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韓国、米国防長官とサード配備を確認 中国との訣別に踏み切る?

ニューズウィーク日本版 2017年2月3日 22時23分

<「アメリカファースト」を謳うトランプ政権の誕生によって、従来の安全保障が維持できるのか不安視していた韓国。マティス国防長官の訪韓により同盟維持とサード配備が再確認され当面の懸念は払拭されたが、それは朝鮮半島情勢の不安定化を呼ぶ危険もはらんでいる──>

韓国を訪れているジェームズ・マティス米国防長官は、3日ソウルで「米韓同盟はアジア太平洋地域の平和と安定の重要な軸である」と語り、「アメリカと同盟国に対する北朝鮮の攻撃は必ず撃退する。どのような核兵器の攻撃にも圧倒的な報復で応じる」と、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮に強い警告を与えた。

(参考記事:訪韓のマティス米国防長官が北朝鮮に警告「核兵器には圧倒的な報復」)

トランプ政権の初代国防長官についたマティスが、今回就任早々、初の外遊先に日本と韓国を選んだのは、トランプが選挙期間中に両国に対し駐留米軍の費用負担増や、アメリカに頼らず自主防衛を求めるなど、従来の日米韓同盟の在り方を根本から揺さぶるような発言を繰り返したことに対する、謝罪と同盟を確認するという意味がある。

(参考記事:初外遊は日韓「謝罪ツアー」、新国防長官マティスの狙い)

実際、マティス自身、韓国に対しては強い思い入れがあるようで、韓国メディアの文化日報によれば、韓国の韓民求(以下、ハン・ミング)国防部長官との会談冒頭、「私は21歳のとき、少尉としてこの勇敢な国を訪問した。また来ることが出来て嬉しい」と語り、自らが韓国の「友人」であることを印象づけた。

マティス国防長官は、北朝鮮のミサイル実験への抑止力として注目される高高度ミサイル防衛システムTHAAD(以下、サード)についても、「北朝鮮の脅威に対してサードと在韓米軍の配置を支障なく進めていく」いう立場を明確にした。 サード配備の日程については、今年中に配備して運用開始するという従来の計画どおりに推進することで合意した。





サード配備をめぐり対立が激化? (c) YTN / Youtube


サードの年内配備を確認

一方で、サード配備に対して一貫して反対を表明している中国にも配慮し、「北朝鮮の挑発的行動がなければ、私はここ(韓国)にいる必要がない。(北朝鮮以外には)サードについて心配する国はない」と語り、あくまでサードは北朝鮮だけを念頭に置いたものだと強調した。

今回の韓国訪問でマティス長官は2日にファン・ギョアン大統領権限代行、キム・グァンジン大統領府国家安保室長、ユン・ビョンセ外交長官らと面談。トランプ新政権が朝鮮半島をめぐる安全保障政策については従来と変わらぬ同盟関係の枠組みを維持し、直面する北朝鮮の核ミサイルの脅威に結束して対応することを印象づけた。また、トランプ大統領が選挙期間中にさかんに発言した在韓駐留米軍の防衛費負担についても、今回は言及しなかったことも、同盟関係維持を優先させたものと見られている。

核戦争の"最後の審判の日"で、北朝鮮を威圧

韓国メディアがさらに今回のマティス長官の訪韓で注目したのは、その搭乗機がE-4Bナイト・ウォッチだったということだ。ボーイング747ジャンボジェットをベースに改造されたE-4Bは、核戦争発生時に地上での指揮が執れなくなった際にアメリカ大統領や国防長官が搭乗し米軍を空の上から指揮するために作られたもので、別名Doomsday Planes=最後の審判の飛行機と呼ばれている。通常、国防長官はVC-32という国防長官専用機を使うが、今回同盟国への訪問としては史上初めてE-4Bに搭乗して訪韓した。有事の際には空中から大陸間弾道ミサイル部隊(ICBM)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)部隊、戦略空軍などを指揮して相手に報復を加えることができるE-4Bに乗ってきたことは、北朝鮮に対する強力な威嚇の意味が込められていた。




