<イギリスで「孤独」による健康への悪影響が問題になっている。国を挙げて「孤独」減少に取り組むために委員会が発足。近年の緊縮財政で公共サービスが利用しずらくなったことも一因とされる>
「孤独は健康に害」と聞くと、寂しさなどに起因する心の健康状態を思い浮かべるところだが、実は心臓疾患や高血圧との関連も指摘されている。孤独感を抱く人が多い現在、公衆衛生上の問題として孤独に取り組むべきだとする専門家もいる。英国議会では先ごろ、国を挙げて孤独減少に取り組むために委員会が発足した。
孤独に対するジョー・コックス委員会
英国で発足したのは「The Jo Cox Commission on Loneliness」(孤独に対するジョー・コックス委員会)だ。国民の5人に1人が孤独に苛まれているという英国で、2017年を通じて、対話を推奨するなどして孤独の軽減を目指すという。
ジョー・コックスと言えば昨年6月、欧州連合(EU)からの離脱の可否を問う国民投票に向けて、離脱派と残留派の議員が熱のこもった遊説を行うなか、離脱派の支持者に殺害された労働党の下院議員だ。この若き女性議員は当時、孤独に苦しむ人たちを救おうと同委員会を立ち上げるべく奔走していたが、志半ばで命を絶たれてしまった。
【参考記事】弱者のために生き、憎悪に殺されたジョー・コックス
今回発足した「ジョー・コックス委員会」は、そんなコックス議員に因んで名づけられたのだ。Age UKや英国赤十字社など13の慈善事業団体と協力して、高齢者、母親になりたての女性、子供など、支援を必要とする人々との対話などの機会を設ける。さらに、こうした活動から分かったことを各慈善事業団体が委員会に提供。委員会が2017年の終わりにそれを声明文としてまとめ、孤独の解決策を模索するよう政府に要請するという。
予算削減で憩いの場がなくなり、孤独においやられた
「ジョー・コックス委員会」を支援する慈善団体である英国赤十字社と英国生活協同組合が共同で行った調査から、英国では900万人以上、国民の約5人に1人が「常に」または「たいてい」孤独を感じていることが分かった。しかしこのうち3分の2は、寂しいということを他の人に打ち明けることは決してないという。
調査によると、孤独の背景には、生活環境の変化や健康状態の悪化、そして近しい人との死別などがある。さらに、公共サービスの利用が容易でないこと、公的支援が受けづらいこと、憩いの場がなくなってしまったこと、交通インフラが不足していることなどで、さらに孤独に追いやられるという。
地域社会に根付いた行政機関である英国のコミュニティ・地方自治省はここ数年、大幅な予算削減を強いられている。BBCは2015年、2010/2011年から2015/2016年の5年間での予算変動を各省ごとに比較した記事を掲載。最も予算を削減されたのは、51%減となったコミュニティ・地方自治省だったと伝えていた。
Institute for Fiscal Studiesより
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アメリカでも1980年代から倍増している
一方でデイリーメールは、米国では現在6000万人、成人の40〜45%が高い頻度で孤独を感じており、その数は1980年代から倍増していると伝えている。ベビーブーマー世代が高齢に近づいている今、孤独を感じる人はますます増える見込みだという。
では実際、孤独は健康にどういった影響を及ぼすのだろうか。前述のデイリーメールは、孤独が気分障害やうつ病を引き起こす可能性もあるが、心臓病や高血圧、免疫機能障害や神経系障害といった身体的な疾患との関連もあると述べている。同紙はさらに、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で孤独による健康への影響を研究するスティーブ・コール博士による談話を紹介。同博士の2007年の研究結果では、「慢性的な孤独を経験した人とそうではない人との間には、細胞レベルで大きな違いが見られる」ことがわかったという。
孤独に苦しむ人の場合、炎症に反応する遺伝子が「オン」の状態になっているのだ。「炎症は急な怪我に反応する場合はいいが、慢性的に炎症の状態が続くと、アテローム性動脈硬化症や循環器疾患、神経変性疾患、転移性がんといった慢性病を誘発する原因となってしまう」とコール博士は話す。
孤独は「静かなる疫病」であり、心配性やうつ病よりもリスクが大きいと、コール博士は考えているという。タイムも2015年の記事で、米ブリガム・ヤング大学による調査について取り上げ、孤独が、肥満や薬物乱用に匹敵する公衆衛生上の問題になり得ると指摘していた。
