沢の奥へと分け入り釣りを楽しむ「源流野営」のためのギアを展開するガレージメーカーのRiverSideRambler(RSR)。アウトドアのガレージメーカーとしては異色の立ち位置でものづくりを続けるブランド主宰・河野辺元康さんのインタビューをお届けします。
源流泊のためのストーブたち
――RiverSideRamblerはブランド名が示す通り、源流で野営するというアクティビティがバックグラウンドにあるのでしょうか。
河野辺 そうですね。ソロでの源流泊に必要なギアを作ることをテーマにしています。渓流釣りは結構過酷なアクティビティではありますけど、最近は注目されつつあるようです。これまでトレランをやってきたような人が、オフトレイルにも興味を持ち始めている。山の中で一泊して、そこで食料も調達して......といったことをやろうとすると、釣りですよね。
――UL(ウルトラライト)も食料を減らすことは難しい。渓流釣りならそれができる。
河野辺 僕らはSAWYERとかで沢の水を浄化して使いますから、水も持たない。イワナを釣ってタンパク源にするし、知識があれば植物も採集できます。2日程度の野営なら全然いけますよ。ここのところ、アメリカからの逆輸入みたいな感じでテンカラが流行ってきていますが、あれもミニマルな装備で遊べるところがうけているんじゃないでしょうか。
――パックロッドくらいの荷物で済みますからね。ULの発想と通じるところがあるわけですね。
河野辺 渓流釣りは、いわゆる海釣りや川釣りとはまったく違いますし、やってみると違う風景が見えてきますよ。戦略的な釣りの楽しさがあるんです。
――そういう源流で使う道具のブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
河野辺 動機は、やはり自分で使うギアを作りたくなったことで、きっかけになったのは、いまの主力商品であるアルコールストーブです。
源流釣りは釣り具を持って行くので荷物を極力減らしたい。だから、コッヘルに全部しまえるアルコールストーブを持って行きます。以前は定番のモデルを使っていたんですけど、沢の上流は気温も低いしお湯を沸かすのがすごく大変で。良いものはないかといろいろ調べたら、日本にアルコールストーブを空き缶で作っている人たちがいて、一部ですごく盛り上がってたわけです。
――日本のULカルチャーの原点にもなった、アルコールストーブを自作するコミュニティですね。
河野辺 ええ。そのコミュニティで、キャピラリーフープシステムというトルネード燃焼するストーブを作っていた。それがおもしろいので自作してみたんですけど、すごく難しくて全然うまくいかないんです。でも欲しい。じゃあ、空き缶を使わずに削り出しで作ってみようと。
――なるほど。
河野辺 もともと私はデザイナーとして会社に在籍していたのですが、自分でものづくりをしたいなと思って独立して、まずリールを作ったんです。何十個か制作して販売しましたが、フライフィッシングは人口が少ないので、リール作りでは食べていけなかった。でも、それを1年続けたことで、金属加工のノウハウを培うことができました。この技術で、削り出しのアルコールストーブが作れるなと思いついたんです。
まずFacebookでアルコールストーブの制作過程を公開したところ、結構な反響があった。そこで、クラウドファンディングを足掛かりにして販売を始め、ブランドを軌道に乗せることができました。
――アルコールストーブは最初から完成度がとても高かったですよね。
河野辺 当初は、内側のパーツが削り出しで、カップ状の外側は職人が手仕事で作っていました。へらしぼりという技法で、板をへらで絞って形を変えていく。それもすごい精度なんですけど、削り出しに比べると若干の3D的な歪みが生じる。それが原因で不完全燃焼が起こったりもしてしまいました。
いま販売しているモデルでは、外側も削り出しで作ることができるようなりました。
――外側を削り出すとなると、使う部分は材料全体のほんのわずかになるので、コストの面で大変そうですね。
河野辺 まさにそこがネックでしたが、何とか販売できる価格にすることができました。かつ、いままでよりも硬いアルミも使っています。
――見た目がとても美しい。
河野辺 内側に串のようなパーツが入っていて、3層構造です。アルコールストーブとしては高いんですけど(※RSR Stove 2nd 税別8,000円)、工程を考えるとどうしてもこの価格になってしまいます。単に火が出ればいいのであれば他の選択肢がありますが、それだけではない魅力を感じてくれる人に使っていただければ嬉しいですね。
現状はまだ手作業の工程があってそこまで作れないのですが、今年はさらに構造を見直して、もっと量産できるようにしたいと考えています。
超軽量簡易カマド「ネイチャーストーブ」
――ネイチャーストーブについてお聞きします。このプロダクトの構造も、かつてないものですよね。
