<昨年の大統領選で、トランプ陣営とロシアは協力関係にあったのか──世界を揺るがす疑惑についてFBI長官が「捜査中」と証言。トランプはじめ関係者は必死のディフェンス、あるいは焦点外しを試みた>
月曜に開かれた米下院情報特別委員会の公聴会は、いまだ明らかにされていない巨大な真実をめぐる知略の攻防第一回戦だった。誰もが保身に必死で、言動は矛盾だらけだ。いずれは真実の力が勝つと信じたい。
FBI(米連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官とNSA(国家安全保障局)のマイク・ロジャース長官は、ロシアが昨年の米大統領選に介入した問題ばかりでなく、それとトランプ陣営との関係について捜査が進んでいることを証言した。ドナルド・トランプ大統領の地位にも可能性がある重要事実だ。
コミーはトランプ陣営がロシア政府と共謀関係にあったかどうかを捜査中だと認め、捜査開始は昨年7月だったと明かした。米捜査当局は12月の時点で、ロシア政府には「アメリカの民主主義を傷つけ、クリントンを傷つけ、トランプを助ける」意図があったと強く確信していたとも証言した。捜査の詳細や捜査対象の人物に関しては「話せない」と繰り返したが、もしアメリカ国民がロシア政府と共謀して選挙に介入したのが事実なら「非常に深刻」だと述べた。それこそまさに捜査が必要な理由であり、メディアで渦巻くあらゆる疑惑の真相を明らかにすべきだ。
【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
コミーもロジャースも、オバマ前政権がトランプタワーを盗聴したと繰り返すドナルド・トランプ大統領の主張について、根拠がないと一蹴した。コミーはFBIと司法省の立場を代弁して、そのような疑惑を裏付ける証拠は存在しないと証言。ロジャースはさらに踏み込み、「英情報機関GCHQ(英国政府通信本部)が盗聴に関与した」とするトランプの主張をきっぱりと否定。オバマからそんな要請を受けた形跡はなく、あり得ない話だと切り捨てた。
【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治
コミーが進行中の捜査の詳細について頑なに口を閉ざしたのは、トランプ政権にとっては不気味だ。何かトランプ政権にとってよくない証拠を掴んでいるのかもしれない。
【参考記事】「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか
注目される矛盾点は以下の通り。
■ドナルド・トランプ大統領
ドナルドは公聴会のさなか、事実を歪曲し、コミーの証言でロシアが大統領選に干渉していなかったことが証明された、という趣旨のツイートをした。だがコミーは、ロシアが投票集計機を操作したことを示す証拠はない、と言ったにすぎない。
トランプのツイートについて聞かれたコミーは、ロシアが干渉していなかったと証言したのではないと明言した。その一方で、ロシアが米国世論の操作を狙い、民主党全国委員会(DNC)のメールをハッキングし、その内容を「ウィキリークス」に暴露した、とも証言している。
■ショーン・スパイサー報道官
オバマに盗聴されたとするトランプの主張をコミーが否定したことを受け、スパイサーはまだ公聴会が続いているうちに短い会見を開いた。オバマ前政権によるトランプタワーの盗聴疑惑については、コミーとロジャースだけでなく、ジェームズ・クラッパー前国家情報長官とGCHQもを否定している。だが、スパイサーはこれまでと同様、それだけではトランプの主張を事実無根と断定するには不十分だと言った。
一方、トランプの選挙活動においてロシアとの共謀があったとする主張については、これ以上調査する必要はないと述べた。スパイサーは、元トランプ選対委員長で、親ロシア派のウクライナ政治家とつながりのあるポール・マナフォートについて、驚くべき論理の飛躍を披露しながら、「(トランプ陣営では)ごく限られた期間に、ごく限られた役割しか担っていなかった」と説明した。この発言には、どの選挙参謀も驚くにちがいない。
セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と接触が明らかになり辞任させられたマイケル・フリンの役割についても実際より小さく扱い、単なるボランティアの1人だったと述べた。一時は国家安全保障担当大統領補佐官に就任したフリンが、政権移行期間から機密性の高い情報を入手できる立場にあったことを無視した発言だ。
