<入国禁止令を一時差し止めた連邦地裁の判断にトランプは猛反発。取り消しを求めた控訴裁判からも却下され、突然の大統領令により世界各地で足止めを食っていた人々も無事入国し始めた。だが、テロから国家を守るための国境管理は政府の権限だとするトランプと、国境での差別的な扱いや独断の決定は違憲という司法との戦いはこれからだ>
米連邦控訴裁判所は4日夜、イスラム教徒が多数を占める中東・アフリカの7カ国の国民や難民の入国を一時禁止するドナルド・トランプの大統領令の一時差し止めを命じたワシントン州シアトル連邦地裁などの決定を不服として、取り消しを求めていたトランプ(米司法省)の上訴を却下した。
「大統領令の差し止めを命じた連邦地裁の仮処分を認め、控訴人の訴えを却下する」と、サンフランシスコ控訴裁が決定した。
控訴裁は改めて審議することを決め、大統領令を違法で違憲として訴えた連邦地裁は5日深夜までに、司法省は6日午後までに、新たな証拠を提出するよう求めた。地裁と控訴裁の決定により、少なくとも審議中は大統領令の差し止めが続くことになり、7カ国の国民も難民もアメリカに入国できるようになった。
【参考記事】トランプvsアメリカが始まった?──イスラム教徒入国禁止令の合憲性をめぐって
「渡米は今回が初めて。来週のフライトを予約していたが、裁判所の決定を聞いて前倒しした」と、最近アメリカ人男性と結婚したイエメン国籍の女性は語った。5日の夜にエジプトのカイロからトルコ経由でアメリカ行きのフライトに乗ったという。
法の番人を侮辱
トランプ政権は、大統領令の効力を一時停止させたシアトル連邦地裁のジェームズ・ロバート判事の3日の判決を不服として、争う姿勢を見せてきた。先月27日に署名した大統領令は、イスラム教徒が多数を占める7カ国の国民の入国を90日間停止し、難民の受け入れを120日間凍結、シリア難民の受け入れを無期限で停止する内容。トランプは4日、入国禁止を無効にした地裁の決定を批判し、法の番人に対して「判事とやら」と侮辱的な呼びかけをし、その意見は馬鹿げているツイッターで個人攻撃を連発した。
【参考記事】トランプ政権の中東敵視政策に、日本が果たせる役割
関係省庁や旅行者への事前通知なしに発効した大統領令をめぐっては、全米で差し止め請求の訴訟が起きるなど1週間にわたって混乱が続いたが、4日の控訴裁の決定により入国管理手続きは大統領令以前の状態に戻った。関係省庁は同日、ロバート判事の決定に従うとした。国土安全保障省は、大統領令に伴う全ての措置を停止。国務省も声明で、対象となった7カ国で有効なビザを持つ国民は入国させると発表した。
訴えを棄却されたトランプは、控訴裁の決定についてツイッターで、「誰を入国させるかさせないか、安全上の理由があっても国が決められないというのは大問題だ」と批判。地裁判事のロバートも再びやり玉に挙げ、「国から法律執行権を奪う"判事とやら"の意見はバカげている、必ず覆されるだろう」とツイートした。
【参考記事】難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを
ロバートは、地元住民の「雇用、教育、ビジネス、家族関係や渡航の自由に、大統領令が重大な悪影響を及ぼしている」と、判断の理由を述べた。ワシントン州は「大統領令の発令により、直ちに州に取り返しのつかない損害が出ることを証明した」とし、大統領令は国家の安全を守るために必要な措置だとした政権側の主張を退けた。
トランプは4日の午後、ロバートへのツイッター攻撃を再開した。「1人の判事が国土安全保障省の入国禁止を解いたせいで、どんなに悪い奴もアメリカに入り込めるようになるなんて、この国は一体どうなっているんだ」「あの判事は、テロリストになる可能性のある人間や、アメリカの利益を考えていない奴らに国境を開く。悪党たちがとても喜んでいる!」
米ジョージ・ワシントン大学のジョナサン・ターリー法学部教授は、トランプの批判が、控訴裁で争うトランプ(司法省)の代理人の信頼性に傷をつける可能性があると指摘した。