河野辺 これは焚き火台と考えていなくて、お米を炊くもの、つまりお釜という発想で作ったものなんです。源流に持って行く食料として、お米は理想的なんです。保存が利くし、ビニールに入れておけば携帯しやすいし、カロリーの対重量比も高い。それに、川の食事はメインディッシュがイワナになるので、やはり米が炊きたくなるんですね。
――ただ、炊く必要がありますね。
河野辺 そうなんです。10〜15分は沸騰させないといけない。単独で川に行くと、テン場もわからず、ごく小さいスペースしか確保できないような時があります。そういう状況でも、これならお米が炊ける。燃焼台が宙に浮いているので、地面が濡れていても問題ない。
――軽いし、とにかくコンパクトに携帯できるのもポイントです。
河野辺 だから、持って行って使わなくても問題ないんです。約160gですから、お守りのつもりで持っているのもいいのではないでしょうか。(※RSR Naturestove 税別8,000円)
――ネイチャーストーブにしてもアルコールストーブにしても、従来の製品の満足できない点に、RSRなりの解決策を提示している。そういうところがおもしろいですね。
河野辺 良いものを突き詰めていくと同じところに収れんすることはままありますから、結果的に近い形に落ち着くのは仕方ないのかなと。ただ、これまでのものとは異なる発想からものづくりを始めようと意識的にしています。だからRSRのプロダクトは、理解してもらえるまでに時間がかかるかもしれません。
「源流釣り」はまだまだデザインの余地がある
バックパック RSR Backpack CZ35(別売りのセンターパック、ウェストパック、ロッドフォルダをマウント)
――新作のバックパックは素材にX-Pacを採用したつるっとしたつくりです。
河野辺 X-Pacは防水性があり、強度もあります。シルナイロンなどを使ったUL系のザックだと、沢登りでは破けやすい。それは川を想定したつくりではないので仕方ないんです。渓流の用途に最適化したのが、RSRのバックパックなのです。表面がつるっとしているのも、川の藪なんかでの引っかかりをなくすためですね。
――背面に大きく止水ジッパーが設けられているのもおもしろい。
河野辺 背面のジッパーも、渓流に行っている者ならではの発想でしょうね。川べりで背面を下にして置くと濡れたり泥がついたりしてしまいます。それにパックをしょっちゅう降ろすことになるので、いちいちロールトップを開けて荷物を出し入れしたくない。意外と、普通の旅行用バックパックとしても便利ですよ。背面を上にして置いて、ボストンバッグ感覚で使えるんです。
――そしてモジュール式になっているのがいちばんの特色ですね。オプションとして、サブバックになるセンターパックとウェストパック、ロッドフォルダが用意されています。
河野辺 僕らはテン場に着いたら本体のバックパックを置いて、そこから上流に入っていくわけですが、その時にセンターパックとウェストパックだけ持って行くんです。これだけで竿と雨具、お昼の食料くらいが余裕で入ります。
出かける時点で、本体とオプションに荷物を配分して入れておくんです。テン場で荷物の入れ替えをすると、沢の奥まで入ったところで忘れ物に気付いたりする(笑)。
オプションの センターパックのみを背負った状態
――そのストレスが最小限になるわけですね。
河野辺 センターパックは肩ひとつで背負えるので、竿を振る時も邪魔になりません。本体が35Lで、センターパックが7L、ウエストバッグが3L。僕らはテントを使わず、タープとビビィだけで宿泊するので、このセットで十分です。いまのところ、これがベストだと考えていますね。
試作中のシェルター
――いま試作中というシェルターについてもお聞きしたいです。
河野辺 5角形で1ポールの、完全なソロシェルターです。源流釣りでは、河原の石の上に張ったりするのでフロアはありません。一番下のスカートの部分に網が張ってあって内側に巻き返しになっています。これは湿気が下から上に抜けやすくするためで、上部にベンチレータを設けています。このつくりによって蚊帳としても機能します。
――湿気と虫という川沿いならではの問題を回避できるのですね。
河野辺 どうしても結露は起きてしまいますが、それでも湿気は軽減できると思います。このシェルターを先シーズン使ってみて、バージョンアップしては試して......ということをデザイナーとふたりで続けてきました。ほぼ完成してきているかなと。いまは生産にあたっての問題点にあたっている段階ですね。
――最後に今後の展望を教えてください。
河野辺 これ以上カテゴリーを拡大しても手に負えなくなってしまうので、ここまでのラインナップをいかにブラッシュアップしていくかを考えています。そのためにも、RSRの思想をもっと浸透させていきたいし、海外にももっと展開していきたいですね。源流釣りの分野は、まだまだデザインの余地があると思うんです。
※執筆:Geared(Facebookページ)
