<波乱の展開から目が離せない『SHERLOCK』。新シリーズの見どころを作り手の2人に直撃>(シャーロック〔左〕と相棒のワトソン)
シャーロック・ホームズに妹がいたって知ってます?
いたのです、少なくともベネディクト・カンバーバッチ主演の『SHERLOCK シャーロック』第4シーズンによれば(年初から英BBCで放送中。日本での放送時期は未定)。
第1話ではジョン・ワトソン(マーティン・フリーマン)の妻メアリーが死に、第2話ではシャーロックの妹の存在が明らかになる。しかも妹のユーラス(シアン・ブルック)はシャーロックの破滅を望んでいるらしい。でもなぜ? それに、今まではどこに隠れていた?
いや、これ以上はネタばれのタブーを犯すことになるから筆者には言えない。代わりに製作総指揮のスティーブン・モファットと、同じく製作総指揮でシャーロックの兄マイクロフト役のマーク・ゲイティスに語ってもらおう。
***
――いつから妹を登場させるつもりだった?
【モファット】第3シーズンの最終話「最後の誓い」を撮影していた頃だ。
【ゲイティス】最初は冗談のつもりだった。実は第1シーズンに、シャーロックがマイクロフトについて「確かに兄さんは僕より賢いが、妹は......」と何げなく言うセリフがあったんだ。でもカットした。アイデアは前からあったが、今回のような形じゃなかった。
【モファット】仕掛けは単純なんだ。「まさかこうなるとは」と観客の度肝を抜くよりも、「こうなると予想できたはずなのに」と悔しがらせるのが理想のどんでん返し。ミステリーの女王アガサ・クリスティーが証明したように、読者や観客を驚かすときは先に手掛かりを示しておいたほうが面白い。
【参考記事】異常なカンバーバッチ、自らを語る
法医学者のモリー・フーパー〔右〕 Courtesy of Ollie Upton / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――最終話はどうなる?
【モファット】「なぜシャーロックは実の妹に気付かなかったのか」という問いに対する答えが示される。全てが明かされるんだ。簡単な種明かしさ。最終話はこれまでの総まとめで、到達点だ。ホームズとワトソンは心身共に傷つき弱っていたのが嘘のように、真骨頂を発揮する。ここでシリーズを打ち切ってもいいくらいだ。前シーズンまではストーリーを宙ぶらりんにしたまま終わったから、打ち切れなかった。
【ゲイティス】このドラマは、ホームズとワトソンが名探偵とその相棒になるまでを描いてきた。バックグラウンドを紹介したんだ。次のシーズンを作るとしたら、今度はホームズが「出掛けるぞ」とワトソンを誘いに行く場面からいきなり始められる。2人はもう誰もが知る名コンビだから、説明は必要ない。
――妹役のシアン・ブルックはどうやって見つけた?
【モファット】キャスティング担当者に、スターになれるはずなのになっていない才能豊かな女優を探してくれと頼んだ。これでシアンは大スターになる。
【ゲイティス】ベネディクト・カンバーバッチみたいにね。
シャーロックの兄マイクロフトら常連に加えて今回は妹が登場 Courtesy of Laurence Cendrowicz / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――第2話は最高だった。トビー・ジョーンズが殺人鬼のカルバートン・スミスを不気味に演じていて。放送中にツイッターをチェックしていたら......。
【ゲイティス】ちゃんとテレビを見なくちゃ!
【モファット】一瞬たりとも油断しないでくれ。スマホに目を落とした瞬間に......。
【ゲイティス】君は全てを見逃してる!
――観賞中はツイッター禁止?
【ゲイティス】当たり前だ。テレビから目を離すな!
【モファット】最終話には、90分に収まらないドラマが詰まっている。よそ見している暇はない。トイレも禁止。その場でしろ。
【参考記事】『ハウス・オブ・カード』が変えるドラマの法則
シャーロックは殺人鬼という裏の顔を持つ実業家スミス〔中央左〕を追う Courtesy of Ollie Upton / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――了解。ツイッターではスミスをジミー・サビル(およそ40年間に少なくとも72人の少年少女に性的虐待を加えていたことが死後発覚したBBCの元名物司会者)になぞらえる声があった。スミスは権力を悪用して人を殺すが、その悪事に世間は気付かない。
【モファット】有名人がいかに名声に守られているかを描きたかった。有名だからというだけでドナルド・トランプがアメリカ大統領になれる世界で、名声に隠蔽された悪を描くのは理にかなっていると思った。
【ゲイティス】悪人には悪人の自覚がない。スミスは確かにサビルに重なるが、特定の人物をモデルにしたくはなかった。スミスもそうだが、最近は記者会見を開き、「身に覚えがない」としらを切るやからが多過ぎる。世間が有罪だと騒いでも有名人は逃げおおせる。
――スパイアクションの要素が入った第1話を、ガーディアン紙は『007』映画みたいだと批判した。マーク、あなたはこれに反論する詩を書いた。
【ゲイティス】的外れなことを言われてカチンときた。驚いたことに、あの詩はどんな取材記事よりも反響を呼んだ。これからはもっと詩を書こうかな。
【モファット】原作者のコナン・ドイルも同じことをした。ホームズについて詩の形式でばかげた批判を書いた評論家に、ずっと出来のいい詩で逆襲した。
――『007』もどきと揶揄されて、どう思った?
【モファット】第1話には3分間だけ殴り合いのシーンがある。アクションシーンが3分しかないボンド映画があったら、教えてほしいね。最終話のアクションは......ま、見てのお楽しみ。
[2017.2. 7号掲載]
トゥファエル・アフメド
シャーロック・ホームズに妹がいたって知ってます?
