<ポピュリズムとナショナリズムの時代になっても、政治的リベラリズムは後退しないと、ダライ・ラマ14世の後継者、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首席大臣。単独インタビュー後編>
※センゲ大臣インタビュー・前編:難民社会の成功モデル? チベット亡命政府トップ単独インタビュー
来日中の中央チベット政権(チベット亡命政府)のロブサン・センゲ首席大臣インタビュー。前編では、民主主義こそが亡命チベット人社会の組織運営を成功させる鍵だと聞いた。
この後編では、亡命者と難民を率いるリーダーである立場から、ポピュリズムの台頭や自国優先主義などに代表される「民主主義の危機」について見解を聞く。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「憂慮すべき事態ではあります。しかし、もう少し深く分析してみると、ポピュリズムやナショナリズムの台頭はもっぱら経済面に限られています。インドの「MADE IN INDIA」キャンペーンや(ドナルド・)トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」は、経済的ポピュリズム、経済的ナショナリズムです。
リベラリズムに挑戦する人たちが民主主義や人権そのものまでも疑っているとは思いません。トランプ大統領ですら(イスラム諸国の国民の入国禁止の大統領令を差し止める)裁判所の決定に従ったのですから。
私は政治的リベラリズムが後退するとは思っていません。しかし、経済的ナショナリズムは勃興しつつあるように見えます。これが政治的ナショナリズムの台頭につながれば、リベラリズムはある種の見直しを迫られる可能性もありますが、私たちはリベラリズムの価値観を守る必要があります。
グローバリゼーションはリベラリズムを導き、中産階級を拡大させ、(富裕層から中産層への)富のトリクルダウン効果を生み出します。
しかし、今では「上位1%の富裕層が下位50%の貧困層と同じだけの富を保有している」ことが強く問題視されるようになりました。インドにいたっては1%の富裕層が人口の7割と同じ富を支配しています。持つものと持たざる者の格差が大きな問題となっています。
貧しい家庭にも経済的機会が与えられるような社会のバランスが必要ですが、(格差への反発から生まれた)経済的ナショナリズムがかつてのような軍事的、政治的ナショナリズムに転化しないように気をつけなければなりません。ただし、現在では経済面にとどまっていると言えるでしょう」
経済的ナショナリズムがチベット人に与える影響
政治的リベラリズムは容易に後退しないとセンゲ大臣は断言した。民主主義への厚い信頼を感じさせる言葉だが、新たな経済的ナショナリズムが亡命チベット人社会に影響を与える可能性はないのだろうか。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「現時点では政治的自由主義や人権のための"空間"が国際社会で確保されていると思います。その空間は1年前や10年前と比較しても変わりません。しかし、経済的ナショナリズムやポピュリズムに関する言説が国際世論を席巻しているため、見えづらくなっているとは言えるでしょう。
不幸なことに、9.11以降、多種多様なテロ行為が増加しました。哲学では「暴力では暴力を終わらせられない」といいます。毎年テロが増えているのは、暴力によって対応しているからです。非暴力を信じるダライ・ラマ法王に仕える身としては、「もし目標が非暴力ならば、そこにいたるプロセスも非暴力的であるべきだ」と言いたいですね。
ともあれ、難民危機や経済的ナショナリズム、ポピュリズムの台頭によって、チベット問題は脇に追いやられた部分はあるでしょう。しかし、国際社会は人権問題に対する関心を持ち続けています。我々は世界に向けて、民主主義も人権も普遍的だと訴え続けていかなければなりません」
インタビューに答えるセンゲ大臣 撮影:筆者
トランプ政権は「中国に対して現実的」
アメリカにトランプ新大統領が誕生したが、慣例を破って台湾総統と電話会談を行ったかと思えば、先日の習近平中国国家主席との電話会談では、従来の発言を翻して「一つの中国」政策の尊重を表明するなど、その対中国政策はきわめて不透明だ。トランプ時代のアメリカはチベット政策についても大きく変更するのだろうか。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「レックス・ティラーソン新国務長官は就任演説でチベット問題に対する支持を継続すると表明し、またダライ・ラマ法王に面会すると発言しました。我々もトランプ大統領と新国務長官にお祝いの手紙を送りました。米高官と法王との会談は今後も続きますし、チベットの自由及び「中道のアプローチ」(インタビュー前編参照)に基づく法王と中国政府の対話について、米国は支持を継続するでしょう。
ただし、トランプ氏の政権メンバー、そしてトランプ氏自身の過去の中国に関する発言、フリン国家安全保障顧問(インタビュー後に辞任)やマティス国防長官の発言も見ると、安全保障面ではタカ派がそろっている一方で、中国に対して現実的な見方をしているという側面もあります。
