<北朝鮮の核・ミサイル問題が差し迫るなか、来日して外相会談を行ったティラーソン米国務長官だったが、同行した記者はなぜか1人だけ>
知らなかった人もいるかもしれないが、レックス・ティラーソン米国務長官が3月15日に来日した。トランプ政権の外交を担う要人の初来日であり、北朝鮮の核・ミサイル問題が差し迫るなか、日中韓を歴訪する意義は大きい。16日に岸田文雄外相と会談したティラーソンは、17日に次の目的地ソウルへ向かう。
だが日本では、ティラーソン来日がさほど大きく報じられなかった。おそらく理由の一端は、安倍政権を直撃している「森友学園」問題にあるだろう。新聞でもテレビでも連日トップニュースの扱いだ。
一方、アメリカ側でも別の理由で、ティラーソンのアジア歴訪にあまり注目が集まっていない。その理由とは、報じる記者が"いない"ことだ。
実は今回の外遊に、記者は1人しか同行していない。スレートによれば通常、10人かそれ以上の記者が同行するのに、前代未聞の事態だ。
先週の時点では、同行記者団を帯同させない計画だと報じられていた。「0人」である。当然、米メディアは反発。結果的に記者を同行したわけだが、たった1人。ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は、経費節約のためだとティラーソンを擁護していたが、同行記者は料金を払うものだ。
となれば記者を帯同させない理由は、トランプ政権のメディアとの敵対姿勢にあると推測される。一部の主要メディアを「国民の敵」と呼ぶドナルド・トランプ大統領は、2月にはホワイトハウスの定例記者会見からCNNやニューヨーク・タイムズなどを締め出した。
その際はトランプ政権の方針に抗議するため、出席できたのに会見を欠席したメディアもあった。今回のアジア歴訪で、1社だけと知りつつ同行に同意したのは、一体どのメディアなのか。
インディペンデント・ジャーナル・レビューって何?
「インディペンデント・ジャーナル・レビュー(IJR)」というニュースサイトだ。ロサンゼルス・タイムズによれば、2012年の選挙で共和党全国上院委員会のメディアディレクターを務めたアレックス・スケーテルという人物が立ち上げた保守系のメディアである。
そのホワイトハウス特派員であるエリン・マックパイクが今回、ティラーソンの専用機に同乗している。マックパイクはCNNやNBCニュースなどでキャリアを積んでいるが、選挙報道を主に担当してきた記者だとロサンゼルス・タイムズは書く。外交を専門とする記者ではない。
出発直前の15日、米国務省の記者会見でマックパイクの独占取材について質問された広報官は、「米メディアのより幅広い代表」に機会を与えるためだと説明した。「新しい読者だ」「保守的な読者か? 友好的な読者か?」「新しい視点だ」――といったやり取りが記者との間であった。
しかし今回、マックパイクは取材内容を他のメディアと共有する「代表取材」の立場ですらない。その責務のない彼女が書く記事はおそらく、自身の所属するIJRにしか載らないだろう(日本時間16日23時現在、アジア歴訪の記事はまだ1本も同サイトに掲載されていない)。
仮に敵対的なメディアを排除したかったのだとしても、謎は深まるばかりだ。
トランプ政権の方針以前に、ティラーソン自身にもおそらく原因がある。彼はエクソンモービルCEO時代からメディア嫌いで、あまり取材を受けなかったとされる。国務長官就任後も、インタビューは一切受けていないし、外部への発信に消極的だ。
【参考記事】ロシア通の石油メジャーCEOがトランプの国務長官になったら外交止まる?
