職場でハイヒールを履くよう雇用主が女性に強要するのは違法とすべきか? 英国議会で3月6日に審議されることになった。2015年に1人の女性が仕事場にハイヒールを履いていかなかったために解雇されたことに端を発する。
ヒールでの勤務を拒否して解雇
ニコラ・ソープさんは2015年12月、英国の受付業務アウトソーシング会社ポーティコから、ロンドンにあるコンサルティング大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)に受付嬢として派遣された。
初出勤日にPwCの受付でポーティコのマネージャーと待ち合わせたソープさんは、ドレッシーなフラットシューズで現れた。そこでマネージャーに、ポーティコの服装規定として、女性は約5〜10センチのハイヒールを履かなければいけない、と告げられ、外に買いに行ってくるよう提案された。
しかしソープさんは9時間のシフトで、来客を会議室に案内しなければいけない業務だったため、「ヒールでそれはできない」と拒否。すると、帰宅するよう命じられ、この日の賃金が払われることなく解雇されたという。
ソープさんがこの日起こったことをフェイスブックに投稿すると、似たような状況にあるという女性からのコメントが相次いだ。ソープさんは、こうした「時代遅れで性差別的」な服装規定を違法とするよう政府に訴えるオンライン請願を立ち上げた。
英国議会のウェブサイトによると、オンライン請願を始めてわずか3日で10万件以上の署名が集まったという。英国では、国民の誰もがオンライン請願を始められる。署名が1万件以上集まれば議会から回答が得られ、10万件以上集まれば下院議会で審議してもらえる。ソープさんの署名は最終的に、15万2000件集まった。
ハイヒールの危険性
英国議会はこれを受け、調査の一環で一般の人たちから経験談を募った。すると、販売で1日中立ち仕事をしているにも関わらず自分もヒールを強要されているという女性の悲痛な叫びや、シュー・フィッター協会で働くと言う人からの「仕事でハイヒールを強要することは、性差別的のみならず危険」という意見など、730件の声が寄せられた。
実際、ヒールはどのくらい体に良くないのか。ロンドン・フット・クリニックの足病医アドナン・ナズール氏がNBCニュースのサイトに語った話によると、ハイヒールを頻繁に履くことでアキレス腱が短くなったり、アキレス腱炎になったりする危険性があるという。
またロンドンにある足病医協会は、足の痛み、皮膚の損傷、外反母趾、足から背骨までの関節の圧縮、腰痛、さらに転倒やそれに伴う負傷といったリスクを指摘する。同協会が行った調査では、女性の41%が、履いている靴が痛いという理由で外出などを早めに切り上げて帰宅した経験があると答えたという。
夏季のネクタイやスーツは男性差別?
この一件は、ソーシャル・メディアでも話題になり、ツイッターでは#dresscode(服装規定)や#noheels(ヒール要らない)、#loveheels(ヒール大好き)と言ったハッシュタグを使って意見が交換された。テレグラフ(2017年1月25日付)が掲載したこうしたツイートの中には、「夏にもスーツとネクタイを着用しなきゃいけない服装規定は、男性への性差別?」というものもあった。女性のヒールが不快であるのと同様、男性のスーツとネクタイも不快ではないかと思う人も確かに多いだろう。
ただし、2016年9月15日付のテレグラフにソープさん自身が寄せた記事では、この件はソープさんにとって「単なるヒールの問題じゃない。女性の権利の問題だ」と言い、女性がヒールと化粧を求められることは、男性がシャツやネクタイの着用を求められるのとは違うと主張している。ハイヒールが健康を損なう可能性があることに加え、男性のシャツやネクタイとは異なり、ハイヒールは女性を性的な存在とするためのものだからというのがその理由だ。
「メイ首相はハイヒールを脱ぐべき」?