(現実的な対中外交と従来のチベット政策との)対立はあるかもしれませんが、アメリカ政府は日本政府とともに中国に対して人権問題やチベット問題を提起することをためらわないと考えています」
香港が前例か、それともチベットが前例か
ダライ・ラマ14世が提唱する中道のアプローチは、香港の一国二制度を念頭に置いたものだ。ところが中国の全国人民代表大会常務委員会の決議で、香港の議員の免職が実質的に決定されるなど一国二制度は揺らぎつつある。前例となる香港が危機にあるなか、中道のアプローチの有効性も問われているのではないか。
【参考記事】なぜ中国は香港独立派「宣誓無効」議員の誘いに乗ったか
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「私はいつもこう言います。「中国について理解したければ、チベットの物語を知らなければならない。チベットのことを知らなければ、中国のことは本当に理解したことにならない」とね。
1951年に中国政府とチベット政府の間で「17カ条協定」が結ばれました。これは実質的に一国二制度です。この第4条によれば、「チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位および職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来どおりの職に就く」とされていました。
我々はこの協定がそもそも中身のないもので、不法なものだと思っています。なぜならば、この協定は力による強要の下で署名されたからです。しかも調印後、協定は毎年骨抜きにされていきました。1959年にはすべての協定が反故にされ、ダライ・ラマ法王はインドに亡命するしか道がなくなってしまいました。
同じように一国二制度が香港に与えられたわけですが、教訓はすでにあるわけです。中国の裏切りはすでにチベットで起きていたことです。香港の人々の懸念は無理からぬところです。
しかし、チベットの状況は違います。中道のアプローチを採択した理由は、現状があまりにひどすぎるからです。チベットでの弾圧は非常に厳しいもので、145人ものチベット人が焼身自殺するほど生活はあまりにみじめです。
最近、中国政府はラルンガル僧院(中国四川省のチベット族自治州にあるチベット仏教の僧院)の一角を取り壊したと伝えられています。そこで1万2000人の僧が5000人に減らされました。漢民族の信者も排除されました。
チベット人にとって、現状はあまりにひどいのです。したがって、完全な自治を求める中道のアプローチが実現すれば大きく改善されます。我々から見れば自由をすでに持ち得ている香港とは状況が違うのです。ただ、中国政府との交渉は一筋縄ではいかないでしょう。我々は1959年に経験済みなのでよく分かっていますし、慎重に交渉する必要はあります」
「美しい国・日本の国民に感謝している」
40分を超える単独インタビューとなったが、最後に日本人へのメッセージを聞いた。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「日本はアジアでもっとも影響力がある豊かな国のひとつであり、長い民主主義の歴史と、仏教の歴史を持っています。したがって、我々にとって、日本は民主主義と発展と文化の保持の面でモデルなのです。
私は可能な限り年に一度は日本に来ようと思っています。日本を通じてアジアや世界に対し、「チベット問題は重要」と力強く肯定的なメッセージを伝えられますからね。我々チベット人は美しい国・日本と国民の皆さんにとても感謝しています。
妻と娘も日本が大好きです。ほかの国を訪問するときに、彼女たちはいつもいやいやついてくるのですが、日本には喜んでついてきますからね(笑)。
ですから、日本の心遣いとチベット問題に対する長年の支援に感謝しております。そして、今後もそれを続けることをお願いしたい。チベット問題が解決するにはまだ何十年もかかるでしょう。しかし、近い将来チベットに変化がもたらされることに希望を持っています」
◇ ◇ ◇
2011年にダライ・ラマ14世が「政治的に完全に引退」を宣言してから6年。センゲ大臣はダライ・ラマ14世に代わり、世界にチベット問題をアピールし続けてきた。国土も主権もなく世界各地に散らばる14万人余りの亡命チベット人をまとめつつ、年々国際的発言力を増す超大国・中国に向き合うのは並大抵の仕事ではない。
【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱
そして今、世界的に難民への風当たりが強まり、国際世論の共感が薄れつつあるだけでなく、チベット亡命政府の後ろ盾となってきた欧米諸国でも民主主義が各国で行き詰まりを見せている。センゲ大臣の前途は難題山積だ。
しかし、インタビューではセンゲ大臣はユーモアを交えつつ、流暢な英語で歯切れよく国際情勢を分析。トランプ政権も冷静に見極め、その中国への強硬姿勢を利用しようというしたたかさを持ち備えていた。圧倒的な存在感を誇るダライ・ラマ14世の政治的後継者となるのは相当なプレッシャーがあるはずだが、そんなことは感じさせない落ち着いた物腰が印象的だった。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
