<トランプは、フリン国家安全保障担当補佐官を失っただけではない。管理能力ゼロと言われたフリンが政権内に残した高官内の分断や人手不足で、ロシアに威嚇されても応答もできない混乱を来している>
2月14日、ロシアが、開発したばかりの巡航ミサイルを実戦配備したと報じられた。マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官を辞任に追い込んだスキャンダルにホワイトハウスが揺れるなかで起きたこの動きは、重要な軍縮条約に違反する可能性があり、ロシアとより良い関係を築くと公言していたトランプ政権にとって痛手となりそうだ。
今回のミサイル配備と、ホワイトハウスがそれに即座に反応できなかった事実は、新政権は人員不足のうえに難問山積で、安全保障上の脅威に対処する備えができていないことを示している。
【参考記事】CIAを敵に回せばトランプも危ない
政権発足から最初の数週間は、「人手不足で職務に集中できない状況にあるため、敵対国にとっては、新政権を試す絶好の機会になる」──ホワイトハウスと国防総省の幹部だったジュリー・スミスはフォーリン・ポリシー(FP)誌にそう語っている。だが、トランプ政権は「ひどい人手不足」状態にあり、フリン辞任後は「さらに落ち着きを失っている」とスミスは付け加えた。
実戦配備で現実の脅威に
ロシアが配備したのは、SSC-8と呼ばれる地上発射型の巡航ミサイルで、射程距離は500~5500kmだ。政府関係者によれば、このミサイルの配備は、1987年に締結された中距離核戦力(INF)全廃条約に違反するものだという。INF全廃条約では、中距離の射程を持つ地上発射型ミサイルと弾道ミサイルが全面的に禁止されている。ロシアはこれまでにも、たびたびこの条約に違反し、米国政府を苛立たせている。2014年には、このミサイルの発射実験も行った。
【参考記事】トランプの「迷言女王」コンウェイ、イバンカの服宣伝で叱られる
今回は単なる実験ではなく実戦配備したことで、「(当該ミサイルが)潜在的な脅威から現実の脅威に変わった」と、駐ロシア米国大使も務めたアレキサンダー・バーシュボウNATO事務次官はFP誌に語った。「問題はきわめて深刻化している」
このミサイルは核弾頭の搭載が可能で、核不拡散の取り組みに対する重大な脅威を象徴していると指摘するのは、軍備管理協会(ACA)のダリル・キンボール会長だ。「ロシアのこの行動は、米露の重要な軍縮条約に違反している。この軍事条約によってアメリカは冷戦を終結させ、欧州の同盟国に対する核の脅威を取り除いてきた」とキンボールは述べている。
【参考記事】サタデー・ナイト・ライブに「スパイサー報道官」が笑劇デビュー!
2月14日に第一報を報じたニューヨーク・タイムズ紙によれば、現在、ロシアの大隊2つがこの巡航ミサイルを保持しているという。そのうちの1大隊は、ロシア南東部カプスチンヤルのミサイル実験施設に配置されている。もうひとつの大隊については、ニューヨーク・タイムズ紙は配備場所を特定できていない。また、巡航ミサイルが実際に配備された時期についても明らかになっていない。
ドナルド・トランプ大統領が入国禁止令や安全保障担当補佐官フリンの辞任などでつまずく一方、フリンの悪名高い無秩序な管理スタイルのせいで政府高官は分断され、不満を抱いていると、政府関係者たちはFPに明かしている。軍高官のなかには、文民である政権幹部に公然と忠告するという異例の行動に出た者までいる。
「我が国の政府は、依然として信じがたいほどの混乱状態にある。政府には、すぐにこの状態を解消してほしい。これではまるで戦争状態だ」。特殊作戦軍司令官を務めるレイモンド・トーマス陸軍大将は、14日にそう語った。のちに発言の真意を問われたトーマスは、「司令官として、我が国の政府が極力安定した状態にあることが重要だと考えている」と説明した。
大統領選の勝利から100日近くが過ぎたにもかかわらず、トランプはいまだ、政権内の重要ポストの担当者を指名していない。本来なら、ロシアによる軍縮条約違反などの危機が起きた際に、真っ先に応答するはずの者たちだ。トランプ政権ではまだ、国務副長官と国防副長官をはじめ、国家安全保障会議の一部の上級職や、さまざまな安全保障関連組織の主要な中間管理職のポストが埋まっていない。
ロシア機が異常接近
「ロシアは(新政権を)あちこちつついてみるだろう」と語るのは、ワシントンのシンクタンク、大西洋協議会でNATOを専門とするジョージ・ベニテズだ。「ロシア政府は、(アメリカからの反撃を受けずに)どこまで押せるかを探っている」
最近、ロシアの軍隊に絡んだ事件がほかにも2件起きた。黒海では、通常任務中の米駆逐艦にロシア軍機が異常接近。米東海岸のデラウェア州沖では、ロシアの偵察艇が目撃された。そうした報告がされたのは2年ぶりのことだ。国防総省報道官のバレリー・ヘンダーソン中佐はFPに対し、米軍は「偵察艇の存在に気づいていた」と話し、米国の領海には侵入していなかったと説明した。
そうした事件は互いに、そしてもちろんフリンの辞任とも、関係している可能性がある、と専門家は指摘する。
偵察艇が「テスト飛行だった可能性は当然あるが、いずれにしても一夜にして起きることではない」とスミスは言う。