■デビス・ヌネス下院情報委員会委員長(共和党)
下院情報委員会のデビン・ヌネス委員長(共和党)はオバマ前政権を批判した。公聴会の冒頭で、ロシア政府をひどく見くびっていたと糾弾したのだ。ヌネスはロシアの増長を許した民主党をやり玉にあげることで、共和党の伝統的な対ロシア強硬路線を放棄したトランプ政権に対する批判をかわしたのだ。
ヌネスは基本的に共和党のチーム・プレイヤーなので、トランプの疑惑について公平な調査を指揮できるはずがない。部下にあたる情報機関の職員に対して安心感を与えてくれる発言もほとんどなかった。
■トレイ・ゴウディ元下院ベンガジ特別委員会委員長
下院ベンガジ特別委員会の委員長を務めたトレイ・ゴウディは、フリンとロシアのキスリャクの会話がリークされたことに関して、コミーを執拗に追及した。ゴウディはこの点を懸念するあまりに、リーク元を突き止めてその「穴」を塞がなければ、外国情報監視法(FISA)702条にもとづく捜査網が危機に瀕するおそれがあるとまで主張した。
CIA職員4名が犠牲になったリビアのベンガジ事件をめぐっては、リークにまみれた調査が何カ月も行われたが、その時ゴウディがリークに対して同レベルの懸念を示したなら、今回の懸念にも一定の説得力はあっただろう。
■ジェームズ・コミーFBI長官
コミーは捜査内容に関する委員の質問に対し、たびたび回答を拒んだ。だが、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントンのメール問題に関しては、新たな証拠が見つかって捜査を再開することを、大統領選の11日前に、今回と同じ議員たちに通知している。この暴露により世論はトランプ有利に大きく傾いたが、結局、実質的な証拠は何も見つからなかった。驚いたことに、この扱いの差をコミーに質した委員は1人もいなかった。
【参考記事】クリントンよりトランプの肩を持ったFBI長官
【参考記事】メール問題、FBIはクリントンの足を引っ張ったのか?
From Foreign Policy Magazine
ミーケ・エーヤン
月曜に開かれた米下院情報特別委員会の公聴会は、いまだ明らかにされていない巨大な真実をめぐる知略の攻防第一回戦だった。誰もが保身に必死で、言動は矛盾だらけだ。いずれは真実の力が勝つと信じたい。
FBI(米連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官とNSA(国家安全保障局)のマイク・ロジャース長官は、ロシアが昨年の米大統領選に介入した問題ばかりでなく、それとトランプ陣営との関係について捜査が進んでいることを証言した。ドナルド・トランプ大統領の地位にも可能性がある重要事実だ。
コミーはトランプ陣営がロシア政府と共謀関係にあったかどうかを捜査中だと認め、捜査開始は昨年7月だったと明かした。米捜査当局は12月の時点で、ロシア政府には「アメリカの民主主義を傷つけ、クリントンを傷つけ、トランプを助ける」意図があったと強く確信していたとも証言した。捜査の詳細や捜査対象の人物に関しては「話せない」と繰り返したが、もしアメリカ国民がロシア政府と共謀して選挙に介入したのが事実なら「非常に深刻」だと述べた。それこそまさに捜査が必要な理由であり、メディアで渦巻くあらゆる疑惑の真相を明らかにすべきだ。
【参考記事】オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
コミーもロジャースも、オバマ前政権がトランプタワーを盗聴したと繰り返すドナルド・トランプ大統領の主張について、根拠がないと一蹴した。コミーはFBIと司法省の立場を代弁して、そのような疑惑を裏付ける証拠は存在しないと証言。ロジャースはさらに踏み込み、「英情報機関GCHQ(英国政府通信本部)が盗聴に関与した」とするトランプの主張をきっぱりと否定。オバマからそんな要請を受けた形跡はなく、あり得ない話だと切り捨てた。
【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治
コミーが進行中の捜査の詳細について頑なに口を閉ざしたのは、トランプ政権にとっては不気味だ。何かトランプ政権にとってよくない証拠を掴んでいるのかもしれない。
