があり、早急に企画ができる人間として私のもとに持ち込まれたのだ。



それでも私は、なんとか「日伯友好ステージ」のプロデュースに成功した。日本側チームと現地関係者、出演者とが一丸となって、ジャパンハウス全体への集客に役立ち、盛り上がるだけでなく、日伯の真の交流が生まれることを目指した。

ステージMCは私自身と、英語も流暢なブラジル人女性の友人に頼んで2人で務めた。世界的に有名な大御所Arlindo Cruz氏(ブラジルW杯の際に世界同時リリースされた公式CDやリオ五輪公式アンセム曲でも知られる存在)、来日経験もあり世界中で人気のグループMONOBLOCO、2016年のブラジル音楽大賞を受賞したMoacyr Luz e Samba do Trabalhadorをはじめ、これまで私と共演経験があり、信頼関係のある新旧多彩なアーティストたちに出演していただいた。私はポルトガル語で総合MCを担当、同時に演奏で共演した。

結成前からの友人たちによる世界的人気のグループMONOBLOCOともLIVE共演。大盛況だった

2016年のブラジル音楽大賞を受賞したMoacyr Luz e Samba do Trabalhadorの生演奏

他にも、日本語を通じてブラジル人に日本を長年伝え続け、日系人社会への貢献でも知られる日本語教室主宰のIolanda Shitom先生に、リオの日系人社会を代表して登壇し日系人社会の歴史や"RIO2016 to TOKYO2020"にかける思いをスピーチしていただいた。日伯両国に関わってきた面々による日本酒による乾杯のセレモニーも行った。

日本語教室主宰のIolanda Shitom先生(中央、右がMCを務める筆者)がリオの日系人社会を代表してスピーチ

リオ市、リオの日系人社会を代表する面々と日本酒で乾杯(左から、MCの女性、Rio Nikkei Taiko代表のマリオ氏、Império Serrano代表のVera Lúcia氏、Iolanda Shitom先生、筆者)

また、リオの日系和太鼓グループと、1970年代から日本と最も深く長い関係を持つ名門サンバチームImpério Serrano(インペーリオ・セハーノ)とが、和太鼓とサンバの打楽器とを取りかえた夢のライブセッションも企画した。企画段階では日本の制作関係者は賛同していなかったが、本番は成功して大好評となり、今回プロデュースした日伯交流ステージのハイライトになったと思う。


Courtesy of FOCO2 Jeanine Gall


競技以外はネガティヴな報道ばかりだった

現場スタッフチームによる大きな尽力もあり、結果的に成功したが、日本側のブラジルでの経験や理解、準備不足によるドタバタも少なくなかった。それは、日本とブラジルを結びつける実績やノウハウのある人材が日本の業界で認知・評価・登用されていなかったこと、また途切れてしまっていることが原因ではないだろうかと感じた。

例えば、日本航空などで長年にわたり政財界はもとよりスポーツや音楽など文化面でもリアルな「日伯人間関係」を創出し続けた実績で慕われる吉村恭吾氏や、日本の国策でブラジル移住が行われた時に設立された伝統ある代理店、海外移住旅行社で文化的な現場を繋いで活躍した稲垣達也氏をはじめ、国境や世代を越えた人徳とノウハウを兼備した面々が、かつての日伯交流の現場にはいた。そうした大ベテランや彼らの後継者が今回のプロジェクトには紹介されなかったことが少し残念だった。



ともあれ、私はメインステージのコーディネートとMC、ライブ出演を務めただけでなく、公式サイトのポルトガル語版を作るよう要請(ブラジルで開催されるにもかかわらず日・英・仏語しかなかった)、集客のため、他のイベントやテレビ番組に出演するたびに自らジャパンハウスのイベントについて告知し、フライヤーの制作まで行った。

結果、ブラジルのマスメディアや英BBC、サンパウロの日系メディアに取材を受け、ジャパンハウスが「サンバという手法」(=歌、リズム、踊り、心意気を全員で共有し楽しむ精神)を基本コンセプトに据えたことで、観客もスタッフも一体となり盛り上がった点が最も注目され、伝えられる結果となった。

ブラジル最大手新聞O GLOBO紙では、テクノロジーの国、日本の展示は秀逸だったが、何よりサンバを会得した日本人による音楽シリーズが注目だったと大きく報じられた。

しかし日本のメディアでは、私に渡航前からコンタクトを取っていたディレクターによるNHKの1ラジオ番組のみによって少しだけ伝えられるに留まった。

そんな日本のマスコミにも問題を感じる。オリンピック・パラリンピックの競技の話題は伝えられたが、それ以外の部分では、リオの治安の悪さやジカ熱への懸念などネガティヴな内容ばかりが妙に取り沙汰され、このジャパンハウスはもとより、実際の現地リオの実情や現場の盛り上がりの様子があまりにも報じられなかった。

これも、日本のメディアにきちんとブラジルを伝えられる人材がいない、またそうした人材を登用し、ポジティヴかつリアルな紙面・番組を企画することをしなかったからだ。

実際に、オリンピック・パラリンピック期間中、ブラジルでは国をあげて治安維持やテロ対策が徹底され、世界中から訪れた観光客がリオという舞台で出会い、本来のオリンピック・パラリンピックの精神やムードにあふれた最高の時間と情熱を交歓していて、感動を分かち合っている様子が多々見受けられた。

ところでリオでは毎年、地上最大規模の祭りであるカルナヴァルが開催され、世界中から観光客が押し寄せる(現地メディアによれば、2015年には100万人が訪れた)。すなわち、世界で最もコンスタントに大規模な祭典を行うノウハウがあるのだが、日本ではあまりにもリアルな部分、ポジティヴな醍醐味が知られていない。

日本を海外に伝える努力も大切だが、海外を日本に正しく伝える努力ももっと必要ではないだろうか。

ケイタブラジル(KTa☆brasil)
東京生まれの日本人音楽家。著名なJ-POPシンガーから世界的なアーティストまで制作・共演の実績多数。1997年よりブラジルで活動。リオ市観光局公式プレゼンター。本場リオのサンバの殿堂初(G.R.E.S. Império Serrano)の外国人公式認定打楽器指導者。リオの名門クラブチームC.R.Vasco da Gamaスタジアム殿堂刻名会員。
http://www.natsu-biraki.com/artist_tokorozawa/kta_brasil.html


ケイタブラジル(KTa☆brasil)

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