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アマル・クルーニー、ISISの裁きを国連に訴え 「第二のルワンダにしないで」

ニューズウィーク日本版 2017年3月15日 17時15分

人権派弁護士であり、ハリウッド俳優ジョージ・クルーニー氏の妻でもあるアマル・クルーニー氏がこのほど、テロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)の蛮行に対し国連が早く手を打つよう訴えるため、ニューヨークの国連本部で演説を行った。

「何もなされていない」

クルーニー氏は、ISISによる迫害の被害者であるクルド系少数派ヤジディ教徒たちの代理人として活動している。被害者の1人ナディア・ムラド・バセ・タハさんが2016年9月に国連の親善大使に就任した際にも演説したクルーニー氏は、この日再び演台に立ち、半年経った今もISISに対し「何もなされていない」と苛立ちを隠さなかった。

ヤジディ教徒は主にイラク北部に暮らすクルド系少数派で、ゾロアスター教やキリスト教、イスラム教などの要素が融合した、古くから中東地域に根付いている宗教を信仰する人たちだ。ISISを含め一部から「悪魔崇拝」とみなされ、迫害の対象となってきた。

【参考記事】クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

イラク首相に直接呼びかけ

国連は昨年6月、ISISによるヤジディ教徒の迫害がジェノサイド(大虐殺)であると結論づけた報告書を公表しているが、クルーニー氏は、「ISISの誰1人として、裁きを受けていない」と指摘する。

インディペンデントが全文掲載した演説によると、クルーニー氏が求めているのは、ISISが正当に裁かれることだ。ジハーディ・ジョンとして知られた男モハメド・エンワジ容疑者が米軍の空爆で殺害されたことに触れ、エンワジ容疑者に殺された犠牲者の遺族らは、容疑者が殺されることではなく法廷で裁かれる姿を見たかったのだと遺族の思いを代弁した。

ISISを裁くにあたりクルーニー氏が具体的に求めているのは、国連に調査を依頼する書簡をイラクが提出することで、この日の演説では、イラクのアバディ首相を名指しして呼びかけた。



クルーニー氏は演説に先立ちBBCのインタビューに応えており、どうすればISを裁けると思うか、という問いに「証拠を集めること」だと答えていた。テレグラフなどが2月下旬に報じていた、4000人あまりが葬られていたとみられる、イラクのモスルで発見された集団墓地に言及し、こうした場所で証拠が保護されず放置されていることに危機感を訴えていた。



脅迫は今も続く

クルーニー氏はまた演説の中で、ナディアさんの家族が今もISISに拘束されており、ナディアさん自身もISISから脅されている恐怖を明らかにした。ISIS戦闘員は自分たちの電話番号を隠しもせずに、ナディアさんに脅しをかけるメールを直接送ってくるのだという。クルーニー氏は、誰も捜査していないと分かっているからこそこのような行動に出ていると指摘している。

またデイリーメールによると、ナディアさん自身もこの日国連でインタビューに応じ、何カ月も身柄を拘束されレイプされ続けた悲惨な体験を語った。さらに、昨年親善大使に就任したことで自らの家族を危険にさらし、ISISに脅かされ続けていると告白。ISISに裁きを受けさせるために「なぜここまで長くかかっているのか理解できない」と訴えた。

大虐殺の悲劇を繰り返すな

クルーニー氏は演説で、国連が設立されたのはナチスが犯した罪を2度と繰り返さないためだったにもかかわらず、今まさに起こっているジェノサイドに対して何もしていないと指摘。国連がほぼ何もできなかったルワンダを繰り返してはいけない、ジェノサイドを犯したISISをそのまま逃してはいけない、と呼びかけて演説を終えた。

ルワンダ虐殺は、1994年4月7日に始まった。このため国連はこの日を、「ルワンダにおけるジェノサイドを考える国際デー」と定めている。今年のこの記念日まであと1カ月足らず。クルーニー氏の声は、アバディ首相やその他世界の指導者たちの心に届くのだろうか。


松丸さとみ

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