<ウィルダース率いる極右・自由党は勝てなかったが、今回の結果には中道左派の衰退などさまざまな意味が潜んでいる>
オランダで先週行われた総選挙は、欧州で勢いを増すポピュリズムが実際の選挙でどれだけ支持を得るかを測る試金石とみられていた。今回の選挙結果がオランダと欧州に意味するものは何なのか。次の4点を押さえておきたい。
ポピュリストは勝てなかったが、中道も勝てなかった
世界の関心は、反イスラム主義者で極右政治家のヘールト・ウィルダース率いる自由党がどこまで勢力を伸ばすかだった。自由党は世論調査での支持率も高く、第1党になると予想された時期もある。
だが結果は、前回12年の総選挙や14年の欧州議会選挙と同じく、優勢という前評判を覆すものだった。もっとも、選挙戦の終盤には失速しているのが見えたので、驚くことではない。
では、今回の選挙は中道の勝利なのか。そうとは言えそうにない。ルッテ首相率いる自由民主党は最多の議席を獲得したが、彼は選挙戦でウィルダースの主張を一部取り入れ、反移民寄りの政策を打ち出した。1月には、国の価値観に従わない移民に対し「出ていけ」という意見広告を新聞に掲載した。
3番手につけた中道右派のキリスト教民主勢力も「ライトなウィルダース」とも言える役割を演じた。
デンマークやオーストリアの政界のほか、反EUでブレグジット(英のEU離脱)を掲げるイギリス独立党の台頭が示すように、極右ポピュリストがその主張を通すには必ずしも政権の座に就く必要はないようだ。
【参考記事】オランダ極右党首に巨額献金する「トランプ一派」の思惑とは
中道左派の崩壊
今回の選挙で最も大きな変化は、労働党が38議席から9議席に減らして大敗したことだ。
悪条件が重なった。欧州で進む中道左派離れのあおりを受けた上に、連立与党内の少数派政党にありがちな政策上の譲歩によって従来の支持者を失った。
その恩恵を最も大きく受けたのは、10議席増の14議席を獲得した環境保護派政党のグリーン・レフトだ。これが次のポイントにつながる。
リベラル派の逆襲
上位政党の大半は選挙戦でリベラルな立場を取らなかったが、少なくない有権者が反ポピュリズム票を投じた。
グリーン・レフトを率いるのは、30歳のイケメン党首ジェシー・クラーベル。選挙戦はフランスのリベラル派大統領候補のエマニュエル・マクロンのように、活気に満ちた集会を中心に展開した。同党によれば、米大統領選でトランプが勝利すると、世界的な極右台頭への不安から党員が急増したという。
一方で進歩的リベラル派の「民主66」も19議席を獲得し、キリスト教民主勢力と共に3番手に並んだ。連立の一角を占める可能性が高い。
民主66の広報担当ショード・ショーズマは投票前に本誌に対し、どの政党と組むことになっても、人種・性別・性的指向を問わず「全てのオランダ人」のための政治を目指すと語った。こうした政党が右派にどのような影響を与えるのか、注視する必要がある。
【参考記事】欧米で過激な政党が台頭する本当の理由
高まる移民票の重要度
15年に創設された移民の政党デンクは、主にトルコ系有権者の支持を受けて健闘し、3議席を獲得した。
民族性をはっきりと打ち出した政治運動がまれなオランダでは、デンクは珍しい存在だ。創設したのは、中道左派の労働党を離党した2人の議員だ。
この比較的新しい政党の成功は、自由党などによる反移民の主張が人種的少数派を投票所に向かわせたことを意味する。
[2017.3.28号掲載]
ジョシュ・ロウ
オランダで先週行われた総選挙は、欧州で勢いを増すポピュリズムが実際の選挙でどれだけ支持を得るかを測る試金石とみられていた。今回の選挙結果がオランダと欧州に意味するものは何なのか。次の4点を押さえておきたい。
ポピュリストは勝てなかったが、中道も勝てなかった
世界の関心は、反イスラム主義者で極右政治家のヘールト・ウィルダース率いる自由党がどこまで勢力を伸ばすかだった。自由党は世論調査での支持率も高く、第1党になると予想された時期もある。
だが結果は、前回12年の総選挙や14年の欧州議会選挙と同じく、優勢という前評判を覆すものだった。もっとも、選挙戦の終盤には失速しているのが見えたので、驚くことではない。
では、今回の選挙は中道の勝利なのか。そうとは言えそうにない。ルッテ首相率いる自由民主党は最多の議席を獲得したが、彼は選挙戦でウィルダースの主張を一部取り入れ、反移民寄りの政策を打ち出した。1月には、国の価値観に従わない移民に対し「出ていけ」という意見広告を新聞に掲載した。
3番手につけた中道右派のキリスト教民主勢力も「ライトなウィルダース」とも言える役割を演じた。
デンマークやオーストリアの政界のほか、反EUでブレグジット(英のEU離脱)を掲げるイギリス独立党の台頭が示すように、極右ポピュリストがその主張を通すには必ずしも政権の座に就く必要はないようだ。
【参考記事】オランダ極右党首に巨額献金する「トランプ一派」の思惑とは
中道左派の崩壊
今回の選挙で最も大きな変化は、労働党が38議席から9議席に減らして大敗したことだ。
悪条件が重なった。欧州で進む中道左派離れのあおりを受けた上に、連立与党内の少数派政党にありがちな政策上の譲歩によって従来の支持者を失った。
その恩恵を最も大きく受けたのは、10議席増の14議席を獲得した環境保護派政党のグリーン・レフトだ。これが次のポイントにつながる。
リベラル派の逆襲
上位政党の大半は選挙戦でリベラルな立場を取らなかったが、少なくない有権者が反ポピュリズム票を投じた。
グリーン・レフトを率いるのは、30歳のイケメン党首ジェシー・クラーベル。選挙戦はフランスのリベラル派大統領候補のエマニュエル・マクロンのように、活気に満ちた集会を中心に展開した。同党によれば、米大統領選でトランプが勝利すると、世界的な極右台頭への不安から党員が急増したという。
一方で進歩的リベラル派の「民主66」も19議席を獲得し、キリスト教民主勢力と共に3番手に並んだ。連立の一角を占める可能性が高い。
民主66の広報担当ショード・ショーズマは投票前に本誌に対し、どの政党と組むことになっても、人種・性別・性的指向を問わず「全てのオランダ人」のための政治を目指すと語った。こうした政党が右派にどのような影響を与えるのか、注視する必要がある。
【参考記事】欧米で過激な政党が台頭する本当の理由
高まる移民票の重要度
15年に創設された移民の政党デンクは、主にトルコ系有権者の支持を受けて健闘し、3議席を獲得した。
民族性をはっきりと打ち出した政治運動がまれなオランダでは、デンクは珍しい存在だ。創設したのは、中道左派の労働党を離党した2人の議員だ。
この比較的新しい政党の成功は、自由党などによる反移民の主張が人種的少数派を投票所に向かわせたことを意味する。
[2017.3.28号掲載]
ジョシュ・ロウ