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MBAのトレンドは海外留学から国内ビジネススクールへ

ニューズウィーク日本版 2017年2月7日 11時30分

<かつては海外大学院に留学して取得するのが主流だったMBA。選択肢やニーズが多様化した現在は、国内ビジネススクールの人気が高まっている>

転職市場の活況化で、最近あらためて注目されているMBA(経営学修士)。海外のビジネススクールに留学して取得する方法が主流だった時代もあったが、今やその選択肢は多様化している。MBAをめぐる環境の変化と現況を取材した。

専門職大学院制度によって状況が大きく変化

日本でMBAが注目されたのは1980~90年代までさかのぼる。日本企業が世界へ進出するにあたり、日本企業と海外企業では経営に対する考え方に違いがあることが危惧されたのがきっかけだ。年功序列型の日本企業では、長い時間をかけてさまざまな役職を経験した生え抜きの社員が、経営者に昇格することが多い。一方、アメリカの企業ではMBAホルダーを経営幹部の候補生として採用し、若いときから経営者としての知識やスキルを徹底的に習得させていく。こうした違いを埋めるため、日本企業は国際標準としての経営スキルを持つ社員を育成しようと、自社の社員をアメリカのビジネススクールへ留学させてMBAの取得を促した。

ところが、MBAを取得した社員が戻ってきても、年功序列型の日本企業では人材を活用できないケースが後を絶たなかった。また、MBAを取得した社員が現地で何らかのビジネスチャンスをつかみ、会社を辞めてしまうケースも多かった。こうした状況に加えて、2007年にリーマンショックが起こったことで、企業の社費でMBA留学するビジネスパーソンは一気に減少した。

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海外でのMBA取得をサポートしている、駿台国際教育センターの山下允睦(みつよし)氏によると、「今ではMBA留学はスキルアップよりも、企業の福利厚生の一環という側面が強い。以前と比べると人数も少なくなった。ただし、絶対的な数は少ないとはいえ、自費で留学する人は増えている。その理由は企業からの派遣では年齢が上がってしまうため。なるべく若いときに取得したいと考えている」と、話している。その一方で急激な勢いで増加しているのが、国内でMBAの取得を希望するビジネスパーソンだ。

この背景には、2003年に文部科学省によって、専門職大学院制度が新設されたことがある。アメリカのMBAに倣い、経営者をはじめとする実務家を育成するための専門職大学院の設立や、専門職学位の授与が認められるようになった。また、既存の大学院でも、専門職大学院制度を利用したMBAプログラムを新設するケースが相次いだ。日本でもMBAが取得できるビジネススクールが誕生し、その数は現在も増え続けている。さらに、仕事を辞めたり休職したりしなくても済むように、土日や夜間での通学に対応したビジネススクールも登場し、門戸が広がった。



MBA留学カウンセラーの山下允睦氏(写真提供:駿台国際教育センター)

ニーズの多様化で変化するMBAへの期待

MBAを取得するにあたって国内と海外では何が違うのだろうか。「習得する知識は変わらないが、その知識をもとに行う実践的な授業において、海外ではさまざまなバックグラウンドを持ったクラスメイトが集まる。多様な価値観を持った人たちとディスカッションすることが大きな経験になり、価値のあるネットワークになる」と、山下氏は解説する。一方、国内のビジネススクールで、同じような価値観を持つ日本人が集まって日本企業に特化した題材の授業をこなすことは、考え方によっては大きなアドバンテージになる。

実際に国内のビジネススクールでは、実践力の向上をテーマとしているところが多い。ケーススタディやケースメソッドなどを数多く取り入れて、実践的なカリキュラムを重視。さらに学校の数が増加したことで競争も激しくなり、結果的に国内のビジネススクールの質を向上させている。

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最近では社会から求められるニーズが多様化し、国内のビジネススクールの特色にも変化があらわれている。一般的に、経営者は経営全般を俯瞰して把握し、意思決定しなければならないため、ジェネラリストとしての能力が求められる。しかし、CFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)といった、スペシャリストの側面を持つ特定分野のトップマネジメント職としてのスキルを求めるニーズも高まっている。今では、こうしたニーズに応えるビジネススクールが増えている点も国内の特徴だ。

以前は、MBAを取得する目的はキャリアップが多かったが、山下氏は「今のトップレベルの人たちは、自分たちがソーシャルアントレプレナー(社会起業家)として起業し、世界を変えたいというのがトレンド。もちろん、既存の企業でトップを目指したいという人もまだまだ多い」と言う。海外であれ国内であれ、重要なのはなぜMBAを取得するのかという動機付けだ。国内のビジネススクールが増えて、さまざまな選択肢があふれる中、MBA取得後のビジョンを明確にすることが成功の鍵となっている。

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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