From Foreign Policy Magazine
ロビー・グレイマー
2月14日、ロシアが、開発したばかりの巡航ミサイルを実戦配備したと報じられた。マイケル・フリン国家安全保障担当補佐官を辞任に追い込んだスキャンダルにホワイトハウスが揺れるなかで起きたこの動きは、重要な軍縮条約に違反する可能性があり、ロシアとより良い関係を築くと公言していたトランプ政権にとって痛手となりそうだ。
今回のミサイル配備と、ホワイトハウスがそれに即座に反応できなかった事実は、新政権は人員不足のうえに難問山積で、安全保障上の脅威に対処する備えができていないことを示している。
【参考記事】CIAを敵に回せばトランプも危ない
政権発足から最初の数週間は、「人手不足で職務に集中できない状況にあるため、敵対国にとっては、新政権を試す絶好の機会になる」──ホワイトハウスと国防総省の幹部だったジュリー・スミスはフォーリン・ポリシー(FP)誌にそう語っている。だが、トランプ政権は「ひどい人手不足」状態にあり、フリン辞任後は「さらに落ち着きを失っている」とスミスは付け加えた。
実戦配備で現実の脅威に
ロシアが配備したのは、SSC-8と呼ばれる地上発射型の巡航ミサイルで、射程距離は500~5500kmだ。政府関係者によれば、このミサイルの配備は、1987年に締結された中距離核戦力(INF)全廃条約に違反するものだという。INF全廃条約では、中距離の射程を持つ地上発射型ミサイルと弾道ミサイルが全面的に禁止されている。ロシアはこれまでにも、たびたびこの条約に違反し、米国政府を苛立たせている。2014年には、このミサイルの発射実験も行った。
【参考記事】トランプの「迷言女王」コンウェイ、イバンカの服宣伝で叱られる
今回は単なる実験ではなく実戦配備したことで、「(当該ミサイルが)潜在的な脅威から現実の脅威に変わった」と、駐ロシア米国大使も務めたアレキサンダー・バーシュボウNATO事務次官はFP誌に語った。「問題はきわめて深刻化している」
このミサイルは核弾頭の搭載が可能で、核不拡散の取り組みに対する重大な脅威を象徴していると指摘するのは、軍備管理協会(ACA)のダリル・キンボール会長だ。「ロシアのこの行動は、米露の重要な軍縮条約に違反している。この軍事条約によってアメリカは冷戦を終結させ、欧州の同盟国に対する核の脅威を取り除いてきた」とキンボールは述べている。
【参考記事】サタデー・ナイト・ライブに「スパイサー報道官」が笑劇デビュー!
2月14日に第一報を報じたニューヨーク・タイムズ紙によれば、現在、ロシアの大隊2つがこの巡航ミサイルを保持しているという。そのうちの1大隊は、ロシア南東部カプスチンヤルのミサイル実験施設に配置されている。もうひとつの大隊については、ニューヨーク・タイムズ紙は配備場所を特定できていない。また、巡航ミサイルが実際に配備された時期についても明らかになっていない。
ドナルド・トランプ大統領が入国禁止令や安全保障担当補佐官フリンの辞任などでつまずく一方、フリンの悪名高い無秩序な管理スタイルのせいで政府高官は分断され、不満を抱いていると、政府関係者たちはFPに明かしている。軍高官のなかには、文民である政権幹部に公然と忠告するという異例の行動に出た者までいる。
「我が国の政府は、依然として信じがたいほどの混乱状態にある。政府には、すぐにこの状態を解消してほしい。これではまるで戦争状態だ」。特殊作戦軍司令官を務めるレイモンド・トーマス陸軍大将は、14日にそう語った。のちに発言の真意を問われたトーマスは、「司令官として、我が国の政府が極力安定した状態にあることが重要だと考えている」と説明した。
大統領選の勝利から100日近くが過ぎたにもかかわらず、トランプはいまだ、政権内の重要ポストの担当者を指名していない。本来なら、ロシアによる軍縮条約違反などの危機が起きた際に、真っ先に応答するはずの者たちだ。トランプ政権ではまだ、国務副長官と国防副長官をはじめ、国家安全保障会議の一部の上級職や、さまざまな安全保障関連組織の主要な中間管理職のポストが埋まっていない。
ロシア機が異常接近
「ロシアは(新政権を)あちこちつついてみるだろう」と語るのは、ワシントンのシンクタンク、大西洋協議会でNATOを専門とするジョージ・ベニテズだ。「ロシア政府は、(アメリカからの反撃を受けずに)どこまで押せるかを探っている」
最近、ロシアの軍隊に絡んだ事件がほかにも2件起きた。黒海では、通常任務中の米駆逐艦にロシア軍機が異常接近。米東海岸のデラウェア州沖では、ロシアの偵察艇が目撃された。そうした報告がされたのは2年ぶりのことだ。国防総省報道官のバレリー・ヘンダーソン中佐はFPに対し、米軍は「偵察艇の存在に気づいていた」と話し、米国の領海には侵入していなかったと説明した。
そうした事件は互いに、そしてもちろんフリンの辞任とも、関係している可能性がある、と専門家は指摘する。
偵察艇が「テスト飛行だった可能性は当然あるが、いずれにしても一夜にして起きることではない」とスミスは言う。
From Foreign Policy Magazine
ロビー・グレイマー