○関連記事(ギアード)
100マイルレースでも街でも使える ANSWER4 のプロダクト
geared (ギアード)
源流泊のためのストーブたち
――RiverSideRamblerはブランド名が示す通り、源流で野営するというアクティビティがバックグラウンドにあるのでしょうか。
河野辺 そうですね。ソロでの源流泊に必要なギアを作ることをテーマにしています。渓流釣りは結構過酷なアクティビティではありますけど、最近は注目されつつあるようです。これまでトレランをやってきたような人が、オフトレイルにも興味を持ち始めている。山の中で一泊して、そこで食料も調達して......といったことをやろうとすると、釣りですよね。
――UL(ウルトラライト)も食料を減らすことは難しい。渓流釣りならそれができる。
河野辺 僕らはSAWYERとかで沢の水を浄化して使いますから、水も持たない。イワナを釣ってタンパク源にするし、知識があれば植物も採集できます。2日程度の野営なら全然いけますよ。ここのところ、アメリカからの逆輸入みたいな感じでテンカラが流行ってきていますが、あれもミニマルな装備で遊べるところがうけているんじゃないでしょうか。
――パックロッドくらいの荷物で済みますからね。ULの発想と通じるところがあるわけですね。
河野辺 渓流釣りは、いわゆる海釣りや川釣りとはまったく違いますし、やってみると違う風景が見えてきますよ。戦略的な釣りの楽しさがあるんです。
――そういう源流で使う道具のブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。
河野辺 動機は、やはり自分で使うギアを作りたくなったことで、きっかけになったのは、いまの主力商品であるアルコールストーブです。
源流釣りは釣り具を持って行くので荷物を極力減らしたい。だから、コッヘルに全部しまえるアルコールストーブを持って行きます。以前は定番のモデルを使っていたんですけど、沢の上流は気温も低いしお湯を沸かすのがすごく大変で。良いものはないかといろいろ調べたら、日本にアルコールストーブを空き缶で作っている人たちがいて、一部ですごく盛り上がってたわけです。
――日本のULカルチャーの原点にもなった、アルコールストーブを自作するコミュニティですね。
河野辺 ええ。そのコミュニティで、キャピラリーフープシステムというトルネード燃焼するストーブを作っていた。それがおもしろいので自作してみたんですけど、すごく難しくて全然うまくいかないんです。でも欲しい。じゃあ、空き缶を使わずに削り出しで作ってみようと。
――なるほど。
河野辺 もともと私はデザイナーとして会社に在籍していたのですが、自分でものづくりをしたいなと思って独立して、まずリールを作ったんです。何十個か制作して販売しましたが、フライフィッシングは人口が少ないので、リール作りでは食べていけなかった。でも、それを1年続けたことで、金属加工のノウハウを培うことができました。この技術で、削り出しのアルコールストーブが作れるなと思いついたんです。
まずFacebookでアルコールストーブの制作過程を公開したところ、結構な反響があった。そこで、クラウドファンディングを足掛かりにして販売を始め、ブランドを軌道に乗せることができました。
――アルコールストーブは最初から完成度がとても高かったですよね。
河野辺 当初は、内側のパーツが削り出しで、カップ状の外側は職人が手仕事で作っていました。へらしぼりという技法で、板をへらで絞って形を変えていく。それもすごい精度なんですけど、削り出しに比べると若干の3D的な歪みが生じる。それが原因で不完全燃焼が起こったりもしてしまいました。
いま販売しているモデルでは、外側も削り出しで作ることができるようなりました。
――外側を削り出すとなると、使う部分は材料全体のほんのわずかになるので、コストの面で大変そうですね。
河野辺 まさにそこがネックでしたが、何とか販売できる価格にすることができました。かつ、いままでよりも硬いアルミも使っています。
――見た目がとても美しい。
河野辺 内側に串のようなパーツが入っていて、3層構造です。アルコールストーブとしては高いんですけど(※RSR Stove 2nd 税別8,000円)、工程を考えるとどうしてもこの価格になってしまいます。単に火が出ればいいのであれば他の選択肢がありますが、それだけではない魅力を感じてくれる人に使っていただければ嬉しいですね。
現状はまだ手作業の工程があってそこまで作れないのですが、今年はさらに構造を見直して、もっと量産できるようにしたいと考えています。
超軽量簡易カマド「ネイチャーストーブ」
――ネイチャーストーブについてお聞きします。このプロダクトの構造も、かつてないものですよね。