「大統領が裁判所の権威を無視するのなら、裁判所に大統領の権威を尊重してもらうのは難しい。それどころか多くの訴訟を引き寄せることになりかねない」とターリーは言った。
入国管理は元通り
国務省と国土安全保障省は、すでに地裁の決定に従っており、5日以降は対象国から多数の渡航者が到着する見込みと発表した。米政府も難民の受け入れを6日に再開する。
イラク人のフアド・シャレフと妻と3人の子どもは、2年かけて米移民ビザを取得した。先週、家財をまとめてアメリカ行きのフライトに乗り継ぐはずだったが、エジプトのカイロで搭乗を拒否され、イラクへ送り返された。
シャレフ一家は5日、トルコのイスタンブールからニューヨーク行きのトルコ航空のフライトで、無事に搭乗手続きを完了した。
「とてもワクワクしている。すごく嬉しい」と、シャレフはロイター通信のビデオニュースで喜びを語った。「やっと許可が下りた。これでアメリカに入国できる」
レバノンのイラク人難民ラナ・シャマシャ(32)は、1日に母と2人の姉妹と渡米し、デトロイトに暮らす親戚のもとへ身を寄せる予定だった。ところが大統領令による入国禁止の影響で、渡航中止を余儀なくされた。
彼女は今、難民申請手続きをしてくれる国連担当者からの連絡を待っている。「明日と言われても、1時間以内であっても、フライトがあれば私は乗る」と、彼女はレバノンの首都ベイルートでロイターの電話取材に語った。荷物はバッグに詰めたままだ。「もうここには家も、仕事も、何もないから」
ベイルート空港のある職員は、3人のシリア人家族が5日朝にヨーロッパ経由で渡米したと言った。
エジプトの航空会社の情報筋は、4日以降に対象の7カ国から33人が、アメリカ行きのフライトに搭乗を許可されたと言った。
イラク政府は5日、控訴裁の決定を歓迎した。「正しい動きだ」と、イラクのサド・ハディティ報道官はロイターに語った。イラクは入国禁止の対象国になった7カ国の1つ。紛争や暴力から逃れるイラク人にも、大統領令は影響を及ぼした。
そして今後の法廷闘争は、アメリカにとっても世界にとっても重大な問いを含んでいる。法とトランプ、どちらが上か、という問いだ。
ニコラス・ロフレド、ハワード・スウェインズ
米連邦控訴裁判所は4日夜、イスラム教徒が多数を占める中東・アフリカの7カ国の国民や難民の入国を一時禁止するドナルド・トランプの大統領令の一時差し止めを命じたワシントン州シアトル連邦地裁などの決定を不服として、取り消しを求めていたトランプ(米司法省)の上訴を却下した。
「大統領令の差し止めを命じた連邦地裁の仮処分を認め、控訴人の訴えを却下する」と、サンフランシスコ控訴裁が決定した。
控訴裁は改めて審議することを決め、大統領令を違法で違憲として訴えた連邦地裁は5日深夜までに、司法省は6日午後までに、新たな証拠を提出するよう求めた。地裁と控訴裁の決定により、少なくとも審議中は大統領令の差し止めが続くことになり、7カ国の国民も難民もアメリカに入国できるようになった。
【参考記事】トランプvsアメリカが始まった?──イスラム教徒入国禁止令の合憲性をめぐって
「渡米は今回が初めて。来週のフライトを予約していたが、裁判所の決定を聞いて前倒しした」と、最近アメリカ人男性と結婚したイエメン国籍の女性は語った。5日の夜にエジプトのカイロからトルコ経由でアメリカ行きのフライトに乗ったという。
法の番人を侮辱
トランプ政権は、大統領令の効力を一時停止させたシアトル連邦地裁のジェームズ・ロバート判事の3日の判決を不服として、争う姿勢を見せてきた。先月27日に署名した大統領令は、イスラム教徒が多数を占める7カ国の国民の入国を90日間停止し、難民の受け入れを120日間凍結、シリア難民の受け入れを無期限で停止する内容。トランプは4日、入国禁止を無効にした地裁の決定を批判し、法の番人に対して「判事とやら」と侮辱的な呼びかけをし、その意見は馬鹿げているツイッターで個人攻撃を連発した。
【参考記事】トランプ政権の中東敵視政策に、日本が果たせる役割
