<トランプ政権に批判的なウォッチを続けるのはもちろんいいことだが、ときには「ひねり」を加えた手法で報じてみるのもいい>
トランプ米大統領が精力的に動いている。中東など7カ国からの入国を一時停止する大統領令をはじめ、さまざまな動きが国内外で批判を呼んでいる。
メディアは、このポピュリスト大統領とどう付き合えばいいのか。ただひたすら、批判を続けるしかないのだろうか。
もちろん、徹底的な批判は必要だ。手を緩めてはならない。しかし一本調子で批判を続けるのも、楽しい作業ではない。
ここでは少し別の手を考えてみたい。例えば「今やろうとしていることは、本当にあなたの理想のアメリカをつくるためのものか」と念を押す。「あなたのやっていることは、自分の品格を落とすことにならないか」と忠告する。
こうしたひねりには効果がある。先日、米ABCテレビがトランプの単独インタビューを行ったとき、この手法が織り交ぜられていた。今後、他のメディアの参考になるかもしれない。
【参考記事】トランプ弾劾は賛否半々、オバマに戻ってきて欲しい人が過半数
インタビューはホワイトハウスで行われた。インタビュアーは、ABCのデービッド・ミュアー。43歳のミュアーは明晰な言葉で、トランプに質問を投げ掛ける。その問いは、時にトランプの公約の痛いところを突く。例えば、移民の問題について。
「不法移民の親に連れてこられた子供たちがいます。彼らは国外追放される可能性があるのでしょうか。それとも、アメリカにとどまれるという保証を得られるのでしょうか」
「移民」という問題から「子供」という要素だけを取り上げると、それまで見えなかった問題が見えてくる。移民の生活だけでなく、子供の成長や教育の問題に関わるからだろう。
器の小ささを暗に示す
次にミュアーが触れた大きなポイントは、トランプが「違法な投票がなければ、一般投票でも自分が勝っていた」と言い続けている点だ。
「大統領は今週、ホワイトハウスに議会指導者を招いたときも、300万~500万票の不正投票があったと話していました。事実であれば、アメリカ史上最悪の不正選挙ということになります。その証拠はどこにあるのでしょう。証拠を示すことなく、そのようなことを言い続けていると、あなたへの信頼が損なわれると思いませんか」
一般投票でも自分が勝っていたというトランプの主張に証拠があるなどと思っていた有権者は少ないだろう。だがミュアーは、証拠について問いただすのを忘れていなかった。
そして、この質問が飛んだ。「あなたは就任式の後に報道官に記者会見を開かせ、聴衆の数について話させました。あなたにとっては、就任式の聴衆の数がいくつもの重要な問題より大切だと受け止められるとは思いませんか」。大統領に就任して最初の関心事が、就任式の聴衆の数だというトランプの「器の小ささ」を暗に示していた。
こんなふうに、トランプ報道にさまざまなひねりが入るといいだろう。だが、そもそも「報道しない」という究極のひねりも効果がありそうだ。例えばCNNは、就任式後のホワイトハウスの会見の生中継を拒否した。
ホワイトハウスは会見の目的を事前に明らかにしていなかった。しかも、質問は受けないという。これは何かにおう。トランプに「フェイク(偽の)ニュース」と罵倒されていたCNNは、生中継を見合わせた。
【参考記事】トランプの「迷言女王」コンウェイ、イバンカの服宣伝で叱られる
記者会見の内容は、オバマ前大統領のときをかなり下回った就任式の聴衆の数が「史上最高」だったと言うためだった。結果的に、CNNは明らかな嘘を放送せずに済んだ。
トランプの時代には、メディアと政府の関係も変わっていくだろう。嘘を言うだけで、質問も受けない記者会見には、出席しないメディアが増えてもおかしくない。
メディアがトランプに振り回される日は、トランプが大統領の座にいる限り続くのだろう。しかしチャンスがあれば、ポピュリストに向けて投じるボールに、いくらかの変化をつけてみるのもいい。