上記は英米での調査結果だが、単身世帯や高齢者が増加している日本でも、孤独が健康を害する問題は他人事ではないだろう。
松丸さとみ
「孤独は健康に害」と聞くと、寂しさなどに起因する心の健康状態を思い浮かべるところだが、実は心臓疾患や高血圧との関連も指摘されている。孤独感を抱く人が多い現在、公衆衛生上の問題として孤独に取り組むべきだとする専門家もいる。英国議会では先ごろ、国を挙げて孤独減少に取り組むために委員会が発足した。
孤独に対するジョー・コックス委員会
英国で発足したのは「The Jo Cox Commission on Loneliness」(孤独に対するジョー・コックス委員会)だ。国民の5人に1人が孤独に苛まれているという英国で、2017年を通じて、対話を推奨するなどして孤独の軽減を目指すという。
ジョー・コックスと言えば昨年6月、欧州連合(EU)からの離脱の可否を問う国民投票に向けて、離脱派と残留派の議員が熱のこもった遊説を行うなか、離脱派の支持者に殺害された労働党の下院議員だ。この若き女性議員は当時、孤独に苦しむ人たちを救おうと同委員会を立ち上げるべく奔走していたが、志半ばで命を絶たれてしまった。
【参考記事】弱者のために生き、憎悪に殺されたジョー・コックス
今回発足した「ジョー・コックス委員会」は、そんなコックス議員に因んで名づけられたのだ。Age UKや英国赤十字社など13の慈善事業団体と協力して、高齢者、母親になりたての女性、子供など、支援を必要とする人々との対話などの機会を設ける。さらに、こうした活動から分かったことを各慈善事業団体が委員会に提供。委員会が2017年の終わりにそれを声明文としてまとめ、孤独の解決策を模索するよう政府に要請するという。
予算削減で憩いの場がなくなり、孤独においやられた
「ジョー・コックス委員会」を支援する慈善団体である英国赤十字社と英国生活協同組合が共同で行った調査から、英国では900万人以上、国民の約5人に1人が「常に」または「たいてい」孤独を感じていることが分かった。しかしこのうち3分の2は、寂しいということを他の人に打ち明けることは決してないという。
調査によると、孤独の背景には、生活環境の変化や健康状態の悪化、そして近しい人との死別などがある。さらに、公共サービスの利用が容易でないこと、公的支援が受けづらいこと、憩いの場がなくなってしまったこと、交通インフラが不足していることなどで、さらに孤独に追いやられるという。
地域社会に根付いた行政機関である英国のコミュニティ・地方自治省はここ数年、大幅な予算削減を強いられている。BBCは2015年、2010/2011年から2015/2016年の5年間での予算変動を各省ごとに比較した記事を掲載。最も予算を削減されたのは、51%減となったコミュニティ・地方自治省だったと伝えていた。
Institute for Fiscal Studiesより
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アメリカでも1980年代から倍増している
一方でデイリーメールは、米国では現在6000万人、成人の40〜45%が高い頻度で孤独を感じており、その数は1980年代から倍増していると伝えている。ベビーブーマー世代が高齢に近づいている今、孤独を感じる人はますます増える見込みだという。
では実際、孤独は健康にどういった影響を及ぼすのだろうか。前述のデイリーメールは、孤独が気分障害やうつ病を引き起こす可能性もあるが、心臓病や高血圧、免疫機能障害や神経系障害といった身体的な疾患との関連もあると述べている。同紙はさらに、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で孤独による健康への影響を研究するスティーブ・コール博士による談話を紹介。同博士の2007年の研究結果では、「慢性的な孤独を経験した人とそうではない人との間には、細胞レベルで大きな違いが見られる」ことがわかったという。
孤独に苦しむ人の場合、炎症に反応する遺伝子が「オン」の状態になっているのだ。「炎症は急な怪我に反応する場合はいいが、慢性的に炎症の状態が続くと、アテローム性動脈硬化症や循環器疾患、神経変性疾患、転移性がんといった慢性病を誘発する原因となってしまう」とコール博士は話す。
孤独は「静かなる疫病」であり、心配性やうつ病よりもリスクが大きいと、コール博士は考えているという。タイムも2015年の記事で、米ブリガム・ヤング大学による調査について取り上げ、孤独が、肥満や薬物乱用に匹敵する公衆衛生上の問題になり得ると指摘していた。
上記は英米での調査結果だが、単身世帯や高齢者が増加している日本でも、孤独が健康を害する問題は他人事ではないだろう。
松丸さとみ