関係省庁や旅行者への事前通知なしに発効した大統領令をめぐっては、全米で差し止め請求の訴訟が起きるなど1週間にわたって混乱が続いたが、4日の控訴裁の決定により入国管理手続きは大統領令以前の状態に戻った。関係省庁は同日、ロバート判事の決定に従うとした。国土安全保障省は、大統領令に伴う全ての措置を停止。国務省も声明で、対象となった7カ国で有効なビザを持つ国民は入国させると発表した。
訴えを棄却されたトランプは、控訴裁の決定についてツイッターで、「誰を入国させるかさせないか、安全上の理由があっても国が決められないというのは大問題だ」と批判。地裁判事のロバートも再びやり玉に挙げ、「国から法律執行権を奪う"判事とやら"の意見はバカげている、必ず覆されるだろう」とツイートした。
【参考記事】難民入国一時禁止のトランプ大統領令──難民の受け入れより難民を生まない社会づくりを
ロバートは、地元住民の「雇用、教育、ビジネス、家族関係や渡航の自由に、大統領令が重大な悪影響を及ぼしている」と、判断の理由を述べた。ワシントン州は「大統領令の発令により、直ちに州に取り返しのつかない損害が出ることを証明した」とし、大統領令は国家の安全を守るために必要な措置だとした政権側の主張を退けた。
トランプは4日の午後、ロバートへのツイッター攻撃を再開した。「1人の判事が国土安全保障省の入国禁止を解いたせいで、どんなに悪い奴もアメリカに入り込めるようになるなんて、この国は一体どうなっているんだ」「あの判事は、テロリストになる可能性のある人間や、アメリカの利益を考えていない奴らに国境を開く。悪党たちがとても喜んでいる!」
米ジョージ・ワシントン大学のジョナサン・ターリー法学部教授は、トランプの批判が、控訴裁で争うトランプ(司法省)の代理人の信頼性に傷をつける可能性があると指摘した。
「大統領が裁判所の権威を無視するのなら、裁判所に大統領の権威を尊重してもらうのは難しい。それどころか多くの訴訟を引き寄せることになりかねない」とターリーは言った。
入国管理は元通り
国務省と国土安全保障省は、すでに地裁の決定に従っており、5日以降は対象国から多数の渡航者が到着する見込みと発表した。米政府も難民の受け入れを6日に再開する。
イラク人のフアド・シャレフと妻と3人の子どもは、2年かけて米移民ビザを取得した。先週、家財をまとめてアメリカ行きのフライトに乗り継ぐはずだったが、エジプトのカイロで搭乗を拒否され、イラクへ送り返された。
シャレフ一家は5日、トルコのイスタンブールからニューヨーク行きのトルコ航空のフライトで、無事に搭乗手続きを完了した。
「とてもワクワクしている。すごく嬉しい」と、シャレフはロイター通信のビデオニュースで喜びを語った。「やっと許可が下りた。これでアメリカに入国できる」
レバノンのイラク人難民ラナ・シャマシャ(32)は、1日に母と2人の姉妹と渡米し、デトロイトに暮らす親戚のもとへ身を寄せる予定だった。ところが大統領令による入国禁止の影響で、渡航中止を余儀なくされた。
彼女は今、難民申請手続きをしてくれる国連担当者からの連絡を待っている。「明日と言われても、1時間以内であっても、フライトがあれば私は乗る」と、彼女はレバノンの首都ベイルートでロイターの電話取材に語った。荷物はバッグに詰めたままだ。「もうここには家も、仕事も、何もないから」
ベイルート空港のある職員は、3人のシリア人家族が5日朝にヨーロッパ経由で渡米したと言った。
エジプトの航空会社の情報筋は、4日以降に対象の7カ国から33人が、アメリカ行きのフライトに搭乗を許可されたと言った。
イラク政府は5日、控訴裁の決定を歓迎した。「正しい動きだ」と、イラクのサド・ハディティ報道官はロイターに語った。イラクは入国禁止の対象国になった7カ国の1つ。紛争や暴力から逃れるイラク人にも、大統領令は影響を及ぼした。
そして今後の法廷闘争は、アメリカにとっても世界にとっても重大な問いを含んでいる。法とトランプ、どちらが上か、という問いだ。
ニコラス・ロフレド、ハワード・スウェインズ