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日本の未来を予見させる、韓国高齢者の深刻な貧困問題

ニューズウィーク日本版 2017年2月8日 17時10分

<日本の相対的貧困率は16.1%で先進国中でも5位と高く、特に一人親家庭の貧困率は世界でトップ。また韓国で深刻化する高齢者の貧困は、今後日本でも顕著な問題となることが予想される>

貧困は世界のどの国でも重大な社会問題だが、貧困状態にある国民の割合を計測する指標として「相対的貧困率」がある。年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす国民が、全体の何%を占めるかを表している。

2012年の日本のデータでは、世帯年収(手取り)の中央値は244万円なので、年収122万円未満の世帯が貧困と判定される。その割合は16.1%、国民のおよそ6人に1人だ。

この相対的貧困率は国によって差があり、同年(2012年)のOECD加盟の34カ国で見ると、最高の18.9%(メキシコ)から最低の5.3%(チェコ)まで幅広く分布している。日本はその中では上から5位で、相対的な貧困率が高い部類に属する。

これは国民全体の数値だが、相対的貧困率は年齢層によって異なる。子供、青年、壮年、中年、高齢者といった年代別の貧困率はあまり見かけないが、有効な貧困対策を打ち出すには、そのような細かいデータの分析が必要だ。限られた資源をどこに重点的に割り振るかを考えるためにも、見ておきたいデータだ。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

OECDの「Income Distribution Database(IDD)」というサイトで、2012年の国別・年齢層別の貧困率を拾い出してみた。34カ国の年齢層別の相対的貧困率を一覧表にすると、<表1>のようになる。最高値は黄色、最低値は青色でマークした。赤字は上位3位を意味している。



日本の相対的貧困率は、18~25歳の青年層で最も高くなっている。およそ2割で、若者の5人に1人が貧困状態にある。昨今、若者の貧困化や自立困難がよく言われているが、その現象は数値にも表れている。

ノルウェーやデンマークといった北欧の国々では、若者の貧困率はもっと高いが、こうした国々では、実家を出て自活している学生が多いためだと思われる。

イスラエル、スペイン、トルコなどは、他の年齢層に比べて子供の貧困率が際立って高い。子供がいる世帯への資源の再分配が進んでいない社会と言えるだろう。

日本の子供の貧困率は16.3%だが、一人親家庭に限ると半分を超える(2010年)。2人に1人で、これは世界でもトップの割合だ。日本では、両親がいる標準的な家庭を前提に様々な制度が設計されているため、一人親家庭は困難に直面している。日本は一人親家庭の貧困が最も著しい社会であることは、認識しなければならない。



ところでお隣の韓国は、高齢層の貧困率が45.7%と飛び抜けて高い。高齢者の2人に1人が貧困状態にある。

韓国は儒教社会なので、子が親の面倒をみる伝統が強かったが、近年その伝統が急速に廃れている。その一方で、国による社会保障(公的年金等)は著しく脆弱。このために生活苦に陥る高齢者が多い。

韓国の高齢者の苦境は、自殺統計にはっきりと表れている。<図1>で見られるように、韓国の高齢者の自殺率は突出して高い。75歳以上の自殺率は日本の3倍以上だ。



韓国の最近の高齢人口率は13%程度だが、今後さらに高齢化が進めば、高齢者の貧困は社会の根幹を揺るがす問題となるだろう。

【参考記事】貧困層の健康問題から目をそむける日本

しかし高齢化のレベルを見れば、日本の方がはるかに進んでいる。なおかつ高齢者の貧困率は17.0%(<表1>の34カ国中5位)にも達しているのだから、問題が深刻なのは日本も同じだ。韓国の現状は「対岸の火事」ではなく、近い将来の日本社会を予見させるものだ。

医療制度の充実によって、先進国では「人生100年の時代」となりつつある。この社会変化を厄災ではなく恩恵にするためには、社会保障の整備も大事だが、「教育期→仕事期→引退期」という直線型のライフコースを変革する必要もある。

高齢期を「引退期」としてしか過ごせないのは、大きな苦悩の源泉となる。希望するならば仕事をして収入を得る、再び教育を受けて高度なスキルを習得する......。そのようなことを可能にしなければならない。

「生物学的な年齢(エイジ)と人生の段階(ステージ)が硬直的に結びついている社会では、『人生100年』という贈り物は厄災にしかならない」――(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/池村千秋訳『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略-』東洋経済新報社、2016年)。

<資料:OECD「Income Distribution Database(IDD)」、
    WHO「Mortality Database」>

舞田敏彦(教育社会学者)

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