<ISISから奪還した土地を安全地帯にするには、いま地上で戦っている民兵ではなく、高度の訓練を受けた一級の軍隊が必要だ。入っていく部隊と住民双方の犠牲を最小限にするためだ>
ドナルド・トランプ米大統領は先月、シリアに「安全地帯(safe zones)」を作ると言った。内戦で行き場を失った国内避難民を国内にとどめるのが狙いだ。既に500万人近くにのぼるシリア難民を、これ以上増やさないための方策だ。だが、安全地帯を設けることでいったい何が達成できるだろう?
トランプがまず知るべきなのは、安全地帯には陸と空からの強力な支援が必要ということだ。安全地帯を本当に避難民にとって戦場とは違う安全な場所にするのなら、この支援は不可欠だ。
6年近い内戦の間、飛行禁止区域の設定を求める声は何度もあった。だが、地上の守りはどうするかについては誰も触れたがらなかった。周囲は戦場だ。10キロ上空から住民の安全を守れるはずはないのだが、住民虐殺を厭わないバシャル・アサド大統領からいかに人々を守るかという議論はいつも、地上部隊投入の可能性が浮上するたびに止まってしまった。
ISが脅威なら民兵任せにするな
現在シリアには、安全地帯に転じられるかもしれない紛争地域がいくつかあるが、最も大きいのはISIS(自称イスラム国)が支配するシリアの中央部と東部だ。もしISISが敗北すれば、ユーフラテス川からイラクに広まで巨大な安全地帯の候補地ができる。だがそれには米政府の大きな戦略転換が必要だ。現在ISISと戦っている地上部隊はトルコのクルド分離主義組織「クルディスタン労働者党(PKK)」と、そのシリア支部にあたる民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」。ISISが首都と称する町ラッカには、YPGとその他のアラブ人部隊から成る「シリア民主軍(SDF)」が攻め入る予定だ。
だが都市部での戦闘はろくに訓練も受けていない民兵向けではない。特殊スキルを備えた世界一級の軍が必要だ。町に入る部隊と住民双方の犠牲を最小限に抑えるスキルだ。
筆者はずっと、米軍率いる有志連合の地上部隊創設を提言してきた。米兵とともに、トルコやヨルダン、フランス、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーンといった国の兵士が戦うのだ。最後の3カ国は既に、対ISIS作戦に参加を表明している。それ以外の国々も仲間に入れるには相当の外交努力が必要だ。だがもし本当にISISが一部イスラム教徒を入国禁止にするほど脅威なら、なぜその脅威の無効化を外国の民兵任せにするのだろうか。
ISISを下した部隊は、解放した都市を陸と空から守らなければならない。シリアの中央部と東部を「カリフ国」から安全地帯に変えなければならない。そのためには、バシャル・アサド大統領の軍も入れてはならない。ISISを倒しても、支配者が血に飢え腐敗したアサド政権に代わるだけなら、再びシリア難民がトルコやイラクにあふれ出すことになる。
トランプとヨルダンのアブドラ国王はシリア南西部、ダマスカスからヨルダン国境までの安全地帯を議論したと言われる。この地域は相対的に安定している。それでも、安全地帯を確立するには、ヨルダンの地上軍と空軍の存在が理想的だろう。
シリアの住民はもう6年近くも戦闘の標的にされてきた。シリアも近隣諸国も、欧米諸国も、アサドとISISの犯罪行為の代償を支払わされてきた。シリア全土を安全地帯にするには、アサドと家族、側近を取り除く体制変換が必要だ。それまでの間、米政府は住民を戦争の恐怖から保護するための戦略を練り直す必要がある。
From Foreign Policy Magazine
フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員)
ドナルド・トランプ米大統領は先月、シリアに「安全地帯(safe zones)」を作ると言った。内戦で行き場を失った国内避難民を国内にとどめるのが狙いだ。既に500万人近くにのぼるシリア難民を、これ以上増やさないための方策だ。だが、安全地帯を設けることでいったい何が達成できるだろう?
トランプがまず知るべきなのは、安全地帯には陸と空からの強力な支援が必要ということだ。安全地帯を本当に避難民にとって戦場とは違う安全な場所にするのなら、この支援は不可欠だ。
6年近い内戦の間、飛行禁止区域の設定を求める声は何度もあった。だが、地上の守りはどうするかについては誰も触れたがらなかった。周囲は戦場だ。10キロ上空から住民の安全を守れるはずはないのだが、住民虐殺を厭わないバシャル・アサド大統領からいかに人々を守るかという議論はいつも、地上部隊投入の可能性が浮上するたびに止まってしまった。
ISが脅威なら民兵任せにするな
現在シリアには、安全地帯に転じられるかもしれない紛争地域がいくつかあるが、最も大きいのはISIS(自称イスラム国)が支配するシリアの中央部と東部だ。もしISISが敗北すれば、ユーフラテス川からイラクに広まで巨大な安全地帯の候補地ができる。だがそれには米政府の大きな戦略転換が必要だ。現在ISISと戦っている地上部隊はトルコのクルド分離主義組織「クルディスタン労働者党(PKK)」と、そのシリア支部にあたる民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」。ISISが首都と称する町ラッカには、YPGとその他のアラブ人部隊から成る「シリア民主軍(SDF)」が攻め入る予定だ。
だが都市部での戦闘はろくに訓練も受けていない民兵向けではない。特殊スキルを備えた世界一級の軍が必要だ。町に入る部隊と住民双方の犠牲を最小限に抑えるスキルだ。
筆者はずっと、米軍率いる有志連合の地上部隊創設を提言してきた。米兵とともに、トルコやヨルダン、フランス、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーンといった国の兵士が戦うのだ。最後の3カ国は既に、対ISIS作戦に参加を表明している。それ以外の国々も仲間に入れるには相当の外交努力が必要だ。だがもし本当にISISが一部イスラム教徒を入国禁止にするほど脅威なら、なぜその脅威の無効化を外国の民兵任せにするのだろうか。
ISISを下した部隊は、解放した都市を陸と空から守らなければならない。シリアの中央部と東部を「カリフ国」から安全地帯に変えなければならない。そのためには、バシャル・アサド大統領の軍も入れてはならない。ISISを倒しても、支配者が血に飢え腐敗したアサド政権に代わるだけなら、再びシリア難民がトルコやイラクにあふれ出すことになる。
トランプとヨルダンのアブドラ国王はシリア南西部、ダマスカスからヨルダン国境までの安全地帯を議論したと言われる。この地域は相対的に安定している。それでも、安全地帯を確立するには、ヨルダンの地上軍と空軍の存在が理想的だろう。
シリアの住民はもう6年近くも戦闘の標的にされてきた。シリアも近隣諸国も、欧米諸国も、アサドとISISの犯罪行為の代償を支払わされてきた。シリア全土を安全地帯にするには、アサドと家族、側近を取り除く体制変換が必要だ。それまでの間、米政府は住民を戦争の恐怖から保護するための戦略を練り直す必要がある。
From Foreign Policy Magazine
フレデリック・ホフ(大西洋協議会中東センター上級研究員)