[2017.2.14号掲載]
森田浩之(ジャーナリスト)
トランプ米大統領が精力的に動いている。中東など7カ国からの入国を一時停止する大統領令をはじめ、さまざまな動きが国内外で批判を呼んでいる。
メディアは、このポピュリスト大統領とどう付き合えばいいのか。ただひたすら、批判を続けるしかないのだろうか。
もちろん、徹底的な批判は必要だ。手を緩めてはならない。しかし一本調子で批判を続けるのも、楽しい作業ではない。
ここでは少し別の手を考えてみたい。例えば「今やろうとしていることは、本当にあなたの理想のアメリカをつくるためのものか」と念を押す。「あなたのやっていることは、自分の品格を落とすことにならないか」と忠告する。
こうしたひねりには効果がある。先日、米ABCテレビがトランプの単独インタビューを行ったとき、この手法が織り交ぜられていた。今後、他のメディアの参考になるかもしれない。
【参考記事】トランプ弾劾は賛否半々、オバマに戻ってきて欲しい人が過半数
インタビューはホワイトハウスで行われた。インタビュアーは、ABCのデービッド・ミュアー。43歳のミュアーは明晰な言葉で、トランプに質問を投げ掛ける。その問いは、時にトランプの公約の痛いところを突く。例えば、移民の問題について。
「不法移民の親に連れてこられた子供たちがいます。彼らは国外追放される可能性があるのでしょうか。それとも、アメリカにとどまれるという保証を得られるのでしょうか」
「移民」という問題から「子供」という要素だけを取り上げると、それまで見えなかった問題が見えてくる。移民の生活だけでなく、子供の成長や教育の問題に関わるからだろう。
器の小ささを暗に示す
次にミュアーが触れた大きなポイントは、トランプが「違法な投票がなければ、一般投票でも自分が勝っていた」と言い続けている点だ。
「大統領は今週、ホワイトハウスに議会指導者を招いたときも、300万~500万票の不正投票があったと話していました。事実であれば、アメリカ史上最悪の不正選挙ということになります。その証拠はどこにあるのでしょう。証拠を示すことなく、そのようなことを言い続けていると、あなたへの信頼が損なわれると思いませんか」
一般投票でも自分が勝っていたというトランプの主張に証拠があるなどと思っていた有権者は少ないだろう。だがミュアーは、証拠について問いただすのを忘れていなかった。
そして、この質問が飛んだ。「あなたは就任式の後に報道官に記者会見を開かせ、聴衆の数について話させました。あなたにとっては、就任式の聴衆の数がいくつもの重要な問題より大切だと受け止められるとは思いませんか」。大統領に就任して最初の関心事が、就任式の聴衆の数だというトランプの「器の小ささ」を暗に示していた。
こんなふうに、トランプ報道にさまざまなひねりが入るといいだろう。だが、そもそも「報道しない」という究極のひねりも効果がありそうだ。例えばCNNは、就任式後のホワイトハウスの会見の生中継を拒否した。
ホワイトハウスは会見の目的を事前に明らかにしていなかった。しかも、質問は受けないという。これは何かにおう。トランプに「フェイク(偽の)ニュース」と罵倒されていたCNNは、生中継を見合わせた。
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記者会見の内容は、オバマ前大統領のときをかなり下回った就任式の聴衆の数が「史上最高」だったと言うためだった。結果的に、CNNは明らかな嘘を放送せずに済んだ。
トランプの時代には、メディアと政府の関係も変わっていくだろう。嘘を言うだけで、質問も受けない記者会見には、出席しないメディアが増えてもおかしくない。
メディアがトランプに振り回される日は、トランプが大統領の座にいる限り続くのだろう。しかしチャンスがあれば、ポピュリストに向けて投じるボールに、いくらかの変化をつけてみるのもいい。
[2017.2.14号掲載]
森田浩之(ジャーナリスト)