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大統領発のフェイクニュースは、スルーした方がいい - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年3月7日 18時0分

<アメリカメディアは「オバマ盗聴」という大統領発のフェイクニュースで大騒ぎになっているが、この種の「ネタ」は小さく扱うかスルーするのが得策>

今週6日の午前中にトランプ大統領は、「入国禁止措置第二弾」の大統領令に署名しました。連邦控訴審により違法と認定された「第一弾」を改訂し、入国禁止対象を7カ国からイラクを除外した6カ国とする一方で、永住権やビザの保有者の入国は認めるという内容です。

このニュースは事前に予告されていたこともあり、当然週明けのこの日の朝のニュースでは、大きく扱われると思っていたのですが、実際は違いました。テレビ各局をはじめ、新聞のニューヨーク・タイムズ(紙版)でもトップ扱いは別のニュースでした。

週末にトランプ大統領がツイートした「オバマ前大統領が、選挙期間中にトランプタワーの電話を盗聴していた」という話題が優先されたからです。大統領は土曜日の早朝からこの件について何度もツイートしており、その中で大統領は「これはマッカーシズム(赤狩り)だ!」とか「ニクソンのウォーターゲート事件の再現だ」あるいは「(オバマは)悪人だ」などと吠えていました。

【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治

この問題に関しては名指しされたオバマ前大統領が即座に否定したばかりか、わざわざトランプ大統領が「留任」させたコミーFBI長官も、その場で否定しています。それにもかかわらず大統領はツイートを繰り返していました。そして、大統領は何の証拠も示していません。

現在のアメリカでは、前回の大統領選以来「フェイクニュース」というのが深刻な社会問題になっていますが、他でもないトランプ大統領自身が、まさに「フェイクニュース」の発信元になっているわけです。その関連で言えば、トランプ大統領は、これは2016年より以前の話ですが「オバマはアメリカ生まれではないので大統領になる資格がない」という「ネタ」を何年も何年も主張し続けていました。

このニュースを、各メディアは大きく扱っています。6日のニューヨーク・タイムズでは、「陰謀説の長い旅、(保守系)ラジオDJから大統領執務室へ」という皮肉たっぷりのタイトルをつけた記事で「事件」の詳細を報じていました。この記事によれば、4日の土曜の昼頃になって「これ以上、大統領が根拠のないツイートを続けると法的なダメージになる」と判断した側近が、大統領を説得してやめさせたという生々しい記述まで出ていました。



一方で、テレビの方では、6日の朝はホワイトハウスの副報道官である、サラ・ハッカビー=サンダース氏(マイク・ハッカビー大統領候補の長女)が出てきてホワイトハウスの立場を代弁していました。彼女は、三大ネットワークを掛け持ちで出演しており、例えばABCのジョージ・ステファノポロスや、NBCのレスター・ホルトなど大物ジャーナリストの追及を必死になって「かわして」いたのです。

その様子について、ワシントン・ポスト(電子版)でダナ・ミルバンク記者は「ホワイトハウスの側としては、何の根拠も示すことができない」中で、ハッカビー=サンダース氏としては、「とにかく大統領が固く真実だと信じているので」ということを「繰り返すしかなかった」と厳しく批判しています。

ただ、私の見ていたNBCの番組ではハッカビー=サンダース氏は、常にニコニコした表情でしたから、「大統領が何の証拠もないことを喋ってしまって、危機管理が必要な事態」という認識ではなさそうでした。むしろ「大統領を信じないというのは完全なポジショントークだし、信じるというのも一種のポジショントーク」というような理解の中で、特に大統領の発言が「悪いこと」だという認識はなさそうに見えました。

また、この日の午後にハッカビー=サンダース氏の上司にあたるショーン・スパイサー報道官は、いつもの定例会見に臨んで、どういうわけかカメラを追放し「音声のみ」の会見とした上で「(オバマ政権が)何かを行っていたのは明白だ」と大統領を擁護しつつ、具体的には内容を曖昧にしたコメントを述べています。

それにしても、この大統領の連続ツイート騒動のおかげで、この日の朝の各メディアは、もっと重要な「第二次入国禁止令」の署名直前の状況に関する報道は小さな扱いになってしまいました。

【参考記事】トランプ施政方針演説、依然として見えない政策の中身

とにかく、現職のアメリカ大統領が土曜日の早朝にいきなり連続ツイートを始める、しかもその内容は「全く根拠のないもの」というのは前代未聞です。しかしこうした事態に、メディアはどう対処するべきか、という疑問が生じます。常識的なのは徹底して批判するという手法です。今回も結果的にはそうでしたが、これが最善だったのでしょうか?

そうではないと思います。まずファクトチェックの結果を並べて論破し、徹底批判を加えても、その内容が「強い主張」であればあるほど、大統領の支持者は「強いポジショントークで攻撃された」ことで、かえって大統領の発言を信じてしまうか、少なくともメディアの批判的な論調に反発してしまうという問題があります。

またどんなに根拠のない話でも、そしてその扱いが批判的な紹介になっていても、時事問題に詳しくない視聴者などは、騙されて信じてしまうということもあるでしょう。さらに、この日の場合が典型的なのですが、より重要なはずのニュースがきちんと報じられなかったという問題もあるように思います。

そう考えると、この種の話題に関しては、扱いを小さくするとか、スルーするという選択もあるのではないでしょうか。ちなみに、日本での報道は扱いが小さかったようですが、事態を距離を置いて見ることができていることの証明であり、良いことだと思います。

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