※センゲ大臣インタビュー・前編:難民社会の成功モデル? チベット亡命政府トップ単独インタビュー
来日中の中央チベット政権(チベット亡命政府)のロブサン・センゲ首席大臣インタビュー。前編では、民主主義こそが亡命チベット人社会の組織運営を成功させる鍵だと聞いた。
この後編では、亡命者と難民を率いるリーダーである立場から、ポピュリズムの台頭や自国優先主義などに代表される「民主主義の危機」について見解を聞く。
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センゲ大臣:
「憂慮すべき事態ではあります。しかし、もう少し深く分析してみると、ポピュリズムやナショナリズムの台頭はもっぱら経済面に限られています。インドの「MADE IN INDIA」キャンペーンや(ドナルド・)トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」は、経済的ポピュリズム、経済的ナショナリズムです。
リベラリズムに挑戦する人たちが民主主義や人権そのものまでも疑っているとは思いません。トランプ大統領ですら(イスラム諸国の国民の入国禁止の大統領令を差し止める)裁判所の決定に従ったのですから。
私は政治的リベラリズムが後退するとは思っていません。しかし、経済的ナショナリズムは勃興しつつあるように見えます。これが政治的ナショナリズムの台頭につながれば、リベラリズムはある種の見直しを迫られる可能性もありますが、私たちはリベラリズムの価値観を守る必要があります。
グローバリゼーションはリベラリズムを導き、中産階級を拡大させ、(富裕層から中産層への)富のトリクルダウン効果を生み出します。
しかし、今では「上位1%の富裕層が下位50%の貧困層と同じだけの富を保有している」ことが強く問題視されるようになりました。インドにいたっては1%の富裕層が人口の7割と同じ富を支配しています。持つものと持たざる者の格差が大きな問題となっています。
貧しい家庭にも経済的機会が与えられるような社会のバランスが必要ですが、(格差への反発から生まれた)経済的ナショナリズムがかつてのような軍事的、政治的ナショナリズムに転化しないように気をつけなければなりません。ただし、現在では経済面にとどまっていると言えるでしょう」
経済的ナショナリズムがチベット人に与える影響
政治的リベラリズムは容易に後退しないとセンゲ大臣は断言した。民主主義への厚い信頼を感じさせる言葉だが、新たな経済的ナショナリズムが亡命チベット人社会に影響を与える可能性はないのだろうか。
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センゲ大臣:
「現時点では政治的自由主義や人権のための"空間"が国際社会で確保されていると思います。その空間は1年前や10年前と比較しても変わりません。しかし、経済的ナショナリズムやポピュリズムに関する言説が国際世論を席巻しているため、見えづらくなっているとは言えるでしょう。
不幸なことに、9.11以降、多種多様なテロ行為が増加しました。哲学では「暴力では暴力を終わらせられない」といいます。毎年テロが増えているのは、暴力によって対応しているからです。非暴力を信じるダライ・ラマ法王に仕える身としては、「もし目標が非暴力ならば、そこにいたるプロセスも非暴力的であるべきだ」と言いたいですね。
ともあれ、難民危機や経済的ナショナリズム、ポピュリズムの台頭によって、チベット問題は脇に追いやられた部分はあるでしょう。しかし、国際社会は人権問題に対する関心を持ち続けています。我々は世界に向けて、民主主義も人権も普遍的だと訴え続けていかなければなりません」
インタビューに答えるセンゲ大臣 撮影:筆者
トランプ政権は「中国に対して現実的」
アメリカにトランプ新大統領が誕生したが、慣例を破って台湾総統と電話会談を行ったかと思えば、先日の習近平中国国家主席との電話会談では、従来の発言を翻して「一つの中国」政策の尊重を表明するなど、その対中国政策はきわめて不透明だ。トランプ時代のアメリカはチベット政策についても大きく変更するのだろうか。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「レックス・ティラーソン新国務長官は就任演説でチベット問題に対する支持を継続すると表明し、またダライ・ラマ法王に面会すると発言しました。我々もトランプ大統領と新国務長官にお祝いの手紙を送りました。米高官と法王との会談は今後も続きますし、チベットの自由及び「中道のアプローチ」(インタビュー前編参照)に基づく法王と中国政府の対話について、米国は支持を継続するでしょう。
ただし、トランプ氏の政権メンバー、そしてトランプ氏自身の過去の中国に関する発言、フリン国家安全保障顧問(インタビュー後に辞任)やマティス国防長官の発言も見ると、安全保障面ではタカ派がそろっている一方で、中国に対して現実的な見方をしているという側面もあります。