フィナンシャル・タイムズによると、英国には2010年平等法という法律があり、ハイヒールを強要するのは本来違法となる。しかし下院議会の「請願委員会」と「女性と平等委員会」が今回作成した報告書によると、一部の業界では差別的な服装規定がまだまかり通っており、平等法が効力を発揮していないことが伺えたという。そのため、平等法を迅速に見直し、必要なら修正する必要があるという。
ちなみに、ハイヒール以外にも英国の企業にはさまざまな服装規定が存在する。エキスプレスによると前述の報告書では、髪を金髪に染めること、露出度の高い服装をすること、化粧直しを常に行うこと、などを指示する事例が報告されているという。
一方で、2016年7月に首相に就任したメイ首相はハイヒール好きとして知られているが、英国の労働組合GMBが2016年9月、ソープさんの一件を受けて、メイ首相に「職場での女性活躍を推進したいなら、メイ首相はハイヒールを履くのをやめるべきだ」と逆に注文をつけた。しかしこれに対してソープさんは前述のテレグラフの記事の中で、メイ首相にはハイヒールを履く権利があるはずだと一蹴。英国で働くすべての女性が、自分が履きやすいと思う靴を選べるべきだ、と主張している。
女性にとっては日常的なアイテムのハイヒールが、英国における女性の権利に新たな視点をもたらしたこの請願書の行方に、英国で多くの人が注目している。
松丸さとみ
ヒールでの勤務を拒否して解雇
ニコラ・ソープさんは2015年12月、英国の受付業務アウトソーシング会社ポーティコから、ロンドンにあるコンサルティング大手のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)に受付嬢として派遣された。
初出勤日にPwCの受付でポーティコのマネージャーと待ち合わせたソープさんは、ドレッシーなフラットシューズで現れた。そこでマネージャーに、ポーティコの服装規定として、女性は約5〜10センチのハイヒールを履かなければいけない、と告げられ、外に買いに行ってくるよう提案された。
しかしソープさんは9時間のシフトで、来客を会議室に案内しなければいけない業務だったため、「ヒールでそれはできない」と拒否。すると、帰宅するよう命じられ、この日の賃金が払われることなく解雇されたという。
ソープさんがこの日起こったことをフェイスブックに投稿すると、似たような状況にあるという女性からのコメントが相次いだ。ソープさんは、こうした「時代遅れで性差別的」な服装規定を違法とするよう政府に訴えるオンライン請願を立ち上げた。
英国議会のウェブサイトによると、オンライン請願を始めてわずか3日で10万件以上の署名が集まったという。英国では、国民の誰もがオンライン請願を始められる。署名が1万件以上集まれば議会から回答が得られ、10万件以上集まれば下院議会で審議してもらえる。ソープさんの署名は最終的に、15万2000件集まった。
ハイヒールの危険性
英国議会はこれを受け、調査の一環で一般の人たちから経験談を募った。すると、販売で1日中立ち仕事をしているにも関わらず自分もヒールを強要されているという女性の悲痛な叫びや、シュー・フィッター協会で働くと言う人からの「仕事でハイヒールを強要することは、性差別的のみならず危険」という意見など、730件の声が寄せられた。
実際、ヒールはどのくらい体に良くないのか。ロンドン・フット・クリニックの足病医アドナン・ナズール氏がNBCニュースのサイトに語った話によると、ハイヒールを頻繁に履くことでアキレス腱が短くなったり、アキレス腱炎になったりする危険性があるという。
またロンドンにある足病医協会は、足の痛み、皮膚の損傷、外反母趾、足から背骨までの関節の圧縮、腰痛、さらに転倒やそれに伴う負傷といったリスクを指摘する。同協会が行った調査では、女性の41%が、履いている靴が痛いという理由で外出などを早めに切り上げて帰宅した経験があると答えたという。
夏季のネクタイやスーツは男性差別?
この一件は、ソーシャル・メディアでも話題になり、ツイッターでは#dresscode(服装規定)や#noheels(ヒール要らない)、#loveheels(ヒール大好き)と言ったハッシュタグを使って意見が交換された。テレグラフ(2017年1月25日付)が掲載したこうしたツイートの中には、「夏にもスーツとネクタイを着用しなきゃいけない服装規定は、男性への性差別?」というものもあった。女性のヒールが不快であるのと同様、男性のスーツとネクタイも不快ではないかと思う人も確かに多いだろう。
ただし、2016年9月15日付のテレグラフにソープさん自身が寄せた記事では、この件はソープさんにとって「単なるヒールの問題じゃない。女性の権利の問題だ」と言い、女性がヒールと化粧を求められることは、男性がシャツやネクタイの着用を求められるのとは違うと主張している。ハイヒールが健康を損なう可能性があることに加え、男性のシャツやネクタイとは異なり、ハイヒールは女性を性的な存在とするためのものだからというのがその理由だ。
「メイ首相はハイヒールを脱ぐべき」?
フィナンシャル・タイムズによると、英国には2010年平等法という法律があり、ハイヒールを強要するのは本来違法となる。しかし下院議会の「請願委員会」と「女性と平等委員会」が今回作成した報告書によると、一部の業界では差別的な服装規定がまだまかり通っており、平等法が効力を発揮していないことが伺えたという。そのため、平等法を迅速に見直し、必要なら修正する必要があるという。
ちなみに、ハイヒール以外にも英国の企業にはさまざまな服装規定が存在する。エキスプレスによると前述の報告書では、髪を金髪に染めること、露出度の高い服装をすること、化粧直しを常に行うこと、などを指示する事例が報告されているという。
一方で、2016年7月に首相に就任したメイ首相はハイヒール好きとして知られているが、英国の労働組合GMBが2016年9月、ソープさんの一件を受けて、メイ首相に「職場での女性活躍を推進したいなら、メイ首相はハイヒールを履くのをやめるべきだ」と逆に注文をつけた。しかしこれに対してソープさんは前述のテレグラフの記事の中で、メイ首相にはハイヒールを履く権利があるはずだと一蹴。英国で働くすべての女性が、自分が履きやすいと思う靴を選べるべきだ、と主張している。
女性にとっては日常的なアイテムのハイヒールが、英国における女性の権利に新たな視点をもたらしたこの請願書の行方に、英国で多くの人が注目している。
松丸さとみ