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ブレグジットの不安は「わび・さび」が解消? 2017年流行語の声も

ニューズウィーク日本版 2017年3月13日 15時15分

2016年は、デンマーク語の「Hygge」(ヒュッゲ)というコンセプトが、英国を中心に英語圏で流行した。2017年は、「Wabi-sabi」、つまり日本の「わび(侘び)・さび(寂び)」が流行語になりそうだという。

「わび・さび」がヒュッゲに続くバズワードに?

ことの発端は、USウィークリーが掲載したジェシカ・アルバさんのインタビューだ。女優、母親、そして実業家とさまざまな顔を持つアルバさんが、多忙な日々をやりくりするのに手助けとなっているのが、「わび・さびという、日本の哲学」と発言したことで話題となった。この時アルバさんはわび・さびを、「日常生活における不完全さを受け入れ楽しむこと」と説明していた。

これを受けてデイリーメールは、「2016年のヒュッゲに続く2017年のバズワードはわび・さびだ」と取り上げ、わび・さびの関連書籍から引用してわび・さびの意味を詳しく説明した。ヒュッゲは日本語で「居心地のよさ」と訳されるデンマークの言葉だが、今や英語の辞書にも載っているほど、英語圏、特に英国で市民権を得た言葉だ。例えばケンブリッジ英英辞書は、「キャンドルに火を灯したり、パンを焼いたり、自宅で家族と過ごすなどシンプルな時間の過ごし方で感じる温かさや心地よさ、安全だという感覚」だと説明している。

英国では2016年、こうした暮らし方が大きく注目された。しかし次に流行るのは、わび・さびに沿った暮らしだというのだ。

わび・さびって実際、何?

実は「わび・さび」は欧米でもそこまで目新しいコンセプトではない。2011年にフォーブスはすでに、ツイッターの創業者であり最高経営責任者のジャック・ドーシー氏がわび・さびに傾倒していると伝えていたし、オックスフォード辞書にはwabiという言葉が掲載されている。

しかし日本人でも、感覚としては理解しているが、実際に「わび・さびとはどういう意味なのか」と聞かれたら、言葉で説明するのは難しい、という人が多いのではないだろうか。

デイリーメールは、「侘び」は「less is more:少ない方が豊かである」という考え方で、「寂び」は「哀愁に心を傾けること」と説明。そして「わび・さび」は、「自然のままの、完璧でない美しさの価値を理解すること」だと説明している。



日本国語大辞典では、侘びを「簡素の中にある落ち着いたさびしい感じ」と、寂は「古びて枯れたあじわいのあること」や「閑寂な趣のあること」などと説明している。

「わび・さびはたわ言」

しかしテレグラフは、「わび・さびなんてたわ言」だと主張する声を掲載した。著者のマイケル・ホーガン氏は記事の中で、わび・さびの信奉者がジェシカ・アルバさんやブラック・アイド・ピーズのラッパー、ウィル・アイ・アムさん、そしてジャック・ドーシー氏と「簡素な生活」とは無縁そうな金持ちばかりであることを指摘。「既存の哲学を再び綺麗にパッケージして、21世紀が抱える問題の解毒剤として売り込んでいるだけ」と主張している。

さらに、「ヒュッゲの次に来るのはlagom(ラーゴム)じゃなかったのか?」と疑問を呈した。というのも、今年1月の時点で女性誌のエルやヴォーグなどがこぞって「ヒュッゲの次はラーゴム」と取り上げていたのだ。ラーゴムは「ちょうどいい」を意味するスウェーデン語だ。

ホーガン氏は、英国人はどうやらブレグジットのこの時期に、芝生がより青く見える外国の文化から、「いかに生きるか」の指針を見出そうとしているようだ、と指摘。ヒュッゲもラーゴムもわび・さびも、果ては数年前から英米で大流行している近藤麻理恵氏のお片付け術も、すべてもっと物を買わせようとしているだけの無駄なものだ、と一蹴している。

【参考記事】こんまりの魔法に見る「生と死」

わび・さびと失業手当の関係

デイリーメールとテレグラフの読者コメント欄には、ホーガン氏と同じく「金持ちが簡素な生活とか言っても説得力ない」という意見が目立つ。「英国で侘び寂びに相当するものといえば失業手当」と言った声や、「デンマークでは外食が高価だから自宅で飲んで時間を過ごすヒュッゲという考えが生まれただけ。英国も最近は外飲みが高くつくからヒュッゲが流行ったというだけ」と言った指摘などもあった。

日本大百科全書には、わびは「貧粗・不足のなかに心の充足をみいだそうとする意識」とある。つまり「英国でわび・さびに相当するのは失業手当」という冗談も、あながち的外れな話ではないかもしれない。ブレグジット後の英国経済によっては、わび・さびを楽しむ心の余裕がもっと必要になる日が来るのだろうか。





松丸さとみ

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