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カナダ人はトランプよりトルドーを支持...とは限らない

ニューズウィーク日本版 2017年2月15日 20時4分

<首脳会談でトランプの「握手攻撃」に打ち勝ったカナダのトルドー首相。国民からの人気も高いが、トランプに支持率で負けている分野もある>

カナダのジャスティン・トルドー首相は2月13日、ホワイトハウスでドナルド・トランプ米大統領と会談を行った。トランプにとって、イギリスのテリーザ・メイ首相、日本の安倍晋三首相に続く3人目の首脳会談の相手だ。

最大の焦点はトランプが公約に掲げているNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉――なのだが、ネットメディアやSNSを中心に別の「バトル」にも注目が集まった。握手だ。

ハフィントン・ポストによると、トランプは握手の仕方が少し独特だ。男性と握手する際、相手の手を強く握り、自分のほうにグイッと引き寄せる傾向があるという。握手で自分のペースに持っていくような仕草だが、それが顕著に表れたのが10日の安倍首相との握手だった。19秒もの長く力強い握手が続き、安倍は困惑したような表情を見せた。

Jim Bourg-REUTERS

トルドーもトランプの"握手攻撃"に遭うのか――。しかし体を鍛えていることでも知られるトルドーは、出迎えたトランプとの最初の握手の際、左手を素早くトランプの肩に置き、相手のペースに飲み込まれるのを見事に防いだ(ように見えた)。

英テレグラフ紙はツイッターユーザーのさまざまなコメントを引用し、トルドーの"勝利"を伝えている。

「素晴らしい。トルドーがトランプの"掴んでグイッと"に反撃した握手バトルを見てほしい」「トランプの奇妙な握手に抵抗したトルドーはカナダ史上最大の優位を示した」「純粋なメイプルリーフの力でトランプ野郎を上手く退けた。強いリーダーだ」といった具合だ。

ハフィントン・ポストの別の記事(日本版)でも「カナダのトルドー首相は、トランプ大統領との握手の仕方を世界に示した」と称賛されている。

不安は経済と安全保障

今回の首脳会談に限らず、45歳と若くて好感度も高い"イケメン首相"は、2015年の就任以来、高い支持率を保っている。

2月8日に調査会社メインストリート・リサーチが発表したMainstreet/Postmediaの世論調査でも、調査対象のカナダ人の84%がトランプを支持しないと答えた一方、トルドーは支持率52%(不支持率は44%)。トランプとの差は圧倒的だ。

とはいえ、カナダ人が皆トランプ嫌いで、かつ自国のリーダーを全面的に支持していると思ったら大間違いだ。



初めてトランプとトルドーを比較してカナダ人に尋ねたこの調査では、個別の政策ごとの支持率を出している。それによれば、医療政策ではトランプ21%対トルドー51%、移民政策ではトランプ17%対トルドー56%、外交政策ではトランプ21%対トルドー41%と、トルドーが自国民のハートをがっちり掴んでいる。

しかし経済政策に関する設問では、トランプの政策を支持するという回答が53%で、トルドーの政策支持は43%に留まった。安全保障政策でも、トランプが51%、トルドーが39%と、支持率は逆転している。

なぜこれらの分野でトルドーの支持率は低いのか。

カナダ経済は2015年に原油安の打撃を受け、このところは好調と言えなかった。2月10日に雇用統計が改善したとの報告も出たが、アメリカとの通商関係がどう決着するかに大きく左右されるのは確実だ。カナダのCBCニュースによれば、14日に発表された2つのレポートでも、トランプが掲げている輸入品に対する「国境税」がカナダ経済にもアメリカ経済にも悪影響を及ぼすと予測している。

また、アメリカでも欧州でも反移民・難民のポピュリズムが力を増すなかで、カナダは「幸運にも残った"まとも"な先進国」(昨秋のエコノミスト誌特集より)とされているが、それでも1月29日にケベック州でモスク(イスラム礼拝所)銃乱射事件が起こるなど、火種がないわけではない。

【参考記事】「難民受け入れます(ただし独身男性を除く)」の波紋

今回のMainstreet/Postmediaの世論調査は1月下旬に実施されたもの。その後のトランプの入国禁止令や、13日の首脳会談での"勝利"を経て、カナダ人の受け止め方は変化しているかもしれないが、いずれにせよトルドーにとってもこれからが正念場だろう。


ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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