<入国禁止令の違憲論争は控訴審の判断を待つことに。事態は、トランプ政権が合衆国憲法を遵守しているかどうかという本質的議論に発展する可能性も>(写真:入国禁止令にはマサチューセッツ州やニューヨーク州も違憲を主張した)
先月28日に突如発令されたトランプ大統領の入国禁止令は大変な波紋を呼んでいます。何しろ「イスラム圏の7カ国からの入国はビザがあっても90日間は停止」そして「難民受け入れは120日間停止」というのですから衝撃的で、早速反対運動が各地の空港で発生しています。
これに対して、一部の連邦判事からは「違憲であるから無効」という裁定が出されており、本稿の時点では「入国禁止措置」は失効していて、ビザが有効であればこの7カ国(イラク、イラン、シリア、リビア、イエメン、スーダン、ソマリア)からの入国も可能になっています。
ですが、大統領とその周辺からのメッセージ発信は止まりません。「万が一何か(テロなど)あったら、判事の責任だ」などと相変わらずの暴言モードでのツイートがされ、現在は連邦控訴審(アピールズ・コート)へ、この大統領令の合憲・違憲の審査が持ち込まれた形になっています。
【参考記事】トランプ乱発「大統領令」とは? 日本人が知らない基礎知識
この控訴審ですが、今月7日から審理が本格化するのですが、現時点ではワシントン州とミネソタ州の「州のアトーニー・ジェネラル(司法長官兼検事総長)」が「大統領令は違憲」という立場を取り、これに対してホワイトハウスが異議を申し立てている、その判断は「連邦の第9巡回区控訴審」の法廷が下すという構図になってきました。
この法廷論争ですが、大統領令を「違憲告発」する州の検事総長側は、どうやら「入国する権利」や「ビザの有効性」といったテクニカルな論ではなく、今回の「大統領令の発動そのものが信教の自由を保証した憲法修正第一条違反」であるという論を立てて、正面からこの大統領令を「撃破する作戦」に出ているようです。
では、どうやって「信教の自由に対する挑戦」だということを立証するのかというと、2015年以来の選挙戦の中で、トランプ氏とその周辺が言い続けてきた「イスラム教徒の入国禁止」という公約に今回の大統領令の原型があるという立場から、その選挙戦を通じて発信されたコメントをすべて並べていって、その全体に宗教差別があり、その結果として出された大統領令は「従って違憲」だというロジックを立てるというのです。
そう考えると、大統領自身も、あるいはその周辺も、かなり無防備な発言をずっと続けてきたわけで、例えば「ムスリム・バン(イスラム教徒の禁止)」というような、そのものズバリの宗教弾圧的な発言などもたくさん記録に残っているわけです。
ちなみに、大統領に近いと言われるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長などは、「宗教差別だと受け取られると、完全に違法発言になってしまうので、選挙戦を通じて(トランプ氏には)発言を修正していくようにした」という証言をしているようですが、この証言自体が「主張のルーツには宗教差別がある」ことの証拠になるという説もあります。
では、この先の見通しですが、仮に控訴審で「違憲」となった場合には、連邦最高裁に持ち込まれることになります。この連邦最高裁ですが、現在は定員9名の中で欠員1という状態です。その欠員に関しては、先週トランプ大統領は保守派のニール・ゴーサッチ氏を指名しています。
仮にゴーサッチ氏が判事に承認されると、最高裁の勢力バランスは保守5対リベラル4になって、最高裁で「大統領が合憲」という判断になる可能性がないわけではありません。ですが、どんなに保守派であっても、今回の「国務省が出したビザが無効」だとか「特に理由なく7カ国が象徴的に決められた」ということの合法性を連邦最高裁が「歴史的評価のリスク」を取ってまで大統領に迎合することはないだろうという見方もあります。その一方で、この問題がある以上はゴーサッチ氏の承認プロセスが難航するという観測も出ています。
【参考記事】トランプを追い出す4つの選択肢──弾劾や軍事クーデターもあり
そんなわけで、今後の見通しも大変に不透明なのですが、仮に大統領令が「違憲」ということで確定するような事態になると、今回アメリカに入国できなくて困っていた人が救済されるだけでは済まない問題に発展する可能性もあります。
それは、大統領令について違憲判断がされるということは、他でもない合衆国大統領が合衆国憲法に「背いた」ことになるからです。そのような「違憲行為」が度重なると、大統領が「憲法の遵守者、憲法の擁護者」では「ない」ということになって行き、そうなると「大統領弾劾」の正当な理由になるということがあるのです。
そんな中、大統領とその周辺は今度は「不法移民の強制送還」を大統領令の発動で実現できないかという検討を始めたという報道も出てきました。この「強制送還」については、今度は信教の自由ではなく、生存権の問題として、これもまた合衆国憲法との整合性が問われる事態になっていくと思われます。