いたのです、少なくともベネディクト・カンバーバッチ主演の『SHERLOCK シャーロック』第4シーズンによれば(年初から英BBCで放送中。日本での放送時期は未定)。
第1話ではジョン・ワトソン(マーティン・フリーマン)の妻メアリーが死に、第2話ではシャーロックの妹の存在が明らかになる。しかも妹のユーラス(シアン・ブルック)はシャーロックの破滅を望んでいるらしい。でもなぜ? それに、今まではどこに隠れていた?
いや、これ以上はネタばれのタブーを犯すことになるから筆者には言えない。代わりに製作総指揮のスティーブン・モファットと、同じく製作総指揮でシャーロックの兄マイクロフト役のマーク・ゲイティスに語ってもらおう。
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――いつから妹を登場させるつもりだった?
【モファット】第3シーズンの最終話「最後の誓い」を撮影していた頃だ。
【ゲイティス】最初は冗談のつもりだった。実は第1シーズンに、シャーロックがマイクロフトについて「確かに兄さんは僕より賢いが、妹は......」と何げなく言うセリフがあったんだ。でもカットした。アイデアは前からあったが、今回のような形じゃなかった。
【モファット】仕掛けは単純なんだ。「まさかこうなるとは」と観客の度肝を抜くよりも、「こうなると予想できたはずなのに」と悔しがらせるのが理想のどんでん返し。ミステリーの女王アガサ・クリスティーが証明したように、読者や観客を驚かすときは先に手掛かりを示しておいたほうが面白い。
【参考記事】異常なカンバーバッチ、自らを語る
法医学者のモリー・フーパー〔右〕 Courtesy of Ollie Upton / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――最終話はどうなる?
【モファット】「なぜシャーロックは実の妹に気付かなかったのか」という問いに対する答えが示される。全てが明かされるんだ。簡単な種明かしさ。最終話はこれまでの総まとめで、到達点だ。ホームズとワトソンは心身共に傷つき弱っていたのが嘘のように、真骨頂を発揮する。ここでシリーズを打ち切ってもいいくらいだ。前シーズンまではストーリーを宙ぶらりんにしたまま終わったから、打ち切れなかった。
【ゲイティス】このドラマは、ホームズとワトソンが名探偵とその相棒になるまでを描いてきた。バックグラウンドを紹介したんだ。次のシーズンを作るとしたら、今度はホームズが「出掛けるぞ」とワトソンを誘いに行く場面からいきなり始められる。2人はもう誰もが知る名コンビだから、説明は必要ない。
――妹役のシアン・ブルックはどうやって見つけた?
【モファット】キャスティング担当者に、スターになれるはずなのになっていない才能豊かな女優を探してくれと頼んだ。これでシアンは大スターになる。
【ゲイティス】ベネディクト・カンバーバッチみたいにね。
シャーロックの兄マイクロフトら常連に加えて今回は妹が登場 Courtesy of Laurence Cendrowicz / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――第2話は最高だった。トビー・ジョーンズが殺人鬼のカルバートン・スミスを不気味に演じていて。放送中にツイッターをチェックしていたら......。
【ゲイティス】ちゃんとテレビを見なくちゃ!
【モファット】一瞬たりとも油断しないでくれ。スマホに目を落とした瞬間に......。
【ゲイティス】君は全てを見逃してる!
――観賞中はツイッター禁止?
【ゲイティス】当たり前だ。テレビから目を離すな!
【モファット】最終話には、90分に収まらないドラマが詰まっている。よそ見している暇はない。トイレも禁止。その場でしろ。
【参考記事】『ハウス・オブ・カード』が変えるドラマの法則
シャーロックは殺人鬼という裏の顔を持つ実業家スミス〔中央左〕を追う Courtesy of Ollie Upton / HARTSWOOD FILMS & MASTERPIECE
――了解。ツイッターではスミスをジミー・サビル(およそ40年間に少なくとも72人の少年少女に性的虐待を加えていたことが死後発覚したBBCの元名物司会者)になぞらえる声があった。スミスは権力を悪用して人を殺すが、その悪事に世間は気付かない。
【モファット】有名人がいかに名声に守られているかを描きたかった。有名だからというだけでドナルド・トランプがアメリカ大統領になれる世界で、名声に隠蔽された悪を描くのは理にかなっていると思った。
【ゲイティス】悪人には悪人の自覚がない。スミスは確かにサビルに重なるが、特定の人物をモデルにしたくはなかった。スミスもそうだが、最近は記者会見を開き、「身に覚えがない」としらを切るやからが多過ぎる。世間が有罪だと騒いでも有名人は逃げおおせる。
――スパイアクションの要素が入った第1話を、ガーディアン紙は『007』映画みたいだと批判した。マーク、あなたはこれに反論する詩を書いた。
【ゲイティス】的外れなことを言われてカチンときた。驚いたことに、あの詩はどんな取材記事よりも反響を呼んだ。これからはもっと詩を書こうかな。
【モファット】原作者のコナン・ドイルも同じことをした。ホームズについて詩の形式でばかげた批判を書いた評論家に、ずっと出来のいい詩で逆襲した。
――『007』もどきと揶揄されて、どう思った?
【モファット】第1話には3分間だけ殴り合いのシーンがある。アクションシーンが3分しかないボンド映画があったら、教えてほしいね。最終話のアクションは......ま、見てのお楽しみ。
[2017.2. 7号掲載]
トゥファエル・アフメド