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トランプ、米国防費「歴史的増強」の財源はどこにあるのか

ニューズウィーク日本版 2017年2月28日 18時0分

<トランプは米国防費を大幅に増やす意向。その増加分だけで、ロシアの年間国防費に相当する。一方で世論への配慮から社会保障費は削らないと公約しており、犠牲になるのは、政治的に削りやすい外交予算や対外援助費かもしれない>

アメリカのドナルド・トランプ大統領は2月27日、2018年度の国防費を前年度比10%、540億ドル増やすという「歴史的拡大」を約束し、米外交官や安全保障専門家を驚かせた。増額分は、国務省およびそのほかの連邦政府機関の予算を削減して充てる予定だという。

当局者の話では、国務省は48時間以内に予算削減案をホワイトハウスに提出し、最大で30%のカットを目指さなければならないようだ。この大胆な要請を受けて、国務省は対外援助プログラムの廃止と省内の大規模再編を余儀なくされるだろう。

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ホワイトハウスによる今回の予算案は、政府と連邦政府機関の間で交わされる予算折衝の第一弾にすぎない。また、折衝が終わった後、議会で承認を受けなくてはならない。しかし、トランプによる初の予算案の大筋は、米外交官と対外援助推進団体に再び疑いを抱かせた。主席戦略官スティーブ・バノン率いるホワイトハウスは、外交や国務省が広い意味で安全保障に果たす役割をほとんど重視していないのではないか、という疑いだ。

「ホワイトハウスは国務省に対して、基本的にこう告げている。『これからはもっと小さい靴を履きなさい。さて、どの指を切り落とそうか?と」。対外援助を推し進める非営利団体ベター・ワールド・キャンペーンのプレジデントを務めるピーター・ヨーは本誌に語った。

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外交なら政治的に削減可能

ホワイトハウスは国防費の大幅増額に伴い、財政赤字が膨らまないよう政府内の他部門で予算を削減したい考えだ。ただし、トランプはすでにメディケア(高齢者向け公的医療保険)や社会保障の削減は行わないと公言しているため、予算削減は政治的に可能な分野で行うことになる。

とはいえ、それでやりくりが可能かどうかはわからない。国務省などの政府機関の規模は、国防総省とは比べものにならないくらい小さいからだ。

「外交や開発の予算を大幅に削減して軍事費増分を埋め合わせようとするのはばかげているし、数字を見ても不可能だ。国務省予算と開発予算は連邦政府支出全体の1%にすぎない」とデラウェア州選出の民主党上院議員クリス・クーンズは話す。

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連邦政府機関は一般的に、大統領に厳しい予算要求を突きつけられても何とか対応している。しかし、トランプの予算削減要求はあまりにも大きい。エクソンモービルのCEOだったレックス・ティラーソン国務長官は自前の人脈も経験も不足している。

「ティラーソンは人材の配置もまだ途中。これは難しい課題だ」と、ヨーは言う。そもそも、右腕となる国務副長官がまだ決まっていないのだ。「ティラーソンはどの程度削減するのだろうか。削減要求に従うのだろうか。48時間で答えを出せというのは極めて異例だ」



国務省は、トランプから要求されている予算削減の規模についてコメントを避けたが、マーク・トナー報道官代理によれば、国務省は「優先される予算について、ホワイトハウスならびに行政予算管理局と協議しているところ」だという。「国務省は引き続き外交政策に力を注ぎ、アメリカ国民の安全と繁栄を推し進めていく」とトナーは言う。

いずれにせよ、最終的に予算案が承認されるには、上院で60票(5分の3以上)を獲得しなくてはならない。トランプの初の予算案について、多くの民主党議員は激怒している。一方、共和党議員たちは、さらに詳細がわかるまでは様子見のようだ。

民主党議員は、政治的姿勢を問わず、今回の予算案が否決されるのはすでに確実だとして激しく非難し、軍事費増額の必要性を疑問視している(今回の予算案で提案された増額分は、ロシアの総国防費とほぼ同じだ)。アメリカの2017年度の国防費は年間およそ6000億ドルで、世界でダントツのトップ。一方、対外援助と国務省の予算は年間500億ドルだ。

