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メルケルがアフリカでドイツ版マーシャルプラン、欧州に囲い込み目指す

ニューズウィーク日本版 2017年2月13日 20時10分

第2次大戦後、アメリカは共産主義勢力の拡張を阻止するため、戦争で壊滅した西ヨーロッパ諸国のインフラを再建し、弱体化した経済を復活させる経済復興援助計画「マーシャルプラン」を実施した。先月ドイツ政府は、それを彷彿とさせる「マーシャルプランとアフリカ」と題する大胆な取り組みを明らかにした。目的は2つある。アフリカ大陸の貿易や開発を活発化させること、もう一つは、地中海を経由して欧州に渡る大量の難民や不法移民を抑制することだ。

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「アフリカとヨーロッパ──開発、平和、より良い未来に向けた新たなパートナーシップ」と銘打った34ページに及ぶ計画を発表しながら、ゲルト・ミュラー独経済協力・開発相はこう論じた。「ヨーロッパにとって、アフリカの命運は試練と機会の両方を意味する。共に課題を解決しなければ、いずれ我々に降りかかってくる」

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ミュラーの認識は、国際労働機関(ILO)が1月上旬に発表した2017年度版の「世界の雇用・社会見通し」で挙げられた懸念を反映していた。報告書は、年内にアフリカで失業者数が120万人増加する見通しを示し、「良質な雇用機会を創出しなければ、アフリカを去って移民労働をするインセンティブが更に増大するリスクがある」と警告した。

リビアへ支援強化

移民の流入を防ぐためにドイツがアフリカに提示した開発援助は、2015年11月にマルタの首都バレッタで開催された難民・移民問題を話し合うEUとアフリカ諸国の首脳会議(サミット)以後で最新の提案だ。

当時サミットで、アフリカ諸国の経済開発を援助し、欧州に渡った難民や移民の送還を流出国に受け入れさせるため、18億ユーロの緊急基金を設立した。昨年12月にはEUを代表して合意文書に署名したオランダの外務省が声明を発表。欧州で難民申請を却下された自国民の送還を西アフリカ諸国が受け入れるのと引き換えに、EUが総額1億4500万ユーロの資金援助を拠出することで、EUと西アフリカのマリが合意した。今月3日にバレッタで開かれたEUの非公式の首脳会議では、難民・移民対策として、主要な経由国であるリビアへの支援を強化することで合意した。

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とりわけ関心が集まるのは、自国民の送還受け入れに協力しないアフリカ諸国の扱いだ。ドイツの連立与党内には、非協力的な国への援助は止めるべきだと主張し、ミュラーが示した方針には何のペナルティーも含まれていないとやり玉に上げる動きもある。今年の5月にイタリアのタオルミーナで開催される主要7カ国(G7)首脳会議でも、昨年に続いてアフリカと難民・移民問題が焦点になる予定だ。



ドイツ版マーシャルプランは、アフリカにおける公平な貿易、民間投資の増加、ボトムアップによる経済開発、起業家精神、新たな仕事の創出と雇用に力点を置くという。

アフリカの発展を強調しつつ、ドイツ政府は急成長するアフリカ経済が国内のビジネスにもたらすチャンスも見逃さない。ミュラーは40万社のドイツ企業が海外進出しているデータを引き合いに、わずか1000社しかアフリカに進出していない実態を嘆いて言った。「アフリカの利権を、中国やロシアやトルコに渡してはいけない」

具体的な中身は明らかにされなかったが、ドイツ版マーシャルプランでは、政府が直接インフラ建設などを行う従来型の開発援助から、政府が初期投資を行い民間が投資しやすくする方向に転換するという。「公的資金を呼び水にして民間のアフリカ投資を促進することができる。そうすれば保険会社や年金基金など、より大規模な機関投資家もアフリカ投資に魅力を見出せるようになる」

外国からの援助に頼らないアフリカ諸国の自助努力も促している。汚職の撲滅や投資促進、税収増などに取り組む必要がある。「たとえば、豊かなOECD(経済協力開発機構)加盟国の税率が35%なのに、なぜアフリカの最貧国では17%なのか。アフリカ諸国の多くは天然資源の輸出で儲けているのに、なぜ教育予算が慢性的に足りないのか」

自国第一主義を実践

その上でドイツは、ヨーロッパや国際的なプレイヤーと手を携え、改革を進めるアフリカの国々と共に、インセンティブに基づく改革を推進するパートナー」になるという。改革を進める国に特化した支援をする、というのがポイントだ。ミュラーは、ドイツのアフリカに対する支援の20%を、そうした協力国に向けて供与する意向を示した。

ミュラーは「地中海連合」の構想を提案した。モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア、エジプトをEUの域内市場に取り込む試みだ。将来的にアフリカの54カ国とEUが一体の自由貿易圏を作るための第一歩だ。

ドイツと同様、EUもアフリカ新戦略を練っている。11月のEUアフリカ首脳会談に向けた準備だ。フランスは先月、27回目のアフリカ・フランス首脳会談を終えたばかりだ。ドイツや他の欧州諸国に、構想実現のための資金と政治的意思が本当にあるかどうかはまだわからない。それでも、欧州の指導者が、ドナルド・トランプ米大統領が大統領就任式で奨励した「自国第一主義」を実践していることは確かだ。地政学的にも経済成長の大きさでも重要性を増しているアフリカにトランプが目を付けたとしても、欧州ははるか先を走っているはずだ。

J. Peter Pham is vice president of the Atlantic Council and director of its Africa Center.
This article first appeared on the Atlantic Council site.


J・ピーター・ファム(米大西洋協議会アフリカセンター理事長)

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