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「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治

ニューズウィーク日本版 2017年3月6日 22時40分

<また出た?トランプのオルタナ・ファクト(デマ)。証拠もなく人に罪を着せて自らの醜聞から目を逸らさせようとするのはいつものパターン>

ドナルド・トランプ米大統領は先週末、またも驚くべき爆弾発言をした。大統領選挙の期間中に、バラク・オバマ前大統領が情報機関に命じてトランプの電話を盗聴させた、と言うのだ。根拠らしい根拠は示しておらず、オバマ政権下の情報機関トップは、ホワイトハウスがトランプタワーの盗聴を命令したとするトランプの主張を完全否定した。野党の民主党からは批判が集中し、身内である多くの共和党からも疑問の声が上がった。

【参考記事】トランプの「嘘」まとめ第2弾(テロ、世論調査、殺人ほか)

ショーン・スパイサー大統領報道官は、トランプの主張に関して政権はコメントを出さないと述べる一方、「2016年に行政府による調査権限の乱用があったかどうかについて、議会が監督権限を行使する」ことを求め、下院情報問題常設特別調査委員会(下院情報特別委員会)のデビン・ヌネス委員長(共和党)も米議会による調査を求めた。

オバマ政権で情報機関トップの国家情報長官を6年間務めたジェームズ・クラッパーは5日、米NBCテレビのインタビューで、もし外国情報監視法(FISA)に基づきロシアとトランプ陣営との関係を盗聴をせよという命令があれば自分にも知らされたはず。だがそんな命令は「一切なかった」と言った。「こんな騒ぎになった以上、真偽を突きとめるべきだろう。アメリカを分断させる努力が成功して、ロシアは今ごろ喜んでいるに違いない」

【参考記事】「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか

オバマの広報担当者ケビン・ルイスも声明を発表した。「オバマ前大統領もホワイトハウスの職員も、アメリカ市民に対する監視を命じたことはない。それ以外のすべての主張はウソだ」

オバマの副補佐官を務めたベン・ローズも、「どんな大統領も盗聴の命令を出せない」と反論した。

「最高"撹乱"司令官」

スパイサーは5日、ツイッターで「2016年の大統領選直前に、政治的な動機に基づく調査が行われた可能性を示す複数の報道がある。これは非常に問題だ」と投稿し、議会の調査を求めるトランプを擁護した。だがその報道はトランプのツイッターに引用されているだけ。一部メディアによれば、保守系ラジオ番組の司会者マーク・レビンの発言を紹介した保守系ニュースサイト「ブライトバート」の3日の記事を引用したものである可能性があるが、その主張にも根拠はない。

【参考記事】CIAを敵に回せばトランプも危ない

それでもヌネスはトランプの要求に一定の理解を示す。「当委員会の主眼は、大統領選中にロシアの情報機関が行った介入に対する米政府の対応だ。その一環として、政府が政党の選挙活動に対する監視活動を行ったかどうかも調査する。もし確かな証拠が認められれば、この問題に関する調査を継続する」

民主党は、ナンシー・ペロシ下院院内総務がトランプを「最高"撹乱"責任者」と呼ぶなどカンカンだ。



「合衆国大統領がこんな扇動的な告発をするなんて、根拠がないし破壊的ですらある。アメリカの民主主義の信用を失わせる」と、下院情報特別委員会のアダム・シフ(民主党)は言う。「数百万人の不法移民が違法に投票したせいで自分は得票数で負けたとか、オバマ前大統領はアメリカ生まれではないなど、これまでもウソを重ねてきた大統領のことだ。今回の批判もまた目くらましで、歪曲で、露骨なでっち上げという憂慮すべきパターンだろう」

レオン・パネッタ元CIA(米中央情報局)長官は、トランプの動機は明らかだと言う。「歴代の大統領が犯してきたのと同じ過ちを犯している。醜聞に見舞われると、注目をよそに逸らそうとする。うやむやにして、なかったことにしようとする。そのために何とかして他の問題を作り出す。だが最後に勝るのは真実であってツイートではない」

身内の共和党のベン・サッセ上院議員も、超党派の団結を呼びかける。「われわれは、ひとつの文明を台無しにするほどの信用の危機のただ中にいる。大統領の今回の主張は、本物の愛国者が慎重かつ冷静に検討する必要がある。市民の信頼と健全な社会を取り戻すためには、党派的な反応を超えて、真実を追求しなければならない。


ニコラス・ロフレド

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