対外援助はお荷物、の嘘

共和党のジョン・マケイン上院軍事委員会委員長(アリゾナ州選出)を筆頭に一部の共和党議員は、国防費を6400億ドルに拡大する独自の予算案を示しながらトランプ案では「少なすぎる」と批判した。「世界中に紛争が広がる今、多少の増額では平和を守れない」

米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の研究者でトランプの政権移行チームに参加したジェームズ・カラファノは、国防総省の予算は「多くの外交使節団を派遣するオバマ政権の目玉政策」で無駄遣いされてきたと指摘、国務省予算の大幅な削減を支持した。

「オバマ政権は、テロリスト予備軍の過激化を阻止する対策から男女平等の実現に至るまで様々な成果を上げたと主張したが、どれほど効果があったかは疑問だ」

同じ共和党でも、リンジー・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)やジョン・ブーズマン上院議員(アーカンソー州選出)、ケイ・グレンジャー下院議員(テキサス州選出)などのベテラン議員は、対外援助資金に充てる予算確保を強く支持している。

だがトランプは大統領選で繰り返し、米政府による対外援助は無駄だらけだとやり玉に上げた。そのせいか国民の間には根拠のない負担感も募っている。2009年以降、アメリカ人を対象に米連邦予算のうちどれほどの割合が対外援助に充てられていると思うかを尋ねる世論調査を実施してきた米カイザー・ファミリー財団はによると、平均的な回答者は25%程度だった。実際は、実際はイスラエルやエジプトへの軍事支援を含めても1%以下だ。



トランプは週明け、無駄な海外援助の話題を持ち出し、アメリカは中東に「6兆ドルも使った」「かつてない混乱が残った」としてオバマの外交政策を批判。そのうえ「高速道路や一般道はへこんだまま放置された」と指摘し、インフラ整備への支出を大幅に増やす考えを示した。

トランプが国防費拡大を求めたのを受けて、120人以上の退役軍人や海軍将官から成るグル―プが連名で、議会の指導部やティラーソン、ジェームズ・マティス国防長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)宛てに書簡を送った。意外だがその内容は、ソフトパワーを強調するもの。「国防に加え、外交と開発に関わる取り組みを拡大・強化することが、国の安全を守るうえで決定的に重要だ」と警告した。

NSA(米国家安全保障局)長官や米サイバー軍初代司令官を歴任したキース・アレクサンダー退役将軍や、オバマ政権でアフガニスタン駐留米軍司令官を務めたジョン・アレン退役大将などを含む同グループは書簡で、マティスが米中央軍(CENTROM)の司令官だった2013年に国務省予算の削減を牽制した発言に言及した。「国務省にしっかり予算を充てなければ、米軍はもっと武器を購入する必要に迫られる」

国土安全保障省は削減の例外

ホワイトハウスは5月までに最終予算を取りまとめたい意向を示したが、トランプが具体的にどの部門の予算を削ろうとしているのかは明らかになっていない。ただ、予算削減を免れそうな機関が1つある──国土安全保障省(DHS)だ。国防総省とともに数十億ドルの追加予算が投入されるとみられ、政府高官はそれをトランプが選挙戦で公約に掲げた「法と秩序」の回復に向けた取り組みの一環と位置付ける。本誌は先週末、編成に22億ドルの費用と5年の歳月がかかるDHSの国境警備隊について、採用条件を緩和する計画を示す内部報告書の存在を明らかにした。

それでも、政権が新たな移民対策を実行に移すうえで、国務省の協力が重要なのに変わりはない。メキシコをはじめとする関係国と不法移民の強制送還で連携し、メキシコ当局の国境警備に対する資金提供を含めた様々な形の援助を行うなど、国境線の治安対策強化で直接的な役割を担うのは国務省だ。

上院外交委員会で委員長を務めたボブ・メネンデス上院議員(民主党・ニュージャージー州選出)は週明け、メキシコやラテンアメリカ諸国に対する対外援助の拡大が絶対に必要だと述べた。

「米政府が安全保障に不可欠な事業にかける費用は、連邦予算の1%にも届かない」と本誌に語ったメネンデスは、そうした事業の一例として、中南米の麻薬密売人やアメリカを標的にした犯罪ネットワークの撲滅に向けて、外国の警察や軍を訓練する取り組みを挙げた。

From Foreign Policy Magazine




ジョン・ハドソン、モリー・オトゥール

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