河野辺 これは焚き火台と考えていなくて、お米を炊くもの、つまりお釜という発想で作ったものなんです。源流に持って行く食料として、お米は理想的なんです。保存が利くし、ビニールに入れておけば携帯しやすいし、カロリーの対重量比も高い。それに、川の食事はメインディッシュがイワナになるので、やはり米が炊きたくなるんですね。
――ただ、炊く必要がありますね。
河野辺 そうなんです。10〜15分は沸騰させないといけない。単独で川に行くと、テン場もわからず、ごく小さいスペースしか確保できないような時があります。そういう状況でも、これならお米が炊ける。燃焼台が宙に浮いているので、地面が濡れていても問題ない。
――軽いし、とにかくコンパクトに携帯できるのもポイントです。
河野辺 だから、持って行って使わなくても問題ないんです。約160gですから、お守りのつもりで持っているのもいいのではないでしょうか。(※RSR Naturestove 税別8,000円)
――ネイチャーストーブにしてもアルコールストーブにしても、従来の製品の満足できない点に、RSRなりの解決策を提示している。そういうところがおもしろいですね。
河野辺 良いものを突き詰めていくと同じところに収れんすることはままありますから、結果的に近い形に落ち着くのは仕方ないのかなと。ただ、これまでのものとは異なる発想からものづくりを始めようと意識的にしています。だからRSRのプロダクトは、理解してもらえるまでに時間がかかるかもしれません。
「源流釣り」はまだまだデザインの余地がある
バックパック RSR Backpack CZ35(別売りのセンターパック、ウェストパック、ロッドフォルダをマウント)
――新作のバックパックは素材にX-Pacを採用したつるっとしたつくりです。
河野辺 X-Pacは防水性があり、強度もあります。シルナイロンなどを使ったUL系のザックだと、沢登りでは破けやすい。それは川を想定したつくりではないので仕方ないんです。渓流の用途に最適化したのが、RSRのバックパックなのです。表面がつるっとしているのも、川の藪なんかでの引っかかりをなくすためですね。
――背面に大きく止水ジッパーが設けられているのもおもしろい。
河野辺 背面のジッパーも、渓流に行っている者ならではの発想でしょうね。川べりで背面を下にして置くと濡れたり泥がついたりしてしまいます。それにパックをしょっちゅう降ろすことになるので、いちいちロールトップを開けて荷物を出し入れしたくない。意外と、普通の旅行用バックパックとしても便利ですよ。背面を上にして置いて、ボストンバッグ感覚で使えるんです。
――そしてモジュール式になっているのがいちばんの特色ですね。オプションとして、サブバックになるセンターパックとウェストパック、ロッドフォルダが用意されています。
河野辺 僕らはテン場に着いたら本体のバックパックを置いて、そこから上流に入っていくわけですが、その時にセンターパックとウェストパックだけ持って行くんです。これだけで竿と雨具、お昼の食料くらいが余裕で入ります。
出かける時点で、本体とオプションに荷物を配分して入れておくんです。テン場で荷物の入れ替えをすると、沢の奥まで入ったところで忘れ物に気付いたりする(笑)。
オプションの センターパックのみを背負った状態
――そのストレスが最小限になるわけですね。
河野辺 センターパックは肩ひとつで背負えるので、竿を振る時も邪魔になりません。本体が35Lで、センターパックが7L、ウエストバッグが3L。僕らはテントを使わず、タープとビビィだけで宿泊するので、このセットで十分です。いまのところ、これがベストだと考えていますね。
試作中のシェルター
――いま試作中というシェルターについてもお聞きしたいです。
河野辺 5角形で1ポールの、完全なソロシェルターです。源流釣りでは、河原の石の上に張ったりするのでフロアはありません。一番下のスカートの部分に網が張ってあって内側に巻き返しになっています。これは湿気が下から上に抜けやすくするためで、上部にベンチレータを設けています。このつくりによって蚊帳としても機能します。
――湿気と虫という川沿いならではの問題を回避できるのですね。
河野辺 どうしても結露は起きてしまいますが、それでも湿気は軽減できると思います。このシェルターを先シーズン使ってみて、バージョンアップしては試して......ということをデザイナーとふたりで続けてきました。ほぼ完成してきているかなと。いまは生産にあたっての問題点にあたっている段階ですね。
――最後に今後の展望を教えてください。
河野辺 これ以上カテゴリーを拡大しても手に負えなくなってしまうので、ここまでのラインナップをいかにブラッシュアップしていくかを考えています。そのためにも、RSRの思想をもっと浸透させていきたいし、海外にももっと展開していきたいですね。源流釣りの分野は、まだまだデザインの余地があると思うんです。
※執筆:Geared(Facebookページ)
○関連記事(ギアード)
100マイルレースでも街でも使える ANSWER4 のプロダクト
geared (ギアード)