今回の事態は、トランプ政権をめぐって、合衆国の「憲政」つまり憲法の保証する三権分立と、権利の章典に関する本質的な議論になりつつあるのです。
先月28日に突如発令されたトランプ大統領の入国禁止令は大変な波紋を呼んでいます。何しろ「イスラム圏の7カ国からの入国はビザがあっても90日間は停止」そして「難民受け入れは120日間停止」というのですから衝撃的で、早速反対運動が各地の空港で発生しています。
これに対して、一部の連邦判事からは「違憲であるから無効」という裁定が出されており、本稿の時点では「入国禁止措置」は失効していて、ビザが有効であればこの7カ国(イラク、イラン、シリア、リビア、イエメン、スーダン、ソマリア)からの入国も可能になっています。
ですが、大統領とその周辺からのメッセージ発信は止まりません。「万が一何か(テロなど)あったら、判事の責任だ」などと相変わらずの暴言モードでのツイートがされ、現在は連邦控訴審(アピールズ・コート)へ、この大統領令の合憲・違憲の審査が持ち込まれた形になっています。
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この控訴審ですが、今月7日から審理が本格化するのですが、現時点ではワシントン州とミネソタ州の「州のアトーニー・ジェネラル(司法長官兼検事総長)」が「大統領令は違憲」という立場を取り、これに対してホワイトハウスが異議を申し立てている、その判断は「連邦の第9巡回区控訴審」の法廷が下すという構図になってきました。
この法廷論争ですが、大統領令を「違憲告発」する州の検事総長側は、どうやら「入国する権利」や「ビザの有効性」といったテクニカルな論ではなく、今回の「大統領令の発動そのものが信教の自由を保証した憲法修正第一条違反」であるという論を立てて、正面からこの大統領令を「撃破する作戦」に出ているようです。
では、どうやって「信教の自由に対する挑戦」だということを立証するのかというと、2015年以来の選挙戦の中で、トランプ氏とその周辺が言い続けてきた「イスラム教徒の入国禁止」という公約に今回の大統領令の原型があるという立場から、その選挙戦を通じて発信されたコメントをすべて並べていって、その全体に宗教差別があり、その結果として出された大統領令は「従って違憲」だというロジックを立てるというのです。
そう考えると、大統領自身も、あるいはその周辺も、かなり無防備な発言をずっと続けてきたわけで、例えば「ムスリム・バン(イスラム教徒の禁止)」というような、そのものズバリの宗教弾圧的な発言などもたくさん記録に残っているわけです。
ちなみに、大統領に近いと言われるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長などは、「宗教差別だと受け取られると、完全に違法発言になってしまうので、選挙戦を通じて(トランプ氏には)発言を修正していくようにした」という証言をしているようですが、この証言自体が「主張のルーツには宗教差別がある」ことの証拠になるという説もあります。
では、この先の見通しですが、仮に控訴審で「違憲」となった場合には、連邦最高裁に持ち込まれることになります。この連邦最高裁ですが、現在は定員9名の中で欠員1という状態です。その欠員に関しては、先週トランプ大統領は保守派のニール・ゴーサッチ氏を指名しています。
仮にゴーサッチ氏が判事に承認されると、最高裁の勢力バランスは保守5対リベラル4になって、最高裁で「大統領が合憲」という判断になる可能性がないわけではありません。ですが、どんなに保守派であっても、今回の「国務省が出したビザが無効」だとか「特に理由なく7カ国が象徴的に決められた」ということの合法性を連邦最高裁が「歴史的評価のリスク」を取ってまで大統領に迎合することはないだろうという見方もあります。その一方で、この問題がある以上はゴーサッチ氏の承認プロセスが難航するという観測も出ています。
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そんなわけで、今後の見通しも大変に不透明なのですが、仮に大統領令が「違憲」ということで確定するような事態になると、今回アメリカに入国できなくて困っていた人が救済されるだけでは済まない問題に発展する可能性もあります。
それは、大統領令について違憲判断がされるということは、他でもない合衆国大統領が合衆国憲法に「背いた」ことになるからです。そのような「違憲行為」が度重なると、大統領が「憲法の遵守者、憲法の擁護者」では「ない」ということになって行き、そうなると「大統領弾劾」の正当な理由になるということがあるのです。
そんな中、大統領とその周辺は今度は「不法移民の強制送還」を大統領令の発動で実現できないかという検討を始めたという報道も出てきました。この「強制送還」については、今度は信教の自由ではなく、生存権の問題として、これもまた合衆国憲法との整合性が問われる事態になっていくと思われます。
今回の事態は、トランプ政権をめぐって、合衆国の「憲政」つまり憲法の保証する三権分立と、権利の章典に関する本質的な議論になりつつあるのです。