<北朝鮮からの石炭輸入の停止措置は、トランプ政権に探りを入れる手段にすぎない>
中国政府が2月中旬、北朝鮮からの石炭輸入を今年末まで停止すると高らかに宣言した。中国は北朝鮮産石炭の「お得意様」。昨年は2250万トンを輸入し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権に12億ドル近い現金収入をもたらした。北朝鮮の輸出全体を見ても、中国への依存度は90%に近い。
国連安全保障理事会による再三の制裁決議を無視して核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して、国際社会は圧力を強めてきた。今回の声明は、中国がついに国際社会に同調する動きを示した画期的な出来事のように見えるかもしれない。
だが現実には、そこまでの話ではない。中国が挑発的な北朝鮮を「抑制」しようとしていると称賛する前に、慎重に検討すべきことがある。
第1に、声明の内容は目新しいものではない。中国は北朝鮮制裁に自分たちも参加しているとトランプ米政権や国際社会に思わせるため、ちょっと派手な芝居を打っただけだ。
実際、石炭輸入停止は、前からある合意の表紙を変えただけ。昨年9月に北朝鮮が5度目の核実験を行った後、中国は北朝鮮からの石炭などの輸入制限強化という国連安保理の新たな制裁決議に同意していた。つまり大きく譲歩したのではなく、決議に従ったという話にすぎない。
【参考記事】北朝鮮外務次官訪中を読み解く――北朝鮮の狙いと中国の思惑
第2に、中国は石炭輸入を「禁止」すると言ったわけではなく、今年いっぱい凍結、つまり「一時的に停止」すると言っただけだ。
第3に、中国が制裁を本当に履行するのか、履行の有無をどう確認するのかという疑問がある。今までも中国の制裁は手ぬるく、国際社会が履行状況を確かめる手だてもほとんどない。
注意が必要なのは、中国は鉄や燃料や食料など5億ドル相当の「国民生活に不可欠な援助品」にまで手を付けるつもりはない点だ。昨年の中国の対北朝鮮輸出額は約30億ドルで、代金の大半は不良債権として処理された。
こうした背景を理解した上で、なぜ中国が北朝鮮を公然と批判するのかを考えることが重要だ。中国政府は当然、北朝鮮が安保理決議を無視して核開発を続けることに不満と憤りを感じている。北朝鮮の非核化への支持を明らかにもしている。北朝鮮が核・ミサイル実験を行うたびに、中国は制御能力を疑われて面目丸つぶれだ。
「ポスト朴槿恵」対策も
だが中国にとってもっと重要なのは北朝鮮の核実験が、アメリカとその同盟国である日韓にTHAAD(高高度防衛ミサイル)やミサイル防衛といった強力な抑止政策を取る動機を与えていること。日米韓の協力強化は、中国の戦略的利益に反する。
石炭の輸入停止措置は、金正男(キム・ジョンナム)の暗殺を許すという、中国の失態の直後に出された。
金正男は過去10年ほど、中国当局の庇護下にあるような状態で、マカオを生活の拠点としていた。北朝鮮の工作機関が画策した可能性の高い今回の暗殺事件は、中国の顔に泥を塗った。
とはいえ、中国にすれば北朝鮮へのメッセージは二の次。北朝鮮問題に「本気で」取り組む意思があるそぶりをアメリカに見せることこそが最重要課題だ。
【参考記事】韓国THAAD配備に反発、中国が韓国旅行商品の販売停止へ
ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発を可能にしている中国を批判。北朝鮮への影響力を行使するよう圧力をかけていく方針だ。そのほか中国との貿易不均衡や南シナ海問題などについても、大げさなコメントを連発している。
中国が取引をしようと考えている相手はトランプだ。石炭輸入禁止のような「ガス抜き」で様子をうかがっているのだろう。
韓国の政局混乱もある。中国はこれを好機と捉え、北朝鮮問題に積極的に関与することを示して「ポスト朴槿恵(パク・クネ)」の指導者に好印象を与えようとしている。さらに、可能性は低いものの、韓国の次期政権がTHAADの配備を延期または中止することを願っている。
今回の制裁措置への取り組みは朗報ではある。それでも、中国の対北朝鮮政策について幻想を抱くべきではない。
[2017年3月7日号掲載]
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会研究員)