それも影響してか、仕事ぶりの評価は総じてよくない。
国務長官は通常なら最も重要な閣僚だが、ティラーソンは「立場が非常に弱い」「トランプの信頼を得ていない」「訪米した首脳との会談にほとんど同席していない」と、コロンビア大学のロバート・ジャービス教授はフォーリン・ポリシー誌に書く。
スレートによれば、外交政策への影響力はスティーブン・バノン、ジャレッド・クシュナー両上級顧問より下だ。さらには、国務省の予算が最大37%減らされるとも報じられている。
であれば、日中韓の当局者はこう思っているかもしれない。そんな国務長官と会談をしたところで、一体どれほどの意味があるのか。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
知らなかった人もいるかもしれないが、レックス・ティラーソン米国務長官が3月15日に来日した。トランプ政権の外交を担う要人の初来日であり、北朝鮮の核・ミサイル問題が差し迫るなか、日中韓を歴訪する意義は大きい。16日に岸田文雄外相と会談したティラーソンは、17日に次の目的地ソウルへ向かう。
だが日本では、ティラーソン来日がさほど大きく報じられなかった。おそらく理由の一端は、安倍政権を直撃している「森友学園」問題にあるだろう。新聞でもテレビでも連日トップニュースの扱いだ。
一方、アメリカ側でも別の理由で、ティラーソンのアジア歴訪にあまり注目が集まっていない。その理由とは、報じる記者が"いない"ことだ。
実は今回の外遊に、記者は1人しか同行していない。スレートによれば通常、10人かそれ以上の記者が同行するのに、前代未聞の事態だ。
先週の時点では、同行記者団を帯同させない計画だと報じられていた。「0人」である。当然、米メディアは反発。結果的に記者を同行したわけだが、たった1人。ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は、経費節約のためだとティラーソンを擁護していたが、同行記者は料金を払うものだ。
となれば記者を帯同させない理由は、トランプ政権のメディアとの敵対姿勢にあると推測される。一部の主要メディアを「国民の敵」と呼ぶドナルド・トランプ大統領は、2月にはホワイトハウスの定例記者会見からCNNやニューヨーク・タイムズなどを締め出した。
その際はトランプ政権の方針に抗議するため、出席できたのに会見を欠席したメディアもあった。今回のアジア歴訪で、1社だけと知りつつ同行に同意したのは、一体どのメディアなのか。
インディペンデント・ジャーナル・レビューって何?
「インディペンデント・ジャーナル・レビュー(IJR)」というニュースサイトだ。ロサンゼルス・タイムズによれば、2012年の選挙で共和党全国上院委員会のメディアディレクターを務めたアレックス・スケーテルという人物が立ち上げた保守系のメディアである。
そのホワイトハウス特派員であるエリン・マックパイクが今回、ティラーソンの専用機に同乗している。マックパイクはCNNやNBCニュースなどでキャリアを積んでいるが、選挙報道を主に担当してきた記者だとロサンゼルス・タイムズは書く。外交を専門とする記者ではない。
出発直前の15日、米国務省の記者会見でマックパイクの独占取材について質問された広報官は、「米メディアのより幅広い代表」に機会を与えるためだと説明した。「新しい読者だ」「保守的な読者か? 友好的な読者か?」「新しい視点だ」――といったやり取りが記者との間であった。
しかし今回、マックパイクは取材内容を他のメディアと共有する「代表取材」の立場ですらない。その責務のない彼女が書く記事はおそらく、自身の所属するIJRにしか載らないだろう(日本時間16日23時現在、アジア歴訪の記事はまだ1本も同サイトに掲載されていない)。
仮に敵対的なメディアを排除したかったのだとしても、謎は深まるばかりだ。
トランプ政権の方針以前に、ティラーソン自身にもおそらく原因がある。彼はエクソンモービルCEO時代からメディア嫌いで、あまり取材を受けなかったとされる。国務長官就任後も、インタビューは一切受けていないし、外部への発信に消極的だ。
【参考記事】ロシア通の石油メジャーCEOがトランプの国務長官になったら外交止まる?
それも影響してか、仕事ぶりの評価は総じてよくない。
国務長官は通常なら最も重要な閣僚だが、ティラーソンは「立場が非常に弱い」「トランプの信頼を得ていない」「訪米した首脳との会談にほとんど同席していない」と、コロンビア大学のロバート・ジャービス教授はフォーリン・ポリシー誌に書く。
スレートによれば、外交政策への影響力はスティーブン・バノン、ジャレッド・クシュナー両上級顧問より下だ。さらには、国務省の予算が最大37%減らされるとも報じられている。
であれば、日中韓の当局者はこう思っているかもしれない。そんな国務長官と会談をしたところで、一体どれほどの意味があるのか。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部