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プーチンがひそかに狙う米シェール産業の破壊

ニューズウィーク日本版 2017年2月24日 11時0分

<ロシアはエネルギー利権防衛のためアメリカ国内の反対運動を陰で操っている>

ロシアの秘密工作は、アメリカの大統領だけでなくエネルギー産業にも及んでいる。

先月発表された大統領選へのロシアの干渉に関する米情報機関の報告書には、ロシアがアメリカのフラッキング(水圧破砕法)によるシェールガス・オイル生産を妨害するため、反対派に資金を提供し、運動を裏で操っていたことを示す証拠が含まれていた。ウラジーミル・プーチン大統領の狙いは石油価格の上昇と米経済の不安定化、そしてアメリカのエネルギー自給達成を阻止することだ。

【参考記事】「プーチン、トランプ勝利を狙いサイバー攻撃指示」米政府関係者

フラッキングは地下のシェール(頁岩)層の岩盤に超高圧の水を注入し、石油や天然ガスを取り出す技術だ。現在では430万人の雇用を支え、毎年約5000億ドルの経済効果を生み出している。フラッキングによる生産量増加のおかげで天然ガスの価格は半分に下がり、アメリカの家計は平均年200ドルの節約が可能になった。

このままいけば、アメリカは20年までにエネルギーの完全自給を達成できる。現在、アメリカの石油総生産量の半分近くに当たる年間15億バレル強がシェールオイルだ。

ロシアはこれを脅威と見なしている。上記の報告書によれば、ロシア政府は「世界のエネルギー市場におけるフラッキングとアメリカの天然ガス生産の影響」を気にしている。アメリカの天然ガス輸出の増加は、ロシアの石油・天然ガス独占企業である国営ガスプロムにとって「潜在的難問」だ。 

事実上のロシア国営メディアである国際テレビ局RTは、成長するアメリカのシェール産業に猛攻撃を仕掛けている。15年の7カ月間だけで、フラッキングを批判するテレビ番組とニュースを62回も放送した。

反対派に資金をばらまく

ロシア政府がシェール反対運動を陰で操っていると非難されるのは、今回が初めてではない。14年、NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務局長(当時)は情報機関の報告に基づき、ロシア政府は環境保護団体と共謀してルーマニア、リトアニア、ブルガリアでシェール開発事業の妨害を図ったと結論付けた。



米上院の14年の報告書では、シー・チェンジ財団という組織が自然保護有権者連盟、シエラクラブ、天然資源保護協議会(NRDC)などの反シェール団体に11年に4300万ドル以上を支援したと指摘された。この財団は、プーチンやロシアの石油業界と直接関係があるバミューダ籍のダミー会社から多額の資金援助を受けている。

フラッキングが環境や健康に悪影響を与えるという説は、科学的に否定されている。米環境保護局(EPA)は4年がかりの調査の末、フラッキングが「飲料水に広範かつ体系的な影響を与えている証拠は見つからなかった」と15年に結論付けた。米地質調査所(USGS)の調査も、フラッキングによる地下水汚染を否定するものだった。

フラッキングは間違いなくアメリカに利益をもたらした。健康や環境を危険にさらすことなく多くの雇用を創出し、経済を活性化させ、エネルギー自給への道を切り開いた。今もシェールを攻撃し続けているのは、ロシアによる反科学、反米プロパガンダの操り人形だけだろう。

ロシアはあらゆる手段を使ってアメリカのシェール産業を破壊するつもりだ。アメリカはこの脅威に敢然と立ち向かわなくてはならない。フラッキングをめぐる戦いは、アメリカにとって負けられない戦いだ。

(筆者が所属する納税者保護連盟は、より信頼でき、より小さな政府の実現を提唱するNPOの社会教育機関)

[2017.2.21号掲載]
ドリュー・ジョンソン(米納税者保護連盟・上席研究員)

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