中国政府が2月中旬、北朝鮮からの石炭輸入を今年末まで停止すると高らかに宣言した。中国は北朝鮮産石炭の「お得意様」。昨年は2250万トンを輸入し、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権に12億ドル近い現金収入をもたらした。北朝鮮の輸出全体を見ても、中国への依存度は90%に近い。
国連安全保障理事会による再三の制裁決議を無視して核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して、国際社会は圧力を強めてきた。今回の声明は、中国がついに国際社会に同調する動きを示した画期的な出来事のように見えるかもしれない。
だが現実には、そこまでの話ではない。中国が挑発的な北朝鮮を「抑制」しようとしていると称賛する前に、慎重に検討すべきことがある。
第1に、声明の内容は目新しいものではない。中国は北朝鮮制裁に自分たちも参加しているとトランプ米政権や国際社会に思わせるため、ちょっと派手な芝居を打っただけだ。
実際、石炭輸入停止は、前からある合意の表紙を変えただけ。昨年9月に北朝鮮が5度目の核実験を行った後、中国は北朝鮮からの石炭などの輸入制限強化という国連安保理の新たな制裁決議に同意していた。つまり大きく譲歩したのではなく、決議に従ったという話にすぎない。
【参考記事】北朝鮮外務次官訪中を読み解く――北朝鮮の狙いと中国の思惑
第2に、中国は石炭輸入を「禁止」すると言ったわけではなく、今年いっぱい凍結、つまり「一時的に停止」すると言っただけだ。
第3に、中国が制裁を本当に履行するのか、履行の有無をどう確認するのかという疑問がある。今までも中国の制裁は手ぬるく、国際社会が履行状況を確かめる手だてもほとんどない。
注意が必要なのは、中国は鉄や燃料や食料など5億ドル相当の「国民生活に不可欠な援助品」にまで手を付けるつもりはない点だ。昨年の中国の対北朝鮮輸出額は約30億ドルで、代金の大半は不良債権として処理された。
こうした背景を理解した上で、なぜ中国が北朝鮮を公然と批判するのかを考えることが重要だ。中国政府は当然、北朝鮮が安保理決議を無視して核開発を続けることに不満と憤りを感じている。北朝鮮の非核化への支持を明らかにもしている。北朝鮮が核・ミサイル実験を行うたびに、中国は制御能力を疑われて面目丸つぶれだ。
「ポスト朴槿恵」対策も
だが中国にとってもっと重要なのは北朝鮮の核実験が、アメリカとその同盟国である日韓にTHAAD(高高度防衛ミサイル)やミサイル防衛といった強力な抑止政策を取る動機を与えていること。日米韓の協力強化は、中国の戦略的利益に反する。
石炭の輸入停止措置は、金正男(キム・ジョンナム)の暗殺を許すという、中国の失態の直後に出された。
金正男は過去10年ほど、中国当局の庇護下にあるような状態で、マカオを生活の拠点としていた。北朝鮮の工作機関が画策した可能性の高い今回の暗殺事件は、中国の顔に泥を塗った。
とはいえ、中国にすれば北朝鮮へのメッセージは二の次。北朝鮮問題に「本気で」取り組む意思があるそぶりをアメリカに見せることこそが最重要課題だ。
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ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮の核・ミサイル開発を可能にしている中国を批判。北朝鮮への影響力を行使するよう圧力をかけていく方針だ。そのほか中国との貿易不均衡や南シナ海問題などについても、大げさなコメントを連発している。
中国が取引をしようと考えている相手はトランプだ。石炭輸入禁止のような「ガス抜き」で様子をうかがっているのだろう。
韓国の政局混乱もある。中国はこれを好機と捉え、北朝鮮問題に積極的に関与することを示して「ポスト朴槿恵(パク・クネ)」の指導者に好印象を与えようとしている。さらに、可能性は低いものの、韓国の次期政権がTHAADの配備を延期または中止することを願っている。
今回の制裁措置への取り組みは朗報ではある。それでも、中国の対北朝鮮政策について幻想を抱くべきではない。
[2017年3月7日号掲載]
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会研究員)