(現実的な対中外交と従来のチベット政策との)対立はあるかもしれませんが、アメリカ政府は日本政府とともに中国に対して人権問題やチベット問題を提起することをためらわないと考えています」
香港が前例か、それともチベットが前例か
ダライ・ラマ14世が提唱する中道のアプローチは、香港の一国二制度を念頭に置いたものだ。ところが中国の全国人民代表大会常務委員会の決議で、香港の議員の免職が実質的に決定されるなど一国二制度は揺らぎつつある。前例となる香港が危機にあるなか、中道のアプローチの有効性も問われているのではないか。
【参考記事】なぜ中国は香港独立派「宣誓無効」議員の誘いに乗ったか
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「私はいつもこう言います。「中国について理解したければ、チベットの物語を知らなければならない。チベットのことを知らなければ、中国のことは本当に理解したことにならない」とね。
1951年に中国政府とチベット政府の間で「17カ条協定」が結ばれました。これは実質的に一国二制度です。この第4条によれば、「チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位および職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来どおりの職に就く」とされていました。
我々はこの協定がそもそも中身のないもので、不法なものだと思っています。なぜならば、この協定は力による強要の下で署名されたからです。しかも調印後、協定は毎年骨抜きにされていきました。1959年にはすべての協定が反故にされ、ダライ・ラマ法王はインドに亡命するしか道がなくなってしまいました。
同じように一国二制度が香港に与えられたわけですが、教訓はすでにあるわけです。中国の裏切りはすでにチベットで起きていたことです。香港の人々の懸念は無理からぬところです。
しかし、チベットの状況は違います。中道のアプローチを採択した理由は、現状があまりにひどすぎるからです。チベットでの弾圧は非常に厳しいもので、145人ものチベット人が焼身自殺するほど生活はあまりにみじめです。
最近、中国政府はラルンガル僧院(中国四川省のチベット族自治州にあるチベット仏教の僧院)の一角を取り壊したと伝えられています。そこで1万2000人の僧が5000人に減らされました。漢民族の信者も排除されました。
チベット人にとって、現状はあまりにひどいのです。したがって、完全な自治を求める中道のアプローチが実現すれば大きく改善されます。我々から見れば自由をすでに持ち得ている香港とは状況が違うのです。ただ、中国政府との交渉は一筋縄ではいかないでしょう。我々は1959年に経験済みなのでよく分かっていますし、慎重に交渉する必要はあります」
「美しい国・日本の国民に感謝している」
40分を超える単独インタビューとなったが、最後に日本人へのメッセージを聞いた。
◇ ◇ ◇
センゲ大臣:
「日本はアジアでもっとも影響力がある豊かな国のひとつであり、長い民主主義の歴史と、仏教の歴史を持っています。したがって、我々にとって、日本は民主主義と発展と文化の保持の面でモデルなのです。
私は可能な限り年に一度は日本に来ようと思っています。日本を通じてアジアや世界に対し、「チベット問題は重要」と力強く肯定的なメッセージを伝えられますからね。我々チベット人は美しい国・日本と国民の皆さんにとても感謝しています。
妻と娘も日本が大好きです。ほかの国を訪問するときに、彼女たちはいつもいやいやついてくるのですが、日本には喜んでついてきますからね(笑)。
ですから、日本の心遣いとチベット問題に対する長年の支援に感謝しております。そして、今後もそれを続けることをお願いしたい。チベット問題が解決するにはまだ何十年もかかるでしょう。しかし、近い将来チベットに変化がもたらされることに希望を持っています」
◇ ◇ ◇
2011年にダライ・ラマ14世が「政治的に完全に引退」を宣言してから6年。センゲ大臣はダライ・ラマ14世に代わり、世界にチベット問題をアピールし続けてきた。国土も主権もなく世界各地に散らばる14万人余りの亡命チベット人をまとめつつ、年々国際的発言力を増す超大国・中国に向き合うのは並大抵の仕事ではない。
【参考記事】ダライ・ラマ亡き後のチベットを待つ混乱
そして今、世界的に難民への風当たりが強まり、国際世論の共感が薄れつつあるだけでなく、チベット亡命政府の後ろ盾となってきた欧米諸国でも民主主義が各国で行き詰まりを見せている。センゲ大臣の前途は難題山積だ。
しかし、インタビューではセンゲ大臣はユーモアを交えつつ、流暢な英語で歯切れよく国際情勢を分析。トランプ政権も冷静に見極め、その中国への強硬姿勢を利用しようというしたたかさを持ち備えていた。圧倒的な存在感を誇るダライ・ラマ14世の政治的後継者となるのは相当なプレッシャーがあるはずだが、そんなことは感じさせない落ち着いた物腰が印象的だった。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)