Infoseek 楽天

トランプ政権下、日米同盟は本当に生き残れるか

ニューズウィーク日本版 2017年3月3日 19時30分

<同盟国との関係を軽視するトランプに対して、日本側は首脳会談で信頼関係を構築しようとしたが>

懸念、憂慮、不安、当惑。日米首脳会談を前に、トランプ政権の外交姿勢と、その意味を理解しようとする日本の政府当局者や専門家は、一様にこんな言葉を口にしていた。

彼らが懸念していたのは、大統領選中のドナルド・トランプの発言だ。彼は他国との同盟を過小評価し、日本をたたいた。だが、そもそもトランプは日米同盟の価値を理解しているのだろうか。

全てを取引と捉えるトランプのやり方も不安材料だ。経済・貿易問題を安全保障と結び付け、日米同盟を人質に取ってアメリカの関与への信頼を危うくするかもしれない。

「アメリカ第一」の意味についても懸念がある。特に、アジア太平洋地域へのアメリカの関与と指導力と存在感が続くかどうかも心配なところだ。

国際秩序に対する責任や、世界の繁栄と安定を長く支えてきたルール、すなわち中国の台頭を抑制する上で欠かせない取り組みを、アメリカが放棄する恐れもある。アメリカの後退で生じた空白を埋めようと中国が進出することも懸念される。

不確実性と、それが日米同盟に及ぼす影響も懸念の的だ。同盟には協力と安心をもたらすために明確な相互理解が必要であり、そこにはアメリカの「核の傘」が提供する拡大抑止力も欠かせない。また大統領令による政策決定ではなく、共通の敵を抑止するために明白なメッセージを送る必要もある。

トランプの常軌を逸した外交に触れた日本の当局者は、不安だらけだったろう。トランプは「一つの中国」政策を放棄すると脅し、オーストラリア首相との電話会談を「最悪」と言い放った。

【参考記事】日米首脳会談、異例の厚遇は「公私混同」なのか?

だが日本の選択肢は、うまくいくように努力することしかない。アメリカとの同盟は、日本が最大の脅威と見なす強引な中国の台頭に対するとりでだ。一方、日本にとって最も恐ろしいのは、アメリカが中国と手を結び、日本を放り出すことだ。

トランプの対中姿勢はまだ明らかではない。その一方、経済問題に関するトランプの攻撃的な姿勢と当初のタカ派ぶりは、中国の主張を退けるアメリカの試みに日米同盟がそれなりの役割を果たし続けるという希望と安心を、日本に与えた。

今のところ、日本の公式なムードは慎重な楽観主義だ。その背後にあるのは、安倍晋三首相がトランプと個人的関係を築いてトランプの反日的見解を克服し、日本の官僚が事実とデータでトランプに同盟の価値を理解させられるだろうという期待だ。

より大きな日本の懸念

先頃訪日したジェームズ・マティス国防長官は、日米同盟におけるアメリカの責任と、日米安保条約の尖閣諸島への適用を確認した。だが、これは出発点でしかない。多くの日本人はマティスが本当にトランプの意見を代弁しているかどうかを疑問視しているため、日米首脳会談の重要性はさらに高まった。



日本は首脳会談を前に、トランプの性格と世界観を慎重に研究していた。TPP(環太平洋経済連携協定)は「終わった」という現実をしっかりと受け止め、2国間の経済に関する提案、特にインフラに関するトランプ自身の課題とかみ合う相互的な提案を考えていた。

日本は、トランプが在日米軍駐留経費の負担増加を要求することを覚悟し、新型兵器システムへの協力で応じるつもりだった。さらに、アメリカが日米同盟から得ている恩恵をトランプに提示しようとしていた。

だが同盟という概念自体を疑い、何も得るものがないと考える政権にとって、データが説得力を持つとは思えない。この政権にとって、「事実」すら意味を持たない。仮に個人的な絆ができても、同盟国を安心させて、敵を抑え込むために予測不可能な行動を取るような政権との同盟には、本当の危険が伴う。

しかし、こうした逆風にもかかわらず、日本の試みはうまくいく可能性がある。今のところ、安倍はトランプと個人的関係を確立できたようだ。

トランプ政権は中国に対処するためには強靱な日米同盟を必要とすることを理解し、同盟から得るものが多いことに気付くかもしれない。それはアメリカにとって良いことだ。

しかし日本政府内で問われているのは、単に特定のアメリカの政策や取り組みではない。そもそも日米同盟とは何なのか、それはいつまで継続するのか、という点だ。アメリカは、過去70年間のような世界のリーダーを続けるのか。安定を支える力、ルールの提唱者であり続けるのか。味方が頼りにし、敵が恐れる頑強で安定した指導者であり続けるのか。

【参考記事】トランプ、米国防費「歴史的増強」の財源はどこにあるのか

アメリカが手を引けば

安倍は15年に米議会で行った演説で、日米同盟を「希望の同盟」と呼び、「法の支配、人権、そして自由を尊ぶ、価値観を共にする結び付き」であると位置付けた。

このような広義の戦略的ビジョンは、アジアから撤退し、国際秩序を揺るがし、国際社会を形成するルールに基づくアプローチを無視するトランプの外交政策と相いれないようだ。

だが、もっと狭義の同盟であれば、トランプの外交政策の乱気流を避けられるだろうか。狭義の日米同盟は、アメリカがアジアで直面する難題に対処するのに十分と言えるのか。

アメリカは日本がアジアでより大きな役割を担うよう、かなりの努力をしてきた。だが日本の役割はまだアメリカの外交関係の基盤に依存している。北朝鮮の核ミサイル計画による脅威に対処するために、アメリカには強い日韓関係が必要だ。

中国に国際ルールを守らせるため、アメリカは地域の強固な制度を必要とする。中国の南シナ海での強硬姿勢を阻止する同盟や相互関係を強化せねばならない。さらに、強硬な中国に抵抗する国々の立場を向上させるため、アメリカはアジアの他の主要国との関係を強化する必要がある。もしもアメリカが手を引いたら、こうした取り組みはどうなるのだろう。

日本政府がこの大きな疑問を完全に消化していたかどうか、また短期的戦略が失敗した場合の代案を用意しているかどうかは分からない。万が一アメリカが撤退するなら、残された空白を埋めることに全面的に努力し、アジアでより大きな指導力を発揮できるか。またそれが、特に中国と韓国に対して何を意味するかを完全に検討したとは言い難い。

今回の日米首脳会談が「成功」したと評価されても、それは日米同盟がトランプのむちゃくちゃな外交政策の影響を受けないという意味ではない。本当の試練は、まだ先だ。

[2017年2月21日号掲載]

From Foreign Policy Magazine

ローラ・ローゼンバーガー(元NSC中国・朝鮮半島担当部長)

この記事の関連ニュース