サード配備反発で韓国への圧力強める中国

米韓によるサード年内配備確認の発表を受けて、すぐに反応を示したのが中国だ。中国共産党機関紙・人民日報傘下の有力国際情報紙の環球時報は「韓国人はまるでアメリカを救世主のように思っているようだ。ソウル既に徹底的にワシントンに傾いており、アメリカの操縦に身を任せている。韓国の独立外交はほとんど死んだも同然で、思考停止状態に陥っている」と皮肉った。さらに、「マティス長官はサードが北朝鮮以外の国を狙ったものではないと言ったが、中国は信じない。韓国は自身が気がつかないうちに大国間の駆け引きに巻き込まれ、それによる負担や費用は長引くだろう」と警告した。

事実、韓国と中国の関係はサード配備計画が発表された昨年7月以降、急激に悪化しており、経済面での影響がさまざまな分野に広がってきている。

聯合ニュースによると、韓国統一研究院は、サード配備が決定されてから7月8日から今年1月までの間に中国政府が韓国を対象に43件もの"報復"措置が執られたという。文化面では韓国のK-POPアイドルなどのコンサートのキャンセル、ドラマの放映禁止、チャーター便の運航不許可など23件。経済分野では電気自動車のバッテリー認証基準の強化や、家電製品や韓流コスメなどの品質基準の引き上げなどがあるという。
同研究院は「韓国を狙った中国側の報復が次第に多様化している。中国国民の民族主義的な感情に火が付けば、韓国製品不買運動に発展する可能性もある」と分析した。



こうした中国の締め付け強化に韓国側も最近では反撃をしようという動きを見せている。

韓国外交部の関係者は1月25日に「中国のサード報復対策を関連部署の協力のもとで検討しており、被害を最小化する方法のひとつとして国際法に訴えることも考えられる」と明らかにした。この関係者は「WTO提訴も方法のひとつに含まれる」と明言した。従来は中国側に配慮して憶測レベルで報じられていた中国による"韓国いじめ"を、明確な政治レベルの問題として取り上げようという韓国政府の態度の変化がうかがえる。

また、韓国法務部が最近、中国人講師のビザ延長を拒否したことも話題になっている。韓国MBCによると、中国政府は世界各地に中国文化の普及を目的として"孔子学院"という教育機関を設置しており、韓国にも22か所設置されているという。そのうち、仁川にある大学に併設された"孔子学院"で5年前から働いている中国人講師が、最近ビザの再延長を拒否されたのだ。これについて韓国法務部は、「当該講師は外国語指導を目的とするE-2ビザを取得して入国したが、給与は大学ではなく中国政府から支給されていた」と説明する。E-2ビザは国内の企業から給与を受け取ることが条件として発給されるビザだ。突然の発給停止について法務部は「今まで現状把握ができていなかったからで、今回初めての事例が中国人だった。あくまで原則にのっとった決定で、政治的な意図はない」と語っているという。

サード配備に中国だけでなくロシアまで反発

こうしたサード配備を巡る中国との関係悪化に加え、今回のマティス国防長官によるサード年内配備確認発言はロシアも刺激してしまったようだ。アレクサンドル・チモニン在韓ロシア大使は3日韓国メディアとの懇談会で「ロシアは韓国へのサード配備をアメリカのグローバルミサイル防衛計画の一環、ロシアの安全保障に対する脅威と認識している。サードは朝鮮半島情勢や域内の安全保障に対して脅威を与えることになるだろう。もし配備されることになれば、ロシアは自国の安全を守るため、一定の措置をとることになるだろう」と警告した。

朝鮮半島の安全保障は、サード配備をきっかけに大きな転換点を迎えようとしているようだ。

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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