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外国人労働者に矛先を向ける「金満国家」サウジアラビアの経済苦境

ニューズウィーク日本版 2017年3月16日 18時30分

<日本ではサウジ国王の訪問団の常識外れの金満ぶりが話題になっているが、サウジ国内では経済状況の悪化が進み、これまで労働の主力だった外国人労働者に対する締め付けが厳しくなっている>

今週12日、サウジアラビアのサルマン国王が1500人と言われる随行員とともに来日した。今回の来日はアジア諸国を歴訪する「アジア行脚」の一環だが、サウジアラビアの国王が来日するのは実に46年ぶりのことだという。

サウジアラビアと聞いてまず頭に浮かぶのは、「オイルマネー」ではないだろうか。事実、メディアでは、サルマン国王がタラップから特設エレベーターで降りてくる姿から始まり、随行員らが秋葉原で買い物をする様子などその金満ぶりを報じていた。

御一行はとにかく羽振りが良さそうで、日本の女性向けネットサイトでは「玉の輿速報」というくくりで、アラブの石油王を惹きつける方法を伝えるものもできているくらいだ。

【参考記事】サウジ国王御一行様、インドネシアの「特需」は70億ドル超

石油関連の収入が激減

そんなサウジアラビアだが、実は国内に目をやれば、日本で優雅に豪遊している場合ではない、厳しい現実がある。何より経済の見通しが芳しくない。

まず経済統計を見れば、その深刻さがわかる。最たる原因は、世界的な原油価格の下落だ。サウジアラビアは国家財政の9割を石油の製造や輸出に依存しているが、2014年からは、アメリカのシェールガス革命などに対抗するために生産量を増やして原油価格を意図的に低く抑えていたために、原油価格が半分ほどに落ち込んでいる。価格は、一時期に比べて多少盛り返しているが、とにかく原油からの収入は大きく減少している。

昨年12月、OPEC(石油輸出国機構)などが石油生産量カットに合意したこともあり、今年には石油からの収入は47%ほど増えるという試算も出ている。だがそれも、アメリカのシェールガスの存在によってどう転ぶのか、先行きは不透明だ。



そんな背景から、サウジアラビアはムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を中心に、昨年4月から「ビジョン2030」を掲げ、経済の原油依存を減らし、民間部門の役割を高め、産業やサービス部門の競争力を高めることを目指している。アジア行脚も、サウジの経済改革という目的を達成するためのものだ。

また緊縮財政で公共事業を減らすなどの対策にも乗り出しているが、経済の見通しは明るくない。

外国人労働者に課税

筆者にはサウジアラビアのメディア企業で働くパキスタン人の知人がいる。最近、その知人とのやりとりで、サウジ国内の窮状について聞かされたばかりだ。サウジでは外国人労働者をめぐる状況の悪化が深刻になりつつあり、サウジ国外で仕事を探そうとしていると嘆いていた。

と言うのも、サウジ政府は経済停滞への対策として外国人労働者に矛先を向け始めていて、今年7月から外国人を標的にした課税を導入する予定でいる。サウジでは民間労働力の8割程を外国人が担っているが、彼らから金を徴収して財源とするだけでなく、政府としては国民の失業率が高まる中で国民を仕事に就かせたい思惑もある。

【参考記事】ソフトバンクと提携したサウジ副皇太子が握る王国の未来

政府はまず外国人労働者への100リアル(約27米ドル)課税を開始し、この課税措置によって10億リアルを獲得することになるという。また今後は企業に外国人が占める割合などによって外国人に対する課税額がどんどん増えていくことになる。

また政府の財政が逼迫していることで、企業に対する国の債務の未払いなども問題になっている。建築業では政府からの支払いが滞っていて、例えば建築最大手サウジ・ビンラディン・グループは、途上国からの労働者をすでに7万人も解雇している。今後、課税も行われれば、外国からの駐在員や労働者などの解雇が増えると見られている。

前述の知人は、「昼間は暑くて仕事にならないような国で、景気が悪くて外国人への税金を増やすというなら、もうこの国に残る理由はない」と嘆く。すでに知人の暮らすサウジ第2の都市ジッダでも、街中で賃貸住居の空き部屋が目立つようになっているという。

サルマン国王の1500人もの随行員が、訪問先の国々で何をするのかはよくわからないが、まずそのコスト感覚を見直すところから始めた方がいいだろう。

山田敏弘(ジャーナリスト)

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