【参考記事】「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか
注目される矛盾点は以下の通り。
■ドナルド・トランプ大統領
ドナルドは公聴会のさなか、事実を歪曲し、コミーの証言でロシアが大統領選に干渉していなかったことが証明された、という趣旨のツイートをした。だがコミーは、ロシアが投票集計機を操作したことを示す証拠はない、と言ったにすぎない。
トランプのツイートについて聞かれたコミーは、ロシアが干渉していなかったと証言したのではないと明言した。その一方で、ロシアが米国世論の操作を狙い、民主党全国委員会(DNC)のメールをハッキングし、その内容を「ウィキリークス」に暴露した、とも証言している。
■ショーン・スパイサー報道官
オバマに盗聴されたとするトランプの主張をコミーが否定したことを受け、スパイサーはまだ公聴会が続いているうちに短い会見を開いた。オバマ前政権によるトランプタワーの盗聴疑惑については、コミーとロジャースだけでなく、ジェームズ・クラッパー前国家情報長官とGCHQもを否定している。だが、スパイサーはこれまでと同様、それだけではトランプの主張を事実無根と断定するには不十分だと言った。
一方、トランプの選挙活動においてロシアとの共謀があったとする主張については、これ以上調査する必要はないと述べた。スパイサーは、元トランプ選対委員長で、親ロシア派のウクライナ政治家とつながりのあるポール・マナフォートについて、驚くべき論理の飛躍を披露しながら、「(トランプ陣営では)ごく限られた期間に、ごく限られた役割しか担っていなかった」と説明した。この発言には、どの選挙参謀も驚くにちがいない。
セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使と接触が明らかになり辞任させられたマイケル・フリンの役割についても実際より小さく扱い、単なるボランティアの1人だったと述べた。一時は国家安全保障担当大統領補佐官に就任したフリンが、政権移行期間から機密性の高い情報を入手できる立場にあったことを無視した発言だ。
■デビス・ヌネス下院情報委員会委員長(共和党)
下院情報委員会のデビン・ヌネス委員長(共和党)はオバマ前政権を批判した。公聴会の冒頭で、ロシア政府をひどく見くびっていたと糾弾したのだ。ヌネスはロシアの増長を許した民主党をやり玉にあげることで、共和党の伝統的な対ロシア強硬路線を放棄したトランプ政権に対する批判をかわしたのだ。
ヌネスは基本的に共和党のチーム・プレイヤーなので、トランプの疑惑について公平な調査を指揮できるはずがない。部下にあたる情報機関の職員に対して安心感を与えてくれる発言もほとんどなかった。
■トレイ・ゴウディ元下院ベンガジ特別委員会委員長
下院ベンガジ特別委員会の委員長を務めたトレイ・ゴウディは、フリンとロシアのキスリャクの会話がリークされたことに関して、コミーを執拗に追及した。ゴウディはこの点を懸念するあまりに、リーク元を突き止めてその「穴」を塞がなければ、外国情報監視法(FISA)702条にもとづく捜査網が危機に瀕するおそれがあるとまで主張した。
CIA職員4名が犠牲になったリビアのベンガジ事件をめぐっては、リークにまみれた調査が何カ月も行われたが、その時ゴウディがリークに対して同レベルの懸念を示したなら、今回の懸念にも一定の説得力はあっただろう。
■ジェームズ・コミーFBI長官
コミーは捜査内容に関する委員の質問に対し、たびたび回答を拒んだ。だが、民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントンのメール問題に関しては、新たな証拠が見つかって捜査を再開することを、大統領選の11日前に、今回と同じ議員たちに通知している。この暴露により世論はトランプ有利に大きく傾いたが、結局、実質的な証拠は何も見つからなかった。驚いたことに、この扱いの差をコミーに質した委員は1人もいなかった。
【参考記事】クリントンよりトランプの肩を持ったFBI長官
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From Foreign Policy Magazine
ミーケ・エーヤン