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サードは無力? 北朝鮮の新型ミサイルは米韓の戦略を無効にする

ニューズウィーク日本版 2017年2月13日 22時30分

<北朝鮮が12日に発射した新型ミサイルの発射実験は、まさに安倍=トランプの日米首脳会談の晩餐会の時間を狙って行われた。当初は従来型のノドンミサイルによるトランプ政権への揺さぶりと見られていたが、分析が進むにつれ、問題の深刻さが浮き彫りになりつつある>

北朝鮮は13日、新型中長距離弾道ミサイル(IRBM)「北極星2型」の発射実験を12日に実施したと発表した上で、実験は成功だったと表明した。北朝鮮のミサイル発射実験は、国際的に孤立を深める金正恩が、経済制裁などを行う国際社会や、核をめぐる6カ国協議の参加国に対して揺さぶりをかけるためのカードという見方がこれまで支配的だった。実際に武力行使をするのは政治的にも技術的にも難しいだろうという意見である。

だが、今回の「北極星2型」について韓国軍などが詳細に分析を進めるにつれ、少なくとも技術的には、韓国、日本はもとよりアメリカにまで先制攻撃を行う可能性が充分に出てきた。

韓国メディア世界日報によれば、米韓が年内配備を予定している、サード(THAAD・高高度ミサイル防衛システム)での迎撃が可能かどうか韓国軍が慎重に検証をしているという。

「北極星2型」の特徴



北朝鮮の新型ロケット発射 YTN news / YouTube

13日に北朝鮮メディアが発表した内容によれば、今回発射されたミサイルは、新しい戦略兵器で固体燃料を使用するという。昨年8月に潜水艦から発射実験が行われたSLBMミサイル「北極星」(全長9m)よりも大きく、ムスダン型ミサイル(12m)よりも短いという。

北朝鮮は、旧ソ連のR-27潜水艦発射弾道ミサイルを模倣してムスダン中距離ミサイル(射程距離3000km以上)を開発し、これをもとにSLBMの発射実験を行った。今回の「北極星2型」は、このSLBMのシステムを流用して新たな戦略ミサイルを開発したと見られる。

ソ連が冷戦時代に固体燃料を使ったSLBMを地対地弾道ミサイルに改造して実戦配備した事例があり、北朝鮮はこれを参考にして、今回のミサイル開発を進めたようだ。



ミサイル発射実験の成功を伝える朝鮮労働党機関紙・労働新聞

軍事専門家も今回の「北極星2型」については、従来の大陸弾道ミサイル(ICBM)クラスのKN-08とその改良型であるKN-14などとは異なる新型のミサイルを開発したと判断している。




北朝鮮の公開した写真を見ると、SLBMのように円筒形の発射装置から射出されたミサイルが、発射管出口から10mほど離れた空中で点火し、噴煙がわき上がっている。これは、発射管内に内蔵されたガス発生装置を使ってミサイルを一定以上の高さに押し出し、空中でロケット本体を点火する典型的なコールドローンチ(Cold Launch)方式と見られる。点火後にミサイルの姿勢を制御するため、胴体下部に格子状の制御翼(GRID FIN)が付いていることも確認される。



弾頭部分は従来のSLBMよりも緩やかな丸みをもっており、北朝鮮が昨年3月に公開した弾道ミサイルと形状が似ている。これは大気圏再突入を想定したものと見られる。またムスダンミサイルは、6輪のトレーラーのような移動発射車両に搭載されているが、今回の「北極星2型」は戦車のようなキャタピラーで走行する車両に発射管を装着していたもので打ち上げられたこともこれまでにはなかった点だ。キャタピラー型の車両になると山岳地帯が多い北朝鮮でも移動可能な場所が広がるため、従来想定されなかった地域からのミサイル攻撃も警戒が求められる。



今回、韓国軍が注目しているのは「北極星2型」は1段エンジンのみのロケットだったが、これを2段式にすれば事実上ICBMになるという点だ。キョンナム大学極東問題研究所のキム・ドンヨブ教授は「今回発射したミサイルに2段エンジンを結合すれば、ICBMとして十分飛行するだろう。今回の「北極星2型」は、ICBMに進むための中間段階の新しいミサイルで、SLBMやKN-08、KN-14とはまったく違う新型ミサイルと見なければならない」と分析した。

また、固体燃料を使用していることから、燃料注入作業が必要な液体燃料での打ち上げに比べて移動と発射を密かに迅速に行うことができる。韓国とアメリカが事前に打ち上げを探知することが難しくなり、迎撃にも時間がかかると予想される。

サードで迎撃可能か?

韓国メディアNEWSISによれば、この迎撃体制については、12日の「北極星2型」を韓国軍と在韓米軍は発射2分後に検知したということが判明している。この点について合同参謀関係者は、「従来、北朝鮮のミサイルはマッハ9.5の速度で飛行しているが、今回はそれ以上の速度を出している」と記者会見で明らかにした。

現在、韓国軍と在韓米軍が配備している迎撃ミサイル、パトリオット-2、3では「北極星2型」を迎撃することは不可能ということだ。そして、年内に配備が予定されているサードでも限界があるという指摘が出されている。

パトリオット-2、3はマッハ4〜5の速度で落下する弾頭だけを迎撃することが可能だが、サードはマッハ14まで迎撃が可能だ。だが、サードにも弱点がある。マッハ14まで迎撃可能なのは正面に落下する弾頭だけなのだ。北朝鮮が韓国を攻撃する際にサードの配備予定場所である慶尚北道星州(キョンサンブクド・ソンジュ)に正面からミサイルを撃ち込むはずはなく、側面から迎撃することになればサードでも対応しきれない、という指摘が出てきている。

しかも、北朝鮮が今回と同じ固定燃料を既存のノドンミサイルに応用すれば、サードではまったく刃が立たなくなる。キム・ドンヨブ教授は「今回の新型ミサイルの登場は、北朝鮮が固定燃料を使ったという点で、韓国のミサイル迎撃システムをほとんど無力化させることができることを意味する」と語っている。

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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